お題リレー？小説

永野水貴＠1/15新作「半翼の逃亡者」発 @nagano_mizuki

いきなり難易度たかっ！！ＲＴ nagano_mizukiさんは、「早朝の草原」で登場人物が「キスをする」、「手錠」という単語を使ったお話を考えて下さい。 http://shindanmaker.com/28927

永野水貴＠1/15新作「半翼の逃亡者」発 @nagano_mizuki

光が世界を浸食する。ざわり、と草が波打つ。戒められた両手をわずかに動かすと、皮膚が少しこすれた。私は目を開けて、ゆっくりと私を食む男を見つめていた。美しい男だった。私はふいに、射殺された獣を想像した。手足を縛られ運ばれてゆく食物。それと今の自分に、どんな違いがあるだろう。

本宮ことは @kotoha_motomiya

@nagano_mizuki 男がゆっくりと唇を離した。唾液が一瞬つい、と銀の糸をひく。ああやはり私は彼に食べられていたのだ、と思う。これは愛の行為などではない。単なる給餌の一種。「もう暴れないのか？」　私の様子を観察するように、男は黒い瞳に剣呑な光を湛えたまま言った。

本宮ことは @kotoha_motomiya

暴れてもどうにもならないことを、たった今圧倒的な力の差で思い知らせたばかりだというのに、そんなこと言うのかこの男は。私は無言で男を睨み付けた。唯一自由になる視線に軽蔑と嫌悪と抵抗――心まではおまえのものにならない――という思いを込めて。「……いい目だ」　男は満足したように言った。

永野水貴＠1/15新作「半翼の逃亡者」発 @nagano_mizuki

生まれついての征服者である男にとって、媚態や従順はおろか、反抗すら飽いた反応であったのかもしれない。ならば単純に、この男は抵抗する人間を見るのが好きなのだろう。珍獣を愛でるのと同様に。敗北を知らぬ男に向け、私はただ一言だけ絞り出す。「約束は守れ」

本宮ことは @kotoha_motomiya

「約束とはなんだ？」　冷酷に告げられた言葉に、全身の血が逆流しそうになった。怒りで目の前が真っ赤に染まる。同時に、自分がそれまで如何にその約束に依存していたのかを知った。甘かった。私は思わず唇を噛む。こんな男との口約束を信じ込んでしまうなんて。すると――「勘違いするな」

本宮ことは @kotoha_motomiya

男がふっと唇の端を歪めて笑った。「俺は今まで誰とも約束なぞ交わしたことはない。何故なら、俺はこの草原の王。俺がなにかを言った時点で、その言葉は絶対だ。けっして覆されることはない。約束などという安い言葉に縛られずとも、王の誇りにかけて、女よ、おまえの望みは既に叶えられている」

永野水貴＠1/15新作「半翼の逃亡者」発 @nagano_mizuki

【リレー小説つづき】わたしは息を止め、呼気すら感じさせまいと強く唇を引き結んだ。眼を閉じ、自分をなだめることに専念する。感情を乱してはならない――自分がすべきことは。「ならば今一度言おう。お前が王というのなら、その誇りにかけて我が一族をこれ以上貶めることのなきよう」

本宮ことは @kotoha_motomiya

「おまえの言葉は本当に安いな」　男は馬鹿にしたように鼻で嗤った。「わざわざ言を重ねて念押しするとはな。それほど俺が信用ならぬと？　信用ならぬ相手にいくら言葉を費やしても空しいとも思わぬか。……愚かだ」　男の言葉は酷薄なだけでなく、断罪めいた響きを帯びていた。「だから負けるのだ」

永野水貴＠1/15新作「半翼の逃亡者」発 @nagano_mizuki

征服者の、勝利者の、王の眼。わたしは、ほとばしるものを喉の奥でせきとめる。敗北――もはや、動かせぬ過去。事実。「……信の置ける相手に、同じ言葉を重ねることもない」それだけ言うと、男は一瞬だけ、面白がるような顔をした。「小休止は終いだ」言って、男はわたしの手枷を引いた。

本宮ことは @kotoha_motomiya

その途端、否応なしに身体が倒れ込む――再び男の胸に。悔しさに一瞬息が止まる。だが男は、そんなこちらの様子にはまったく頓着することなく、片手で手綱を握り、もう片手で私の腰を抱いた。「出立する」男の呟きを近従が大声で復唱した。「出立！」次の瞬間、周囲の軍勢が、おお、と、どよめいた。

本宮ことは @kotoha_motomiya

馬が動き出す振動が伝わる。男に縛められたまま不自然な姿勢で鞍に跨っているのは、楽なことではない。内臓をかき回されるような不快な揺れに、情けなくて涙がこぼれそうになった。馬の上で生まれ、馬の上で死ぬと言われる誇り高い騎馬民族の姫である自分が。馬上をこんなに居心地悪く感じるなんて。