〔AR〕その20

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:その19(http://togetter.com/li/392477) 続きを読む
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BIONET @BIONET_

「ふんふんふ~ん♪」 目の前の鏡に跳ね返るくらい調子のよい鼻歌を響かせて、阿求は服に袖を通す。 それは普段から身につけているような和服ではない。秋冬もののやや厚手な花柄のカーディガンだ。内側に純白のワイシャツを組み合わせている。

2012-10-20 21:05:57
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「ちょっと袖が長いかなぁ。でも、とても軽いっ」 鏡に映る己の上半身を、阿求は嬉しそうに検分する。そして次に、足下に折り畳んでいたプリーツスカートを、腰元に合わせた。 「こっちの裾は大丈夫そう。色合いも悪くないし、この組み合わせは候補の一つね。さぁ次は――」

2012-10-20 21:08:56
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阿求は、満足した表情でスカートを畳み直し、足下に置いた。そしてカーディガンを脱ぎながら、今は障子戸が閉じた縁側に向けて声を上げた。 「すみませ~ん! 着物の着付けを手伝っていただきたいのですが……」 「お安い御用ですわ」 「みぎゃー!?」

2012-10-20 21:09:11
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阿求の声が屋敷の女中に届くよりも前に、障子戸の隙間にスキマが開き、その内側から八雲紫が出現した。唐突な出現に驚いた阿求は、バナナを踏んで滑ったかのような勢いで、尻餅をついた。 「ごきげんよう。お色直しの最中失礼しますわ」

2012-10-20 21:11:55
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「お、お久しぶりです……せめて障子戸の外から声をかけてください……毎度毎度心臓に悪いですよ」 「あら、声は障子戸の外から発しましたよ?」 「タイムラグがなさすぎますって!」 そこで阿求は紫の視線に気づく。つっこみを入れる阿求に対して、紫は違うものを見ているように感じられた。

2012-10-20 21:12:23
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「貴方、ショーツなんて持ってたのね」 「昨年の誕生日に紫様から頂いたもので……ッ!!」 自分の今の姿に気付いた阿求は、顔を真っ赤にし、あわてて足下のスカートをたぐり寄せて、下半身を覆った。 「ああ、そうだったわ。貴方ほど記憶力がよろしくないものでして」 「う、うう……」

2012-10-20 21:12:45
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「まぁまぁ、女同士なんですもの。下着や裸体を見られた程度、蚊に刺された程度でもないでしょう」 「まぁ……そうですが……」 だが、阿求はなんとなく納得がいかない。どうにも、この妖怪の好奇の目で見られるのと、他の女性から見られるのとでは、天と地ほどの差があるように感じられる。

2012-10-20 21:13:49
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「秋も深まり、日中でも冷えてくる頃です。早く服を着なければ。眼福のお礼に、着物を着させてあげましょう」 「……あんまり触らないでくださいよ?」 阿求は立ち上がって、箪笥の上に置いていた着物を紫に差し出す。

2012-10-20 21:14:22
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紫がそれを広げる間に、阿求はスカートとワイシャツを脱ぐと共に畳んで、着物と入れ替えるように箪笥の上に乗せた。 「そのブラも、私の贈り物だったわよね」 「そうですね。一式セットのを三色頂きました。普段は着けませんけれども、洋服の時はそちらのほうが都合がいいです」

2012-10-20 21:14:38
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「下はともかく、上はさらしに代えなくてよいの?」 「着心地を確認するだけですから、代えるのは脱いだ後ですね」 「わかったわ」 阿求は、紫に背を向けて両腕を持ち上げる。それに合わせて紫は、開いた着物を阿求に纏わせていく。

2012-10-20 21:15:03
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本格的な和服の着付けというのは時間がかかるものだが、どういう手管を用いたのか、紫の手によるそれは、瞬く間のうちに終わった。 「……なんか、手の数が明らかに二本を超えていた気がするのですが」 「気のせいよ」 何ともいえない気色悪さの余韻をぬぐい去りながら、阿求は鏡の前に立った。

