『エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究』(通称『エビ研』)を斎藤清二先生が読む!

※関連まとめ ●「臨床心理の知識と技術があることがクライエントに役に立つというエビデンス」への疑問 http://togetter.com/li/401884 ●斉藤清二先生による連続ツイート「心理臨床における事例研究法理論の再構築のための予備的考察」 http://togetter.com/li/409683 ●[前編] 1hc0m先生と【エビ精力】(エビデンスベイスト精神力動的心理療法)をお勉強 http://togetter.com/li/390278 ●[後編] 1hc0m先生と【エビ精力】(エビデンスベイスト精神力動的心理療法)をお勉強 http://togetter.com/li/395326
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斎藤清二 @SaitoSeiji

以前のツイートで話題にした、岩崎学術出版社の『エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究』(通称『エビ研』)をほぼ読み終えたので、感じたことをツイートしてみたい。http://t.co/2JfSMUQH

2012-11-17 17:00:35
斎藤清二 @SaitoSeiji

『エビ研』の原題は『Essential Research Findings in Counselling and Psychotherapy』 直訳すると、『カウンセリングと心理療法における本質的な研究知見』といった意味になる。邦題は、かなりマーケットを意識したものだろう(続)

2012-11-17 17:05:43
斎藤清二 @SaitoSeiji

また副題は『The Facts are Friendly』で、これは、カール・ロジャーズの言葉らしい。「事実は敵じゃない!」といったところか。つまり、この分野における(実証的な)研究結果は、カウンセラーや心理療法化に自信を与えるに足るものだということを主張している。(続)

2012-11-17 17:11:03
斎藤清二 @SaitoSeiji

実際に、これまで主として欧米で行われてきた心理療法についての膨大な実証的な研究の結果を総合するならば、心理療法とカウンセリングの総合的な有効性を強く支持していると言ってよい。これはおそらく、このことを知らない本邦の医師や心理学者の想像をはるかに超えるものであると思う。(続)

2012-11-17 17:15:57
斎藤清二 @SaitoSeiji

しかし、このような実証的研究の成果を、実際の臨床実践と結びつけて、理解し、生かすためには、かなり多岐にわたる適切な知識と、議論のポイントについての理解が必要であるとと思われる。またこれまでの研究知見やそれを理解するための前提についての誤解をきちんと整理しておく必要がある。(続)

2012-11-17 17:20:26
斎藤清二 @SaitoSeiji

『エビ研』の第一章:イントロダクション、では、最初に、研究知見を実践に適用すること(生かすこと)の価値と限界について書かれているが、特に「限界」についての記述が非常に役に立つ。一般にエビデンスやEBM(P)についての誤解の大部分は、この部分を読むことで解消されるだろう(続)

2012-11-17 17:25:31
斎藤清二 @SaitoSeiji

研究を実践に結び付けることの意義と限界について述べた後で、著者は「セラピーは『研究中心に方向づけられる(research-directed)』ものではなく、『研究からの情報を活用する(research-informed)』でなければならない」ことを強調している。(続)

2012-11-17 17:32:49
斎藤清二 @SaitoSeiji

ここで、個人的な見解になるが、「research-informed therapy(研究情報を活用する心理療法)」と「research-directed therapy(研究情報に方向づけられた心理療法)」の違いは極めて大きい。EBPを適切に理解するキモとなるところである。(続)

2012-11-17 17:37:21
斎藤清二 @SaitoSeiji

この章で述べられている『エビ研』の著者であるCooper教授の考え方は、米国心理学会(APA)の「エビデンスに基づく心理学的実践(EBPP)」の基本姿勢とぴったりと重なっている。(残念ながら『エビ研』では、APAのEBPPの定義の邦訳がやや分かりにくい表現になっている)続。

2012-11-17 17:42:22
斎藤清二 @SaitoSeiji

Cooper 教授はもともとは人間性主義的心理療法、実存的心理療法の専門家であるようだが、その姿勢は、「方法論的多元主義(methodological pluralism)」である。EBPPを適切に理解し、実践に活かすためには、この考え方は、私にとって全く賛同できるものである。

2012-11-17 17:45:00
斎藤清二 @SaitoSeiji

第2章はカウンセリングと心理療法のアウトカム(実際に得られる成果)についてまとめた章で、まさにこの分野の実践者にとっては、「事実は敵じゃない!」を実感させてくれる情報のオンパレードである。簡単にまとめると以下のようになる。1)総じて心理療法は、肯定的な効果のエビデンスがある(続)

2012-11-17 17:51:31
斎藤清二 @SaitoSeiji

2)総合的にみるとカウンセリングや心理療法の効果量は、薬物療法の効果量よりも大きい。(この見解については、おそらく認めたくない人(医師や製薬会社や常識にとらわれている人)が多数存在するだろうと思う。まだ議論は必要だが、実証的研究の蓄積は、この傾向を益々証明することになるだろう)続

