8bitLO

お兄さんのツイノベ。
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U @ebleco

ねーお兄さん、見るもの全てが8bitに見える科学者と金髪碧眼の幼子とのガラス越しの物語書いてー。 http://t.co/1e7dDDpK /普通に面白そうじゃねぇか。

2012-11-17 19:31:34
U @ebleco

「調子はどうだ?」「見るもの全てに現実味が無いね。最高だ」「そりゃ何より。こっちとしても、お前が抜けたんじゃ、仕事にならない。兎も角、無事で良かったよ」病室。同僚の声。「なぁ」「どうした?」「俺の顔、変じゃないか?」「……お前がしかめっ面なのは、いつもの事だよ」#twinovel

2012-11-19 12:21:41
U @ebleco

「AR技術の限界はあくまで『現実を拡張している』点にあると言ってもいい。結局何処かで『電脳の壁』に突き当たる。そういう意味じゃ、お前の事故は都合が良かった」「事故に合いたくて合ったわけじゃない」「そう言うなよ。どうだ、見えるか?」「ああ、綺麗なモザイク模様だよ」#twinovel

2012-11-19 12:42:01
U @ebleco

経過報告。幸い、視力以外には何の障害も残らなかった。私の研究も、滞りなく続けられるはずだ。この目に映る世界全ての解像度が著しく落ちた事さえ除けば、最高だと言っていい。凡そ256色。酷くレトロだ。恨みはしないさ。この電脳技術は、他ならぬ私自身の研究成果なのだから。#twinovel

2012-11-19 12:46:58
U @ebleco

「もう少し、薄く出来なかったのか?」「無茶を言うなよ。これが限界だ」「そうかい」受け取ったゴーグルを掛け、私は息を呑んだ。金糸の髪、伏せた青色の瞳。揺らぐ白色のワンピース。8bitの世界の中で、少女が、膝を抱えるように、部屋の虚空に浮かんでいた。#twinovel #8bitLO

2012-11-19 12:52:23
U @ebleco

「どうした?」「見てみろよ」ゴーグルを渡す。角張った同僚の顔に、線が掛る。「ああ、こりゃ酷い。解像度が最悪だ」「それ以外にもっと言うべき事があるだろう」「確かに、もっとレンズは薄くするべきだ」「……お前、見えていないのか?」「見えるも何も、これじゃまるで8bitさ」#8bitLO

2012-11-19 12:59:32
U @ebleco

「オブジェクトの配置はどうなってる?」「何も、現実順守」「なら、これは私の目が悪いって事か」「お前の電脳用に調整したものだからな。お前、今どんな風に見えてるんだ」「いや、同じだ」ゴーグルを外すと、8bitの世界の中に浮かんでいた少女の姿は、消える。「……8bitさ」#8bitLO

2012-11-19 13:07:37
U @ebleco

「……拡大」病室。私の目に映る世界は、ゴーグル越しだろうと、8bitのままに出来ているらしい。「……縮小、レビュー……アンドゥ」ゴーグルに映る病室が、切り替わる。近付けば、ただのキューブに成り下がる世界。「……君は、誰だ?」浮かぶ、解像度の高い少女は、口を利かない。#8bitLO

2012-11-19 13:20:50
U @ebleco

経過報告。現実味が無い。恐らくは、私の脳に埋め込まれた電脳と元々の視神経とが、競合状態にある事が原因だ。解像度の著しく落ちた世界では輪郭が曖昧だ。ARゴーグルの改良を急ぐ必要がある。研究成果だけの問題ではない。早くしなければ、きっと私は正しい世界の姿を忘れてしまう。#8bitLO

2012-11-19 13:30:50
U @ebleco

「……恐らくはお前の仮説通りだろう。ARの最適化を急ぐ必要があるな」モザイク模様と呼ぶには、人の形に近すぎた顔。眉間に黒が掛ったので、眉を顰めているのだと判断出来た。「直るのか?」「直すのが、俺達の仕事だろ」「……そうだな」ああ、お前の顔だって、忘れてしまいそうだ。#8bitLO

2012-11-19 13:48:14
U @ebleco

ゴーグル越しに、彼女を目で追う事が多くなった。私の目に映る世界は、彼女以外は全てモザイク模様で、現実味が無い。肌理の細かい白色。小さく揺れる、金色の前髪。目が合うと、彼女は小首を傾げながら、青色の瞳を細める。ゴーグルを外す。何も無い。都合256色。8bitの世界だ。#8bitLO

2012-11-19 14:06:49
U @ebleco

彼女は、私の後を付いて回るように出来ているらしい。研究所だろうと、自室だろうと、ARゴーグル越しの世界に、彼女は何時だって部屋の隅に居る。鏡を見る事が、怖くなった。自分の顔が、解らなくなるからだ。鏡に映るドット模様は、ARゴーグルの輪郭があって当然の姿になっていた。#8bitLO

