呟きSS(人外×少女)

人外×少女くれ…
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飼われ人外×飼い主少女

乃井 @no_el_ty

「おまえは、己れのようなもののどこが好きなんだ」 ぞろりと長い指がわたしの頬を撫でた。長くて鋭い爪が肌を傷つけなくなってようやく一年になる。人よりもずっと冷たい手。心地よい。 「自分を卑下するのはあなたのよくないクセよ」

2012-10-18 00:33:26
乃井 @no_el_ty

「お前たちから見れば己れはただの化け物だろうに」「化け物の指はもっと多くて不気味なものだわ。手足がふたつづつ、口がひとつでわたしたちとあまり変わらない」「お前たちに目は四つもない」「視力が落ちたら専用のめがねが必要ってだけじゃないの」「………」

2012-10-18 00:36:45
乃井 @no_el_ty

「あなたたちを力で捻じ伏せて飼ってる、人間のほうがよっぽど化け物のようにおそろしい異形の精神を宿しているじゃないの」「…人間を卑下するのはお前の悪いクセだな」「ふふ。あなたをあいしているのだもの、いとしい化け物(ひと)」「……ああ、己れもあいしてるよ、いとしい人間(ばけもの)」

2012-10-18 00:41:01
乃井 @no_el_ty

みたいな飼われ人外×飼い主少女くれよ。

2012-10-18 00:41:19

竜←魔女(元人間)

乃井 @no_el_ty

彼の口の中は生暖かくて生臭い。それを感じることで、ああ、私も彼も生きているんだなあ――としみじみ思う。 「…前々から思ってはいたんだが、イーディケ」「なあに?ロルフ」「馬鹿だろう、お前」「ひどい!数百年に渡るお友達に向かってなんたる言い草なの!?」「お友達になった覚えはないぞ…」

2012-10-18 01:29:39
乃井 @no_el_ty

口を閉じたまま器用に喋ってみせる竜の声は、最初こそ奇妙な気持ちで聞いたものだけど、今や聞き慣れたものだ。その声音から、彼が今どんな顔をしているのかもありありと想像できる。不可解だという風に瞬きをして、銀の星の散る緑色の瞳をきらきらさせている。彼は私に会うと、そんな顔ばかりする。

2012-10-18 01:35:48
乃井 @no_el_ty

「数百年に渡る人生…いや、魔女生か?そのせいで脳味噌が腐れてきたのだろう。だから最近馬鹿みたいなことをしたがるのだ」「数百年に渡る魔女生のせいで生の実感が薄れてきたからこうして確認しているだけじゃないの」「だからってどうして口の中なのだ」「あなたの鱗は冷たいのだもの」

2012-10-18 01:37:52
乃井 @no_el_ty

はあ、と肺から息が押し出されてくる。飛ばされそうになって、慌てて牙に摑まった。 「…だからあのとき、もっとよく考えてから行動しろと言ったのだ」「………」 ありったけの力をもって、巨大な舌を抓った。 「ぎゃあっ!?」「…あのとき私が何も考えられなかったのは、誰のせいだと思って?」

2012-10-18 01:42:47
乃井 @no_el_ty

「――とのせ―に――るな!」 耳を劈いた悲鳴のせいで、彼の文句はよく聞こえない。好都合だ。 「私を盲目にしてくれたのは、どこのどなた?」「――がか――にす――のだろうが!」「あなたよ、ロルフ。大好きなの。…なのにあなた、私が短命の人間だからって、お友達にもなってくれないのだもの」

2012-10-18 01:46:56
乃井 @no_el_ty

わめき声がぴたりと止んだ。困ったような鼻息が聞こえた。 「あなたのせいよ、ロルフ。青春の真っ只中に変な本ばかり読んだのも、悪魔に体を開いたのも、心臓を取り出してあなたのお腹に封印して、あのときのままで自分の時を止めてしまったのも。ロルフ、大好きな大好きなあなたと一緒にいたいせい」

