茂木健一郎氏 @kenichiromogi 【focusing illusion（フォーカシング・イリュージョン）】連続ツイート

茂木健一郎 @kenichiromogi

滞在中のシチリア島タオルミーナから、連続ツイート第７５３回をお届けします。文章は、その場で即興で書いています。本日も、引き続いて、日本を元気にするツイートシリーズ！　

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うし（１）私の畏友に、塩谷賢という哲学者がいる。１８歳の時に駒場キャンパスで出会って、その圧倒的な知性と、巨大な身体に呆然とした。これくらいのやつはどこにでもいるだろうと思っていたが、その後も出会っていない。今は、フリーランスで哲学者をしている。愛称「おしらさま」。

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うし（２）塩谷は、いつも難しいことをぶつぶつ考えている。彼の専門は「時間論」で、周知の通りすべてのテーマの中で最も難しい。従ってなかなか解けない。ある時、塩谷は、時間の哲学について考えていて、どうにも行き詰まってしまって、人生に絶望してしまったのだという。かわいそうな塩谷！

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うし（３）時間論の哲学に行き詰まった塩谷は、学会で京都に行った。京都で、うまい天ぷらを食べた。そしたら、「時間とは何ぞや」と考えて行き詰まっていた気持ちが、ぱーっと明るくなってしまった。時間の謎は解けなかったが、天ぷらを食べて、ハッピーになってしまったのである。

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うし（４）そんなバカな、お前は、「時間とは何か」について悩んでいたんじゃなかったのか、なぜ、天ぷらを食べて直ってしまうのか、と鋭い突っ込みがありそうだが、人間とはそういうものなのだ、と答える以外にないだろう。脳と身体はつながっていて、全然別の回路から解決することもあるのだ。

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うし（５）哲学上の悩みが、うまいものを食べると解決する。ここには、幸せの知覚におけるfocusing illusionと呼ばれる現象が関係している。自分の幸せが、特定の条件で支配されてしまうと思い込んでしまう。恋愛や、受験、仕事などが典型例だが、塩谷の場合は、時間論哲学だった。

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うし（６）イタリアを旅していて、特にシチリアに来たあとにつくづく思う。イタリア経済は悪いという。特にシチリアはまずしいという。だから、「ゴッドファーザー」で描かれたようなマフィアも生まれた。しかし、人々は幸せそうだ。ごく普通のものが、当たり前にうまい。みんなニコニコしている。

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うし（７）塩谷が時間論の哲学にこだわるのは、変わり者だから、ということになるだろうが、もっと普通の条件だったらどうか。経済成長とか、政治とか。focusing illusionは、社会の至るところにある。そのようなものから自分を守り、自由になることが、幸せへの一番の道だろう。

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うし（８）今日、私はシラクサに日帰りする。哲学者／数学者のアルキメデスが生まれた土地だそうだ。地中海の空気は、ものごとを考えるには適している。クオリアや志向性、自由意志、意識の問題について何らかのインスピレーションがあればと思うが、なくてもうまいもの食って寝ちまおう。

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うし（９）アメリカ大統領線挙のディベートの後、オバマ、ロムニーそれぞれの家族や友人？　がステージに出てきてハグしたりしていた。両者の幸せだって、大統領選挙の結果だけで決まるんじゃない。一つのことにこだわって、自分の人生はそれ、と考えている人は、きっと、ものすごく損している。

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以上、連続ツイート第７５３回「うまいものを食べると、幸せになるよ」でした。