ヘイル・トゥ・ザ・シェード・オブ・ブッダスピード #5

翻訳チームによるサイバーパンクニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) 日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ 続きを読む
1
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヘイル・トゥ・ザ・シェード・オブ・ブッダスピード」 #5

2012-11-13 14:51:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはページを高速でめくり、ニンジャ動体視力を最大限に駆使した速読で中身をあらためてゆく。「……モーター……モーターカナタ」「モーターカナタ?」フィルギアはUNIX画面を前に首を傾げている。「ログインパスワードが要るぜ。当てずっぽうにやってみたが、ダメだな」 1

2012-11-13 14:58:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「となれば、物理ハッキングに限るぜ」彼はデッキを離れ、書棚をあらため始めた。「アー……よくわからねえな……触れた形跡もあまり無い……埃被ってらあ。アンタのそのファイルはどうだ」「うむ……」ニンジャスレイヤーはページを再び頭からあらためながら呟く。「幾つか気になる言葉がある」 2

2012-11-13 15:01:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ファイルは丸で囲まれた断片的な走り書きを矢印で結んだ、漠然としたメモの集まりだ。そこに度々「モーターカナタ」「タイサ?」「イノエ=サン」という単語が出現する。「何だろなぁ」とフィルギア、「重要な何かかな?ウカツをしたか?それとも、そもそもここにはクリティカルなものがねえのかも」3

2012-11-13 15:17:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「モーターなにがしというのは、オムラ・インダストリの開発計画を思わせる」「倒産したろ」ニンジャスレイヤーは頷く。「かつてのオムラの関係者か」「設計図とか無いか?」フィルギアはファイルを受け取り、中身を見た。「こりゃ本人にしかわからねえ、ジャーゴン?字も汚ねえ速記だ。ワザとかも」4

2012-11-13 15:23:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「辿るべき単語が見つかったのは収穫だ。イノエ=サン。タイサ。タイサは人名か……少なくともケンザ=サンはイノエという者と何らかの付き合いがあった筈」ニンジャスレイヤーは言った。そしておもむろにUNIXデッキのボディパネルを引き剥がし、記憶ディスクを取り出した。「持ち帰り解析する」5

2012-11-13 15:28:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「この部屋から自我科通いってのはなあ」フィルギアは台所をあらためた。「生活感が無いね……冷蔵庫も無い……」「普段は使わぬ部屋を借りていた……何の為に……」ニンジャスレイヤーは言った「……それを調べる。手掛かりはオムラだ」 6

2012-11-13 15:33:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

巨大企業オムラは倒産、解体され、オナタカミ社を初めとする複数のメガコーポに吸収された。その過程で、ネットワーク上に様々な社内データが拡散、漂流したという。そうした漂流データの中には小型核バンザイ・ニュークの設計図すらも含まれている……そのような都市伝説を生んでいる。7

2012-11-13 15:37:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニュークはともかく、当時の社員名簿程度であれば、入手はさほど困難では無い。ニンジャスレイヤーは携帯IRC端末を見た。ycnan。「返事が来た」「早いなァ。五分も経って無い。一服しようと思ったのにな……」「社員名簿に、どちらもある。タイサ・ルニヨシと、イノエ・オカサマだ」 8

2012-11-13 15:43:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タイサ・ルニヨシに関しては在籍事実のみ。所属は不明。一方、より下級の社員と思われるイノエ・オカサマに関しては、第三開発部という所属、そして当時の住所情報が確認できた。「今もそこにいるかァ?いないかもよ」とフィルギア。ニンジャスレイヤーは頷く「それを我々が調べるのだ」「ああそう」9

2012-11-13 15:48:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フウー……」アグラ・メディテーションをするオーファンが深い息を吐くと、鍛え上げられた肩と胸板が震動した。背骨に沿って無数の針が打たれたさまは、目を背けたくなるほどに痛々しい。だがこれは拷問ではない!これはシアツによる神秘的治療の一種なのだ。 11

2012-11-13 15:59:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

熱した針を体幹に打ち込むことで血流を整え、治癒を促す古代技術……ニンジャにおいては、常人とは比較にならぬほど様々な治療効果があるとされる。それはなぜか?不用意に歴史の闇に触れるのは得策では無いと申し上げておこう。 12