2012-10-18 01:51:07
乃井 @no_el_ty

「…イーディケ、フリーデリーケ。いい加減に許して、聞き分けてくれ。我輩には――竜には、ヒトの言う『好き』は理解らないのだ」「好きがわからないくせに、短命の種との別れを悲しむなんて、まったく竜なんて生物は理解できない!でも私はあなたが好きなのよ!ロルフ!」

2012-10-18 01:56:16
乃井 @no_el_ty

わかっている。何度想いを伝えても、決して彼には届かないことを。竜のそれと、ヒトのそれは違うのだということを――魔女になって、私は知った。 「…応えられぬと言っているのに」「少しでも後ろめたいのなら、せめてお口の中で過ごさせてくれる、よいお友達でいて頂戴よ」「………」

2012-10-18 01:58:57
乃井 @no_el_ty

二度目の溜息は鼻から抜けていった。怒ったのか、あきれたのか、ロルフはそれ以上何も言わず、私の乗っている舌を軽く揺すりはじめた。私は悲しいやら嬉しいやら、涙の毀れそうな目を閉じて、眠ってしまおうと思った。

2012-10-18 02:00:50

その後を妄想

乃井 @no_el_ty

「好きだ」「…えっ?」「好きだ、イーディケ」「…とうとう頭がおかしくなっちゃったの?」「お前をこうして口の中に入れていると心臓が跳ねる。…それはつまり恋ではないかと言われた」「…ねえロルフ、きっとあなた、わたしの心臓が跳ねるのを、自分の心臓が跳ねるのとを勘違いしているのよ」

2013-05-20 18:12:59
乃井 @no_el_ty

「なによ。数百年も『好き』だなんて一言も言わなかったくせに。思ったこともなかったくせに。人の『好き』だなんて理解できないって言ってたくせに。ふん!なによ!長すぎるのよ!」 …みたいに言った次の日あたりに勇者一行にエンカウントして殺されるんだな。別に悪役じゃないんだけど。

2013-05-20 18:15:37

夢魔と少女

乃井 @no_el_ty

病院に運ばれた昏睡状態の少女の夢に、夢魔がやってきて、素敵な夢を見せる代わりに残りの生気をくれと言う。少女は、自分は親に育児放棄されて栄養失調で倒れた、痩せこけていてみすぼらしくて醜い顔貌をしているし、外にも出たことがないから恋も知らない、だから幸せな恋をする夢が見たいと願う。

2014-05-21 12:54:09
乃井 @no_el_ty

夢魔は少女を美しい姿に変えて、自分が恋人として、少女に幸せな夢を見せる。そうして付き合っていくうちに、少女に心から惹かれてしまった夢魔は、そろそろ生気の尽きそうな少女を、起こすかどうか、迷う。 「美しい姿だから愛せているのではないだろうか。夢から覚めた彼女を愛せるだろうか」

2014-05-21 12:56:38
乃井 @no_el_ty

少女は少女で、夢魔を心から愛していて、眠りながら死んでもいいな、から、目覚めて彼と一緒に行きたいな、と思うようになる。 「けれど、目覚めた醜いわたしを、彼は今のまま愛してくれるかしら」

2014-05-21 12:58:09
乃井 @no_el_ty

ずるずると少女は目覚めないまま、やがて死んでしまって、夢魔は夢の外に出る。痩せて醜い少女が霊安室の硬い台に横たわっているのを見下ろす、不定形の影がそこにあった。

2014-05-21 13:00:32

狐の婿取りあらため嫁取り

乃井 @no_el_ty

「久しぶりだな」「誰ですか」「約束通り迎えに来たぞ」「会った覚えもないのに約束なんてしてません」「覚えてないのか」「知りませんったら」「一緒に毛糸の花でカエル釣ったりしただろう」「誰かと間違えてますよ絶対」「共に野を駆け回ったじゃないか」「わたしは小さい頃からインドア派なんです」

2014-06-13 16:19:25