2012-11-19 14:23:11
U @ebleco

「……駄目だ」「変わらない、か」「焦点の問題じゃない、眼球自体には問題が無い。なぁ、俺の目は……」「口調」「……ああ、済まない」「酷い顔だ。そんなんじゃ、折角話しかけやすいように気を付けても、怖くて誰も近付かないぜ?」大丈夫だ。私に微笑んでくれる人なら、まだ居るさ。#8bitLO

2012-11-19 14:28:36
U @ebleco

「ゴーグルに映る情報には修正を掛けてる。本来なら、『現実と違いの無いもの』が見える筈なんだ。けど、お前の視線は、焦点が頻繁に『何も無い場所』に集まる。……なぁ、お前の目には、何が見えてるんだ?」同僚の表情は、解らなかった。その背後。少女だけがはっきりと浮かんでいた。#8bitLO

2012-11-19 14:34:07
U @ebleco

経過報告。人の顔の区別が、付かなくなった。代わりに、部屋の中の物が、人の顔に見えるようになる。人間の脳は、点が三つあればそれを『顔』だと認識するように出来ている。無機質な顔に、見られている。人の顔の形をしたものの口元が、弧を描くのが、怖い。ARゴーグルを、外せない。#8bitLO

2012-11-19 15:15:33
U @ebleco

「……視覚野への情報は、阻害されていない筈なんだ」自室。部屋の明かりは、自然と点(つ)けないようになった。彼女は、微笑むばかりで、何も語らない。「なぁ、教えてくれ。君は……」段差状になった指先を、伸ばす。少しだけ困ったような表情をした彼女の頬を、私の指は通り抜けた。#8bitLO

2012-11-19 15:26:22
U @ebleco

「……どうしても、外さなきゃいけないのか?」「お前の理論は間違ってない。ハードの問題なら、ARゴーグルを調べるしかないだろう」「だが」「……安心しろよ。お前の視力は、俺が戻してやる」きっと、私は酷い顔をしていたのだろう。ゴーグルを外すと、彼女の姿が、見えなくなった。#8bitLO

2012-11-19 15:49:05
U @ebleco

こんな目になってしまってから、一つだけ便利になった事がある。定規が必要無くなった事だ。横にタイル12マス、縦に10マスの通路を、私は彼女の姿を探しながら歩く。当然、彼女は居ない。「先生」背後から、投げ掛けられた声。振り返れば、通路の模様の一つが、私に手を振っていた。#8bitLO

2012-11-19 16:05:59
U @ebleco

「お久しぶりです」と駆け寄る模様が誰なのか、私には解らない。声は女性のものだ。少し低い背丈。顔に掛った赤いラインから、彼女が眼鏡を掛けている事だけは判断出来た。「……あの、もしかして、私の事」「済まない。事故で視力を悪くしてね。近くで見ないと、人の顔が解らないんだ」#8bitLO

2012-11-19 16:15:24
U @ebleco

「……お疲れのようですね」「そう見えるかい?」「ええ、とっても。先生ったら、またちゃんとご飯を食べていらっしゃらないんでしょう?」近付けば、彼女が目を細めている事は、模様の変化で判断出来た。髪の色が、あの少女に似ている。何処かで、少女に、見られているような気がした。#8bitLO

2012-11-19 16:22:14
U @ebleco

「でも、心配しました。先生、私の事、忘れちゃったんじゃないかって」「……私は」「ご自分の呼び方、変えられたんですね」「……いつまでも「俺」だと、周りが近付き難いと思ってね」「先生、いつでもしかめっ面ですから」君の元の顔が、思い出せないんだ、と、私は言い出せなかった。#8bitLO

2012-11-19 17:35:16
U @ebleco

経過報告。一日、ゴーグルを外してみて、解った事がある。私の目の解像度は、落ちてきている。いや、『最適化されている』と言った方が正確だろうか。円から多角形へ、多角形から四角へ。より『記号』に近い形へと変化しつつある。文字すらも。早く、ARゴーグルの完成を急がなくては。#8bitLO

2012-11-19 19:43:23
U @ebleco

「どうだ?」「……ああ、良くなってる」はっきりと、変化があった。無意識だが、私はゴーグル越しにあの少女の姿を探していた。昨日より升目の細かくなったモザイク柄の世界に、彼女は居ない。「少し、歩いてくる」そう言って研究室を出た私が走りだすまでに、そう時間は掛らなかった。#8bitLO

2012-11-19 19:53:32
U @ebleco

自室の扉を押し開ける。PCのディスプレイだけが周囲を照らす部屋の中に、肌理細やかな白い足があった。ARゴーグルの外側、殆ど四角形だけで構成された世界を、指先で押し上げる。膝を抱えた姿勢。金色の髪。細めた、青い瞳。「おかえりなさい」と、彼女は微笑みながら、口を利いた。#8bitLO

2012-11-19 20:02:33
U @ebleco

「君は誰だ?」「おかえりなさい」「自分の記憶くらいは、認識している心算だ。私は、君のような少女を知らない」「おかえりなさい」「……私の電脳が原因なのか?」「おかえりなさい」「ARは音声までは拡張していない!」少女は、ただ、壊れたように「おかえりなさい」と繰り返した。#8bitLO

2012-11-19 20:11:51
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