〔AR〕その21後半

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:その21前半(http://togetter.com/li/395383) 続きを読む
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BIONET @BIONET_

何だ。 何なのだ。 目の前のこの少女は、一体何なのだ? 四つん這いのまま身動きができない。さとりは、まるで少女の視線で釘付けにされているようだった。 いや、まさしく、だ。さとりは、この白薔薇の生花を髪にさした、二十歳にも満たない紅顔の少女を見て、体が動かなくなったのだ。

2012-10-26 20:31:48
BIONET @BIONET_

先ほど飛翔してきた時、突如頭に衝撃が走った。死角から何かが当たったか、それとも何者かに襲撃されたか。身を起こす直前まで、さとりはそのような予測を立てていた。 だがそれらは全くの的外れだった。

2012-10-26 20:32:56
BIONET @BIONET_

さとりが読みとる他者の心というのは、その者の顕在意識が基本となる。本人が普段意識していなかったり認識できない記憶を読みとることはできず、それらを掘り返すには、催眠術で潜在意識をくみ出す必要がある。

2012-10-26 20:33:21
BIONET @BIONET_

人間をはじめとするある程度以上の知的生命体は、顕在意識だけでも、常に様々なことを思考しており、一枚岩ではない。人間は口に出す言葉と別の事柄を心に秘めることができ、だからこそさとりに心を読まれるを恐れられる。

2012-10-26 20:33:39
BIONET @BIONET_

さとりとは、覚妖怪とは、そのような複雑な意識を受信できる生き物というわけだ。知的生命体の意識は、ただ生きているだけで相当な情報量を湛えているのだが、覚妖怪は、それを受け止められるだけの耐性をもっているということだ。

2012-10-26 20:33:55
BIONET @BIONET_

だが、さとりは、彼女に意識を向けただけで、墜落してしまうほどの精神的ダメージを被った。 驚愕以外の何があろう。 数え切れないほどの人妖が、あらんかぎりにはしゃぎ回るこの祭りの喧噪よりも。 目の前の少女が顕在意識に抱える情報量は、破滅的に上回っているのだ。

2012-10-26 20:34:28
BIONET @BIONET_

その現実が、信じられない。さとりには、彼女が人間に思えなかった。いや、この世に生きている生命体であることさえ疑わしいレベルだった。サウナと形容していた祭りの熱気による重圧など、比較にもなりはしない。 「ハァー! ハァー!」

2012-10-26 20:35:10
BIONET @BIONET_

今度はさとりの肉体の方が悲鳴を上げだした。あまりの衝撃に呼吸を忘れたため、さとりの自律神経は酸欠を訴え、無理矢理肺を稼働させる。それが、過呼吸を誘発させるのもかまわずに。 突如として息を荒らげだしたさとりを見て、阿求は金縛りから解放されたように後ずさった。青ざめている。

2012-10-26 20:36:29
BIONET @BIONET_

(何? 何なの? どういうことなのこれ? いきなり息を乱してなんなの!?) まだ、体がうまく言うことを聞かない。 (に、逃げ……) 「ゲホッ、ゲホッ……ま、まって……」 「ひっ!」 阿求のこらえきれない悲鳴が走った。それはさとりの聴覚を強烈につんざく。音が大きかったからではない。

2012-10-26 20:37:02
BIONET @BIONET_

(恐怖、している) ようやく酸素が行き渡り始めた思考の一部で、さとりは忌まわしい感情をくすぶらせた。 その一方で、さとりは事態を好転に向かわせようと、必死に言葉を考える。 (なんとか、落ち着かせないと……) できるか? 彼女は、自分の名前を口走った。

2012-10-26 20:37:46
BIONET @BIONET_

おそらく、彼女にはもう覚妖怪であることはばれている。それに彼女がおびえていることは日をみるより明らかだ。 だが、彼女こそが、さとりが逢いたかった『Initial A』であり、自分は『Surplus R』なのだ。その事実は違えようがない。

2012-10-26 20:38:21
BIONET @BIONET_

覚妖怪であることが知られたのならば、もはや開き直るしかない。恐怖されるのは慣れている。それは甘んじて受け入れよう。 それよりも、自分の方が少女の特異性に気づかない振りをした方が良いだろう。さとりは、カメラのレンズを絞るように、あえて少女から焦点を外し、直視しないようにした。

