キリング・フィールド・サップーケイ #5
(これまでのあらすじ:堕落武道家にニンジャソウルが憑依することによって生まれた邪悪な無所属ニンジャ、デソレイション。ニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジは、デソレイションが支配する暗黒コッポ・ドージョーに対するドージョー・ヤブリ・プロトコルを成功させ、門下生らの解放に成功した)
2012-10-13 22:38:14(これまでのあらすじ:だが後一歩で敵をスレイできるところで、同じくデソレイションを追っていた悪のニンジャ組織アマクダリ・セクトの刺客が、クローンヤクザ軍団を伴って乱入!フジキドはデソレイションを取り逃がしてしまう。窮地を逃れたデソレイションは、さらに厄介な敵へと成長を遂げ……)
2012-10-13 22:41:48雨は無く、時折強い風が吹く夜だった。赤黒いニンジャ装束を身に纏った男が、張り出した厳めしいシャチホコ・ガーゴイルの上に爪先立ちで座る。数年前、このビルの中階層で悲劇的な事故が起こった。一介のサラリマンであった彼の妻子はニンジャによって殺され、彼はニンジャを殺す者となったのだ。 2
2012-10-13 22:53:42フジキド・ケンジの目は、ネオンとLED文字の海に埋没する酷薄なメガロシティに注がれる。だが心はそこにない。彼の心は、ゼンめいた深い瞑想の中にあった。彼には定期的に、このような孤独な時間が必要であった。妻子の死を悼み、憎悪を新たにし、また己が何者なのかを問い直すための時間が。 3
2012-10-13 23:04:56「バゲン」「清算」「必ず買う」……スゴイタカイビルは、あの夜の惨劇などとうに忘れ去ったかのように、最新型オイランドロイドが微笑む商業垂幕を掲げている。売場拡張のために慰霊碑も撤去された。だがここは依然として彼の妻子の墓標であり、彼は墓守であり、ネオサイタマの死神なのであった。 4
2012-10-13 23:16:44あの夜……ニンジャ同士のマルノウチ抗争によって妻子を失った夜……瀕死のフジキド・ケンジは激しい憎悪と殺意によって生き伸び、妻子の仇のため全てのニンジャを殺すと誓った。その悲痛な叫びが邪悪なるナラク・ニンジャのソウルを招き寄せ、それがフジキド・ケンジを死の淵から救ったのだ。 5
2012-10-13 23:23:45一般的なニンジャソウル憑依者とは異なり強烈な自我を有していたナラク・ニンジャは、何度となくフジキドの肉体を乗っ取ろうと試みた。そして衝突が生まれた。だが長く過酷なイクサの中で……ラオモト・カンやザイバツ・シャドーギルドとの戦いを経て……両者のソウルはある種の和解を遂げたのだ。 6
2012-10-13 23:32:52(((ナラクよ、何故オヌシは、ザイバツとの最終決戦で鳴りを潜めていたのか……)))ジェット・パンクスの集団に取り付かれて破壊され、ワビサビめいて静かに墜落してゆくマグロ・ツェッペリンの一隻を彼方に見ながら、フジキドは独りごちる。答えは無い。サツバツとした風が吹き付けるのみ。 7
2012-10-13 23:41:40以前ならばナラク・ニンジャのソウルに完全に肉体を明け渡し、制御不能の暴走状態に陥っていたような状況下でも、現在ではフジキドが完全にニンジャスレイヤーとしての手綱を握っている。そんな時、フジキドとナラクの精神は、いわば高速回転するトモエ・パターンめいた神秘的共振状態にあるのだ。 8
2012-10-13 23:52:00共振は最大のカラテをもたらす。だが共振を深めるたび、彼の自我と人間性は蝕まれる……フジキドはそう感じていた。かつては完全なニンジャに変貌することをただ恐れた。ナラクの底知れぬ憎悪と暗黒をただ恐れた。今は違う。人間性を失えばアマクダリには勝てぬのではないかと彼は考え始めている。 9
