鳥山仁さんによる「ライトノベルレーベルが駄目になっていく過程」と「キャラの描き分け」の話

興味深い話だったのでメモ代わりにまとめさせて頂きました。
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鳥山仁 @toriyamazine

(1)先日、出版業界の大先輩にお誘いを受けて食事をご馳走になったのだが、その際に「某社で3年かけてライトノベルレーベルが駄目になっていく過程」の話が出て、その本当の駄目っぷりに震え上がる。私自身も編集&作家なので他人事ではない。まず、何度も書いていることだが……

2012-10-31 13:40:03
鳥山仁 @toriyamazine

(2)学校の授業では読書感想文と小論文の練習はやっても、小説に必要な情景描写・行動描写の練習はやらないので、作家志望はおろかプロの作家でも文章力は概ね低く、特に娯楽系の場合は編集者が校閲に近い形で介入しない限り商業レベルの文章になる可能性はほとんどない。つまり……

2012-10-31 13:42:07
鳥山仁 @toriyamazine

(3)……「話は面白いけど、文章はちょっと下手」という人を編集がサジェスチョンして商業作品に変えていくのが一般的なやり方だ。ということは、裏返せば編集者は行動描写と情景描写の書き方が判っているか、最悪でも「どこを見ればいいか?」が判っている必要があると言う事になる。ところが……

2012-10-31 13:44:15
鳥山仁 @toriyamazine

(4)……肝心の本人達に、そのスキルがなければ、当たり前の話だけどいつまで経っても下手くそな文章が直ってこないという「地獄の悪循環」が待ち構えており、その結果は売り上げ低下→レーベル消滅という、お決まりのコースである。まあ、イラストでなんとか保たせる方法もあるけど……

2012-10-31 13:47:00
鳥山仁 @toriyamazine

(5)……読者も馬鹿じゃないので、だいたい2年から3年で愛想を尽かして買わなくなるのでレーベルが消滅するわけだ。ちなみに、デビュー時の文章力に関してほぼ修正の必要がないと私が思った作家は、ここ5年前後では 笛地静恵氏のみ。マイナージャンルな方なので知名度は低いが……

2012-10-31 13:51:42
鳥山仁 @toriyamazine

(6)……明らかに研鑽を重ねたタイプの文体で、ああいう作家さんの文章を読めるのは、編集と言うよりも読者として嬉しい感じだ。しかし、裏返せば「最初から文章が上手い」作家なんて数えるほどなんだから、編集が出版にこぎ着けるまで修正作業は避けられないのと同義でもある。

2012-10-31 13:55:49
鳥山仁 @toriyamazine

(7)それでは、文章のどこを見ていけば良いのかというと、まず何はともあれ「新キャラクターが登場した前後」である。ここは、読むのを中断して読み返す必要がある。つまり、作家の大半は複数のキャラクターが登場した際に、業界では「描き分け」、正確には「行動描写」ができなくなり……

2012-10-31 14:00:04
鳥山仁 @toriyamazine

(8)……パニックを起こして文章がおかしくなる。下手な作家だと、Aという主人公が一人称で一人語りをしているシーンは問題無いのに、Bという新キャラが出た瞬間から文章が崩壊する。1つの文章に2人のキャラクターの行動を同時に書こうとして、何が何だか自分でも訳が分からなくなるからだ。

2012-10-31 14:02:25
鳥山仁 @toriyamazine

(9)ちなみに、平均的な文章力の作家なら3人目、少し高い作家でも4人目あたりから行動描写が怪しくなってくる。特に主語を省略し、一文を短く切るタイプの作家は「誰が何をやっているのか判らない」というオマケまでついてくる。そして、主語をくっつけると詩的な感覚が失われるので……

2012-10-31 14:07:51
鳥山仁 @toriyamazine

(10)……実は省略形を多用して文章を読みやすく見せていただけだったという事実が発覚する。こうならないためには、もう粗筋の段階で複数の登場人物が入り乱れるシーンが出てこないように作家に釘を刺すか、登場人物の数を最初から減らすしか予防方法がない。これを野放しにしておけば……

2012-10-31 14:10:13
鳥山仁 @toriyamazine

(11)……確実に文章直しだけで編集が時間を取られるし、編集に直せないと後はゴミみたいな小説が残るだけだ。次に注意しなければならないのは、作家が「主人公の成長を描きたい」と言いだした時で、ほぼ100%の確率で、「単に途中で主人公の人格が変わるだけ」の話に終わる。

2012-10-31 14:13:43
鳥山仁 @toriyamazine

(12)この失敗も何十回も見ているが、文章力がそこそこある作家さんですら「成長モノ」をやると、ただの「人格豹変」にしかならない。理由? 読者にとって架空の登場人物など他人に過ぎないのだから、成長したかどうかなんて判りようがないからだ。こんな単純な事実も視野狭窄になると失念される。

2012-10-31 14:17:48
鳥山仁 @toriyamazine

(13)他にも失敗していく小説のレーベルのプロセスはいっぱいあるのだが、話を聞くだけで耳が痛いというか「もう勘弁してください」状態ですっかり消耗した。他人事じゃないと、「他人の不幸は蜜の味」にはならんのだよねえ……。

2012-10-31 14:19:41