2012-10-26 20:38:50
BIONET @BIONET_

しかし、満足に相手の心が読めないというのは、こいしをのぞくと初めての体験かもしれない。まともに心が読めていない証拠に、未だ、さとりはこの少女の名前を知らない。 とりあえず、どうする? さとりは立ち上がった。 「は、初めまして……『Surplus R』こと、古明地さとりです」

2012-10-26 20:39:18
BIONET @BIONET_

震える舌で、さとりは名乗った。それと共に、懐から『Initial A』のサインが書かれた札を取り出す。 そのサインを見た少女――阿求は、ビクリと肩を震わせた。が、少し落ち着きを取り戻したのか、手にしていた『Surplus R』のサインの札を胸元に掲げ、口を開いた。

2012-10-26 20:39:44
BIONET @BIONET_

「初めまして……『Initial A』こと、稗田阿求と申します」 稗田阿求。さとりはすぐに思い当たった。 そうか、彼女こそが、幻想郷縁起とやらを書きおこし、妖怪の情報を纏めている地上の人間であったのか。さとりはいろいろと合点が行った。

2012-10-26 20:40:15
BIONET @BIONET_

「稗田阿求……貴方が、そうでしたか。うちの妹やペットが、お世話になったようで」 「ああ、はい……古明地さん、貴方のことは、こいしさん達から伺ってます」 「恐ろしい妖怪であると、聞いていたり?」 その言葉に阿求が固唾を飲んだ。さとりはしまった、と内心舌打ちする。

2012-10-26 20:41:02
BIONET @BIONET_

人間と話す際の、相手を脅かそうとする癖が出た。もはやばれてしまったとはいえ、この少女をいたずらに刺激するのはさとりの望むところではない。 「ええと、とても動物好きで優しいお姉さんだと」〔っと言っておけばいいかな? 実際こいしさんはそう言ってたし〕  「ま、まぁ、あの子ってば」

2012-10-26 20:42:06
BIONET @BIONET_

なんとか話が通じるようになったためか、さとりは阿求の心を少しずつ読めるようになっていた。言葉に付随する裏心であれば、すぐに理解できる。 ただ、依然として阿求が凄まじい情報密度の固まりであることに変わりはない。

2012-10-26 20:42:31
BIONET @BIONET_

一度認識してしまったがために、もはや目線を合わせないようにする程度では、彼女の発する記憶の圧力を無視することはできない。 「きょ、今日はその、お祭りに誘っていただいてありがとうございます。地上に出てくるのは、本当に久しぶりでして……」

2012-10-26 20:43:09
BIONET @BIONET_

「あ、はい! こちらこそ、来て頂きまして……」〔この人が、『Surplus R』先生?〕  (この人が、『Surplus R』先生?) 阿求はようやく落ち着きを見せていたが、洋服の下は冷や汗でぐっしょりだった。

2012-10-26 20:43:28
BIONET @BIONET_

祭りの数日前、アリスとこいしとの会話で、一瞬よぎった不吉な予想。その時は、アリスが推理を霧散させたことで、阿求の不安も消えた。 しかし、現実は運命の悪戯の織りなす有様だった。阿求にとって、『Surplus R』が古明地さとりであったことは、都合の悪いどころの話ではなかった。

2012-10-26 20:44:20
BIONET @BIONET_

覚妖怪の恐ろしさは、身に染みるように知っている。覚妖怪は、人間の心を次々に読み当て、その度に魂を奪っていく妖怪だ。覚妖怪を退治するには、無意識の力に運が向いてくれるか、真実無我の境地でもって望む他ない。そのようなことは、阿求のみならず、通常の人間には不可能だ。

2012-10-26 20:44:44
BIONET @BIONET_

あるいは、先代の誰かが、覚妖怪に襲われた経験があるのではないかと思えるくらい、遺伝的な恐怖を感じる。阿求にとっては、鬼や天狗以上に恐るべき相手の一つであった。

2012-10-26 20:45:11
BIONET @BIONET_

それが今、自分のすぐ目の前にいる。そればかりか、こともあろうにその覚妖怪こそが、阿求が恋い焦がれてやまなかった憧れの人物だったなどと。ショックという言葉で言い表されるものではない。

2012-10-26 20:45:42
BIONET @BIONET_

どうする? どうすればいい? 幸い少し走れば周囲には人がいる。助けを求めることはできるだろう。今回の祭りは警邏として博麗の巫女も引っ張られてきて――。 「あの、その、稗田さん」 「あ、はい! 何でしょう?」〔に、逃げられない!?〕

2012-10-26 20:46:34
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