2012-10-14 00:03:38ぼろぼろの鴉たちが、シャチホコ・ガーゴイルの口の中に突き刺されたニンジャの生首から肉を啄む。その中には、アマクダリの下部組織「サーカディアン・スリー」のニンジャ、ムーンビームとトワイライトの髑髏もある。……手強い相手であった。だが、アマクダリ・セクトの全貌は未だ見えない。 10
2012-10-14 00:11:29ソウカイヤの残党が結成したと思しきアマクダリは、ネオサイタマ全域を支配下に置く。だが敵は狡猾であり、いくらアマクダリ・ニンジャを拷問しても、ソウカイヤのように組織の秘密を吐くことはない。アマクダリ・アクシスと呼ばれる幹部級を探し出さねば、組織規模や本拠地すらも解らぬのだ。 11
2012-10-14 00:24:04フジキドの目は、遥か下方の商業LED文字板に、特徴的なカタカナ文字列が高速で流れるのを認めた。ナンシーからの暗号メッセージだ。読み解く。「ジェット・パンクスの首領がニンジャ可能性」。協力者である彼女は、暗黒非合法探偵イチロー・モリタへの依頼や情報をこうして伝えてくれるのだ。 12
2012-10-14 00:34:54短い瞑想の時間は終わりを告げた。迷いをイクサに持ち込めばブザマな死を招く。今はただ、ニンジャ殺すべし……!「Wasshoi!」ニンジャスレイヤーは全ての葛藤を振り払い、跳ぶ!極彩色のネオンの濁流の中へと! 13
2012-10-14 00:42:40ドッギュドッギュドッギュドッギュ……室内には非人間的なサイパーテクノのビートが流れる。「アイエエエエエ!」そして悲鳴!割られた窓からは強い風が吹き込み、蛍光ブルー色のカーテンを静かに揺らしていた。おお、ナムアミダブツ!暗い室内で、果たして何が起こっているというのか……!? 16
2012-10-14 01:03:13「アイエエエエエエ!」悲鳴の主はサイバーゴスDJのトバツである。その襟首を片手で掴んで吊り上げるのは……デソレイション!「奴の居所、吐け。ニンジャスレイヤーを。あの野郎を殺す」闇の中で真白いサイバネアイが輝く。「アイエエエエエ!?ニンジャナンデ!?そんな人知りません!」 17
2012-10-14 01:11:59「あのドージョー・ヤブリだ」デソレイションは舌打ちしながら問い直す。「アイエエエエエ!あいつの連絡先なんか知りません!私が呼んだんじゃないですから!」嘘ではなかった。トバツはあの日、受け取った連絡先情報を丸めて、オイシイ・スナックの袋と一緒に病院のゴミ箱に捨てていたからだ。 18
2012-10-14 01:18:54デソレイションは舌打ちした。殺されるな、とトバツは直感し、生存本能からニューロンが加速した「や……やっぱり知ってましたァーッ!だから殺さないで!」「言ってみろよ」「あ……あいつと連絡を取れる元門下生を知ってます!そいつが探偵を呼んだんです!その元門下生の居所、知ってます!」 19
2012-10-14 01:32:29殺し屋は元依頼人をテクノUNIXに向けて放り投げた。サイバーテクノBGMが鳴り止み、トバツの咳き込む音だけが室内に響いた。「こ……これで許してくれるんですよね!?あなた……殺し屋のタギ=サンは、仕事が終わったら依頼人の生活には立ち入らない……ポリシーだって聞きましたよ……」 20
2012-10-14 01:40:00そうだったろうかとタギ・トワは思考した。廃墟の中に唯一残された人間性の破片を、手探りで探し出すように。だがトバツの目と態度を見ると、胸を暴威の風が吹き抜け、思考は水に溶ける墨のように消え去った。覆面とタンクトップが一体化した黒い生成ニンジャ装束に骸骨めいた白い線が描かれた。 21
2012-10-14 01:54:27壊れたテクノUNIXがバチバチと火花を散らし、そのニンジャの上半身と無表情な顔を照らした。「アホウめが、おれの名はタギ・トワではない。おれはな、デソレイションだ……DESOLATION!」「アイエエエエエエエ!」死神が自分を見下ろしているように感じ、トバツは密かに失禁した。 22
2012-10-14 01:59:48