2012-11-13 16:05:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……イヤーッ!」オーファンは上半身に力を込めた。背中の無数の針が跳ね飛び、背後の壁に縦一直線に突き刺さった。彼はゆっくりと立ち上がった。その皮膚の色はマダラである。先日の傷に施したバイオ処置のためだ。 13

2012-11-13 16:07:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

オーファンは眉間にシワを寄せ、拳を握り、開く。「イヤーッ!」回し蹴り!「イヤーッ!」水面蹴り!「イヤーッ!」空中回し蹴り!「イヤーッ!イヤーッ!」ヤリめいた二段サイドキック!片足上げ姿勢のまま停止!「フゥーッ……」合掌し、上げた足をそのまま横へ90度ゆっくりと動かす! 14

2012-11-13 16:11:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お加減いかがで……アイエッ!」フスマを開けた治療師が尻餅を吐いた。「ノックせずフスマを開けるでない」片足上げ姿勢を維持したまま、オーファンが厳かに言った。「申し訳ありません!」治療師はドゲザ!「イヤーッ!」その頭上を回転ジャンプで飛び越し、装束を一瞬で着込む! 15

2012-11-13 16:15:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエ……」アマクダリとも取引きする馴染みの治療師とはいえ、こうまで威圧的なカラテに晒されれば、さすがに失禁だ。オーファンはそれを捨て置き、ザゼン・センターを退出した。(((不覚をとった。実際恐るべきジツであった)))彼はバイオ手術を強いる原因となった鉄の茨を振り返る。16

2012-11-13 16:22:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((サークル・シマナガシ……?……セクトに宣戦布告とはふざけたマネを。それも、あのジツがあっての事か。いかなるニンジャだ?)))あの瞬間、彼のニンジャ感受性は巨獣めいた力の膨張を他の者よりも速く感じ取った。そして全力で回避行動を取った。それが生死を分けた。 17

2012-11-13 16:27:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あの夜、ポインターらはクロームドルフィンと試作機イルカクロイを捕獲すべく動いていた。独断でオーファンの統治するヤクザクラン構成員を殺害した事は許し難く、ケジメ調停も有り得た。だが死んでしまっては仕方が無い。そして困った事に、当事者が全滅した事で、捕獲計画の全体像が失われた。18

2012-11-13 16:34:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

面倒が増えたが、これはビッグディールのチャンスでもある。わざわざ中枢に伺いを立てて返答を待てば、キンボシを逃す。この場合、捕獲したのちに報告して恩を着せるのが当然のビジネス・メソッドだ。解析の結果、クロームドルフィンの出現パターンも把握済みである。すなわち、スピードだ。 19

2012-11-13 16:41:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……奴の仕上がりはどうだ」オーファンはサイバネ技師に通信する。『ええ、脚先だけでしたので、問題ありません。映像送りますか?』「必要無い。それより闘争心だ、重要なのは。馬のニンジンになる気概だ」『ええそれはもう、こちらが持て余すほどですよ!』「よかろう!」 20

2012-11-13 16:48:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『マシーンのほうもグワーッ!』「どうした?」『ザザッ……おう、ナメやがって』オーファンは目を細めた。通信者が倒されたようだ。「ご機嫌いかがかね?カケル=サン」『お望み通り、やってやッからよお……とっとと走らせろよ……』「ククククク!」オーファンは笑った。「その意気だ!」 21

2012-11-13 16:54:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ボーン……ボーン……「ポッポー……」鳩時計の陰鬱な時報が、彼を居眠りから揺り起こした。「いかんな……」彼は脂ぎった髪を撫でつけ、スリープモードとなったUNIXデッキを起動させた。ガレージの闇に彼のタイピング音が吸い込まれる。虚しい努力だった。「何処にいる……ケンザ=サン」 23

2012-11-13 17:07:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

モニタに点滅するのは「電子的無知」のカンジ。あのステルス機能は並ではない。何度やっても同じことだ。では、足で稼いで見つけ出すか?否。そんな事が出来るものか……彼一人にそんな真似ができる筈もなく、派手に動けば自らが標的にされかねない。こんな事は夢物語に過ぎなかったか。 24

2012-11-13 17:13:14