2012-11-17 17:55:27
斎藤清二 @SaitoSeiji

3)もちろん全ての人が改善するわけではないが、60~80%のクライエントが何らかの改善を示す。しかし悪化する人も5~10%いる。半数が臨床的に改善するのに必要なセラピーの回数は10回から20回である。4)費用対効果比も高い方法であることが実証されている。続

2012-11-17 17:59:54
斎藤清二 @SaitoSeiji

第2章では、非常に明るい話題が多かったのだが、第3章では、この領域の研究成果を評価するときに、最も激しい議論がなされている問題が取り上げられる。それは「ある特定の心理的苦痛に対してあるセラピーは他のセラピーよりも効力があるか?」という議論である。(続)

2012-11-17 18:02:12
斎藤清二 @SaitoSeiji

この問題は、「実証的に支持された治療(EST)」のリストを作成し、それを教育、保険などの領域を独占しようとする運動を推進してきたグループ「EST派」とそれに対抗するグループ「ドードー鳥派」の間の激しい議論としての歴史を持っている。本邦では今までほとんど論じられてこなかった。(続)

2012-11-17 18:07:15
斎藤清二 @SaitoSeiji

第3章は非常に読みごたえがあり、これを読むといわゆる「エビデンスに基づく心理療法」をめげぐる、この20年間の論争がほとんど網羅されているし、それぞれに主張の論拠となる文献もほとんど触れられている。この問題に興味のある者にとっては非常にありがたい(続)。

2012-11-17 18:09:25
斎藤清二 @SaitoSeiji

著者はこの論争に対して非常に公正な中立的な態度を堅持しつつ、この章を執筆している。しかし、この章の最後のまとめに、著者の見解を含む、現時点におけるこの論争への暫定的な解答がまとめられていると思うので、引用する。(続)

2012-11-17 18:14:28
斎藤清二 @SaitoSeiji

第3章の「重要な研究治験のまとめ」①幅広い心理的困難、特に不安障害や鬱、過食症、性機能障害、統合失調症、健康関連の問題に対して認知行動療法(CBT)の効力が認められている。②CBT以外の心理療法のエビデンスは限定されているが、いくつかの心理療法では効力が実証されている(続)

2012-11-17 18:19:37
斎藤清二 @SaitoSeiji

③真正なセラピー(誠実な専門家によって提供される実践)同士が比較された研究においては、通常それらの効力はほぼ同等であることが見いだされる。④異なるクライエントは異なるセラピーを通して、より大きな成果をあげることを示すいくつかのエビデンスが存在する。(いったん終わります)

2012-11-17 18:23:57
斎藤清二 @SaitoSeiji

『エビ研』の第3章(p46)に、EST派の考え方を説明している部分がある。著C同しているわけではなく、Chamblessらの論文を引用しているだけなのだから、著者に腹をたてるいわれはないのだが、どうしても腹に据えかねる部分がある。以下に引用してみる。(続)

2012-11-17 20:37:30
斎藤清二 @SaitoSeiji

「あるクライアントに最も適した心理的セラピーは何か?この問いに答える一つの方法は、そのクライアントのもつ問題を特定し、その問題に対して効力をもつことが分かっているセラピーを調べることである。言い換えれば・・(続き)」

2012-11-17 20:42:18
斎藤清二 @SaitoSeiji

「『糖尿病にはどの薬が効くのか?』と尋ねるように、『鬱にはどの心理的セラピーが実効性を有するのか?』」と問うのである。このような探究の仕方は、ESTsの提唱者によって推進されて来た。これは『エビデンスに基づく医療(EBM)』の概念にそのルーツを持つ運動である・・」(訳改変)(続)

2012-11-17 20:49:14
斎藤清二 @SaitoSeiji

前期のような「比喩」は一見わかりやすいので、多くの人が「なるほど」と思わされるのであるが、これは比喩の不適切な使用によるレトリックであると私は思う。まず第一に、糖尿病薬は一つの「物質」(または物質の複合体)であるが、心理的セラピーは物質ではなく一つの複合的行動プロセスである。

2012-11-17 20:55:43
斎藤清二 @SaitoSeiji

第2に、彼らは「ESTはEBMのコンセプトをそのルーツに持つ」と言うが、これは正確ではない。彼らはEBMについて「そこでは個々のクライアントのケアの決定に際して、現時点における最高のエビデンスが用いられるべきである」と続けているが、ここには微妙だが明らかな論理のすり替えがある(続

2012-11-17 20:59:58
斎藤清二 @SaitoSeiji

EBMにおいて、用いられるのは「エビデンスという情報」であって、特定の薬剤(物質)ではない。つまり、ある特定の薬剤が糖尿病に適応があるからといって、自動的に「その薬剤をその特定の患者に用いるべきである」などとは、EBMは考えない。そうではなく、EBMは情報を「用て」臨床判断をする

2012-11-17 21:05:04