赤司征十郎の独白

赤司征十郎の独白 @aksryouki

例えば、勝利に飢える為には敗北が必要不可欠だ。敗北を恐れる為にはその痛みを身に染みて感じる必要がある。その為に僕は敢えて言うんだ。なあ、お前は自分自身が目を刔る恐怖と、仲間に目を刔らせる恐怖、どちらを恐れるんだい。より怖い方を設定しないと意味が無いのだから、これは重要な問題だ。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

但し、誰に対してもただ闇雲に目を刔るという脅しが通用するとは限らない。僕の場合、たまたま自分にとって目という物が大切な物だったから、差し出すに値する物として成立しただけだ。「天帝の目（エンペラーアイ）」…、これが無ければ、赤司征十郎が赤司征十郎たる意味が無くなってしまうのだから。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

そう、常に人は断崖に立ち、空に足を掛けた状態で戦いに挑んでいる事を忘れてはならない。敗北を適当に照れ笑いをして済まされる物だと解釈している時点で、お前は既に今後一切の戦いから敗北している物と思った方がいい。流すのならば涙でなくて血だ。屈辱と羞恥を徹底的に脳髄に叩き込んでほしい。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

さあ、問おう。お前の大事な物は何だい。次の試合ではそれを忘れずに持ってきてくれ。お前が敗北した瞬間、僕はそれを無に帰そう。そうして僕は、お前が更なる成長を遂げてくれる事を切に祈っているよ。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

さあ、何処まで話したかな。そうだ、大切な物の話だ。大切な物を沢山持つと確かにそれはお前の重荷になるかもしれない。逃げられなくなるからね。だが僕はそもそもお前に逃げるという選択肢を与えた覚えは一度も無いんだ。だからお前には大切な物を沢山持ってほしい。そうして背水の陣を敷いてくれ。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

真太郎、お前はピアノが得意だったね。演奏会での演奏は凄く素晴らしかった、僕は決してお前の音色を忘れないだろう。僕に勝てこそしないが将棋の腕もなかなかだ。そしてその美しいシュートも。…つまりお前は、手が。強いては「指」が大切だ。そうだろう？……どうした？顔色が悪いようだけれど。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

此処に一つ、ミキサーがある。何の変哲も無い調理器具だ。設計に誤りがあって蓋が開いていても作動してしまう欠点を覗けば、非情に強靭な刃と力を持つ優秀な道具だ。……解るね、真太郎。もし次、お前が敗北したのならば。その手を、この中に入れるんだ。スイッチはせめて僕が押そう。それでいいかい。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

敗北に甘えるな。恐怖し憎悪しろ。停止する事に罪悪を覚えるといい。お前にはまだその手がある。傾いた地面から落ちぬように食い込ませる指と爪がある。せめてその指が擦り減り腐り落ちる程にあがいてみせてくれ。僕はそんなお前の手が好きだよ。愛している。どうか、僕にスイッチを押させるな。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

おはよう、良く眠れたかい。睡眠時間は大切だ。４時間あれば大丈夫、という話を巷で聞くが実際其れは飽く迄も目安で、人によって必要な睡眠時間という物は変わってくるものだ。90分単位を基準に少しずつ時間をずらしながら自分に合った睡眠時間を探すといい。健やかな身体の為に。…美容でもいいが。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

涼太、お前は美容にはよく気を使っているね。モデルをやっているのだから当たり前か。自分の特技を正しく理解して其の維持に努める事は素晴らしい事だ。自惚れるだけの物を持っているのだから誇っていい。それでいてバスケには妥協しないお前は素晴らしいよ。……そうか、お前は「顔」が大切なんだな。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

「自己批判」という言葉を知っているかい。『光の雨』という映画を見た事は。僕らが生まれるずっと昔に存在した悲劇の話だ。閉鎖されたその空間では自己批判という名でリンチが行われたという。僕は勿論そんな事はしない。お前はお前でお前の罪悪を理解していると思うからだ。一人でも成し得るだろう？

赤司征十郎の独白 @aksryouki

涼太、お前の腕力はどれくらいだったかな。人を全力で殴った事は？無いだろうな。では自分を全力で殴るとどうなると思う？或いは硫酸か。理科室にあったから取ってこよう。それとも、剃刀でひと思いに、…………、…は　は　は　は　ははは冗談だよ。ああ。そんな。ごめん。少し脅しが過ぎた、謝るよ。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

でもお前はそれを聞いた時酷く「ぞっ」としただろう。その冷たい気持ちを、忘れないでほしい。その恐怖がお前を助けるだろう。『光の雨』の如く洗脳された訳ではない僕達は、他者ではなく自分の意思で自分の行動を決定する、否しなければならない。その為には自分自身で強い意志を持つ必要があるんだ。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

強制される事は無い。その代わり責任も誰もとってくれない。自分自身を理想の形に育てるのは飽く迄も自分だ。どうか、強くあってくれ。………因みに嘗て左翼組織として存在し、惨劇を引き起こした団体の名前には「赤」という文字が使われている。赤という色は、人を狂わせる色であるのかもしれないな。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

「赤」い僕がお前達を狂わせようとしているのか。僕が「赤」に狂い、囚われているのか。答えは誰にも解らないし、知ろうとは思わない。もう既に僕もお前達も、腕を濡らす真紅から逃れる事は出来ないのだから。…さあ、今日も頑張っていこうか。空は蒼く澄んでいて、朝焼けの赤は疾うに見当たらないね。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

草を食する事が慣習化してしまっているのであればそれは胸やけを起こしているのかもしれない。草を食べると胃が刺激されて嘔吐しやすくなるだろう。身体が無意識に胃を空にして異物や毒物を身体から吐き出す事を望んでいる状態だ。食べる草は身長に選んだ方がいい。中毒を起こす物も少なくないからね。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

と、思ったけれどもしかしなくともこれは犬の話だった。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

氷室さん、其処で一つの仮説が生まれる。真太郎はもしかしたら犬だったのかもしれないという仮説だ。僕は今まで彼を人間だと思っていたが、それは錯覚だった。人間だと思い込んだ状態で見るから人間に見えたのではないか。然し種族が違ったとしても、真太郎が僕の大切な仲間であった事に変わりはない。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

疑惑は持ってしまえば切りが無い。僕達はこの世界を「目」で見て「脳」で認識しているが、其れが真実であるという保証は何処にも無いのだから。何故ならば脳が網膜が獲得した情報を常に正しく認識するという保証は無いからね。脳は自分を守る為に時として自らを欺く。「目」は絶対的な手段ではない。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

…と云う事を『天帝の目』を持つ僕が言うのはこの上無い矛盾を孕んでいるな。僕達は自分だと認識しているが、実は犬に過ぎず、全ては幻想であるのかもしれない。いや…或いは世界そのものがまやかしか。そもそも一つの学校に希有な能力を持つ人間が揃って六人も集まる事等現実的に有り得るのだろうか。

赤司征十郎の独白 @aksryouki

コートのどの場所からも正確にシュートを打つ事が現実に可能だろうか？試合中にも関わらず認識から逃れ存在を消す人間が居るのだろうか？未来を見通す事など、出来るのだろか？――もしかしたら、世界そのものが絵空事で、本当は現実に存在しないのではないか。そう考える事は、可笑しな話じゃない。