2012-10-20 21:15:29
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「秋の花が盛りだくさんね。普段に比べたら随分派手なこと」 「秋祭りに着ていくつもりですから、これくらいでもいいかなぁと」 「祭り?」 紫は少し怪訝な顔で訊ねる。紫が阿求に着させた衣装は厚手な作りで、きっちりとした着付けを要するものであり、騒がしい祭りに着ていくようなものではない。

2012-10-20 21:17:03
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結婚式などの式典に着ていくならまだしも、夏祭りの浴衣とは訳が違う。 「今度の秋祭りに着ていく服を選んでいたのですよ。この服はお気に入りなんですが、変ですかね」 「秋祭りって、大通りが屋台と人混みで占拠されるでしょ? その中を着物で歩くのは、無謀よ」

2012-10-20 21:19:15
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「うーん、やっぱりそうですか。そうなると洋服を着ていった方がいいかなぁ」 「貴方が洋装で出歩くというのも、私からすれば不思議に映るのだけど……そんなにめかしこんでどうするというの?」

2012-10-20 21:19:56
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「それには順序立てて説明が……って、その前に紫様。今日は一体どのようなご用件で? 本当に久しぶりに来たかと思えば、堂々と覗きをされるなどと」 阿求の言う通り、紫とはしばらく顔を合わせていなかった。今年初めの三者会談や幻想郷縁起の再編にも、紫が姿を現していない。

2012-10-20 21:20:43
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バイオネットがらみでも、最初に端末を押し付けてきた後は、式神の藍を遣わせてきただけであった。 「覗きとは心外ね。ようやく暇を作ったので、少々顔見せにやってきたのですわ」

2012-10-20 21:26:55
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「お忙しいとは聞いていましたが……私の部屋で立ち話というのもなんですし、客間の方でお茶でもどうですか? 私が着替えるまでそちらでお待ちになってください」 「あら、普段着の着付けはよくて?」

2012-10-20 21:27:09
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紫が薄ら笑いで両手をわきわきと動かすのを見て、阿求は冷や汗をかきながら言った。 「そっちはいつも一人で身につけていますから、先に行っていてください」 「ちぇ~」

2012-10-20 21:27:28
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十分ほど経って、阿求は客間に座っていた紫と改めて対面した。 「さて、何から話をすればいいのやら」 「じゃあ、私の方から先に連絡事項でも」  紫は阿求の淹れた紅茶のカップを揺らしながら、口を開いた。 「貴方にはちょっと残念なお知らせだけれど、近日バイオネットの一時休止を行います」

2012-10-22 20:01:21
BIONET @BIONET_

「へ? どういうことですか?」 「ちょっと問題が発生してねぇ。今のままだとバイオネットの利用に支障を来すかもしれないから、一度全システムを停止させ、点検等をしないといけなくなったのよ」 「なんと……」

2012-10-22 20:02:07
BIONET @BIONET_

面食らった阿求は、少し言葉に詰まった。今や毎日のように利用していたあのバイオネットが、もうすぐ使えなくなるなどとは、想像すらしていなかった。

2012-10-22 20:02:32
BIONET @BIONET_

「あ、この話はオフレコで。開始当初から携わっている貴方には先んじて教えておいた方がよいと思ったのだけど、予定では、バイオネットの休止宣言は花果子念報から発表されることにしているから。それまでは一応黙っておいてね」 「そりゃまた、なんでです?」

2012-10-22 20:02:44
BIONET @BIONET_

「ちょっとコネを作らせてあげただけのこと。時間差ですぐバイオネット上でも同じ情報が流れるから、周知については問題ないわ。全システム停止の一週間前に告知し、システム停止は、神無月の晦日……つまり今月いっぱいということね」 「ううん……一時休止と言うことは、再開はするんですよね?」

2012-10-22 20:03:29