アニメ監督・神谷純氏、原作のあるものをアニメ化する場合について語る

BSプレミアムで絶賛放送中の『キングダム』の監督をされている神谷純さんが原作のあるものをアニメ化する場合について語られているつぶやきまとめさせていただきました。
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神谷純 @junkamiya

アニメーション監督。 最新作は『やくならマグカップも 二番窯』 10月から放送スタート!  日常は怪獣とハロプロのことばかり考えて生きてます。 『大怪獣ラッシュ ウルトラフロンティア』、7月からTSUBURAYA IMAGINATIONにて配信中!

twilog.org/junkamiya

神谷純 @junkamiya

原作のあるものをアニメ化する場合、自分の場合、作品によってそのスタンスを変えている。例えば現在制作している『キングダム』は、何しろ作品のオモシロさを映像に定着させたいと思い、自分のカラーは押さえて、原作のエッセンスを映像に落としこむことに腐心している。

2012-11-24 02:14:57
神谷純 @junkamiya

同じ原作モノでも『ペンギンの問題』は、本数などの問題も含めてオリジナルな要素を多々入れていかないと難しかったので、かなり自分のカラーは強く出している(この場合はギャグのテイストに一番強く出ていますな)。

2012-11-24 02:16:44
神谷純 @junkamiya

ライトノベル「ザ・サード」の場合は、作品内容に関しては大きなアレンジを加えずに、ただそれでもカメラは常に主人公『火乃香』に寄り添うように作っていった。原作が小説なので、映像のテイストに関してはこちらのカラーで編んでいった。

2012-11-24 02:18:45
神谷純 @junkamiya

漫画が原作の場合と小説が原作の場合では、映像化の難しさはまったく別個のものになる。自分としては小説のほうがやりやすい。小説は文章というメディアであって、そこから『映像』にコンバートするのは全てこちらの作業になるのだ。

2012-11-24 02:21:19
神谷純 @junkamiya

ところが漫画の場合、すでにそこには『絵』があり『コマ割り』という演出も存在している。この『ある意味同じ要素のもの』を『映像作品』に変換する作業は、実はデリケートな部分が多く、似て非なるメディアにありがちなトラップも多い。

2012-11-24 02:23:18
神谷純 @junkamiya

漫画のコマをそのまま絵コンテにしていくと、まず映像としては巧くいかない。メディアの違いはそのまま文法の違いであって、コマで空間と時間を制御する漫画の文法が、時間軸が常に一定の映像にそのままコンバートできることはまずないのだ。

2012-11-24 02:26:16
神谷純 @junkamiya

だから演出家は、原作漫画の『ここが見せたい』というポイントをできる限り活かすように、そのポイントに向かっては、むしろ前後の漫画のコマを捨てても映像として編んでいかなければいけない。

2012-11-24 02:27:57
神谷純 @junkamiya

ただ、これは『原作漫画をできる限り忠実にアニメ化する場合』の話だ。その上での技術論だ。

2012-11-24 02:29:11
神谷純 @junkamiya

では、原作を大胆にアレンジした場合どうなるのか? コマ運びではなく、内容そのもの、ひいてはドラマやテーマまで変わっていく場合はどうなのか?

2012-11-24 02:30:54
神谷純 @junkamiya

この点に関しては、実は最近は語ることそのものが『机上の空論』になりかけている。現状、原作の改変を良しとする企画は、少なくとも自分の周辺ではまずない。原作とアニメは『別物』ではなく、アニメはあくまで原作の『映像化』であるという大前提が大半だ。

2012-11-24 02:33:25
神谷純 @junkamiya

かつてアニメと原作は『同じ』であることのほうがはるかに少なく、キャラクター・ドラマ共に、アニメは原作を離れ独自の道を行く事が多かった。そしてそこには変えたなりのオモシロさや熱気があり、だからこそ原作とは違う『アニメ』を毎週楽しむことが出来た。

2012-11-24 02:36:45
神谷純 @junkamiya

誤解無いように言っておくが『キングダム』は自分自身が面白いと感じ、尚且つ自分の中に全くなかったジャンルなので、自分から積極的に『原作を尊重し映像化』しようと頑張っている。ここまでのことは普遍論として言っている。最初から縛られた企画が多いということだ。

2012-11-24 02:40:20
神谷純 @junkamiya

その結果、原作のコマをそのままただアニメに置き換えたものが、映像作品として流れていることもままある。人がやっている分にはその点に特に言及するものはない。ただ、自分がやる場合にはそれは無理だ。演出を『メディアが違う漫画』に全面的に委ねて何が『演出家』だ。

2012-11-24 02:44:50
神谷純 @junkamiya

ちなみに原作尊重といっても、特にセリフなど、どうしても変えなければならない場合がままある。原作の場合セリフは、その文字もろとも読者に入ってくる。聞き間違いや意味違いはまず起らない。ところが映像作品の場合、視聴者にセリフから伝わるのは『音』としての情報のみだ。

2012-11-24 02:50:28
神谷純 @junkamiya

聞き違い、同音異語、瞬間的に聴くには難しい熟語など、あくまで時間内に『音』で情報を伝えるしかない場合、原作のセリフを変更せざるを得ない。この辺りはその都度の判断になるので難しい。

2012-11-24 02:52:16
神谷純 @junkamiya

実は『キングダム』では、そういった理由によるセリフの変換・改訂はままある。忸怩たる思いを感じつつも非常に重要なシーンの決めゼリフを、それがために改変しなければならなかったこともある。このあたりがまた、メディアの違いによる難しさだ。

2012-11-24 02:54:41

つぶやきに対する反応

囚人番号6 @F4EJ2Phantom

@junkamiya 以前、『スレイヤーズ』DVD-BOXの解説書を作る際に渡辺監督にいろいろとお話しを伺ったんですが、そのとき、近作である『シャナ』に関してこぼした「尺に限度があるんだもの、原作まんまなんて無理な話だよぉ」という言葉を思い出しました。

2012-11-24 02:45:26
神谷純 @junkamiya

@F4EJ2Phantom 時間という絶対的なものに縛らてますもんね(;´Д`) ホント無理な話です。

2012-11-24 02:47:50
囚人番号6 @F4EJ2Phantom

@junkamiya 先ほどからのツイートには首肯するばかりなんですが、自らの経験から「メディアの違いによって生じる表現の違い」を理解しているアニメマニアが、この20年でひどく減少したような気がします。いや、正確には“理解していない”マニアが増えた、と言うべきか…。

2012-11-24 02:53:18
神谷純 @junkamiya

@F4EJ2Phantom アニメオリジナルが少ないことや、原作をトレスした作品が多くなったこともあって、たまに酷く変わった作品に拒絶反応が起こり、『自分が好きなモノを勝手に変えてくれるな』という意識が視聴者側に強くなった結果かとも思います。難しいところです。

2012-11-24 02:58:10
囚人番号6 @F4EJ2Phantom

@junkamiya 私も高校生などの完全な受け手側だった時代は、そうした作品を観る度にゲンナリしていました。が、自分自身が創作者になり媒体の違いを知ると改変の必要性に目が行き、責めるよりまずはスタッフの置かれた環境に、同情を禁じ得なくなりました。

2012-11-24 03:03:06