〔AR〕その24 セクション6

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:セクション5(http://togetter.com/li/414539)
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BIONET @BIONET_

疾走する。波打つ竹をスクリーンに仕立てたキネマのようなトンネルを、さとりは疾走し続ける。  その腕に抱えられた阿求は、さとりの体にしがみつきながら、必死に道を探す。動きながら道を確かめるのは、記憶力よりも動体視力が求められるため、困難を極める。

2012-12-01 19:04:13
BIONET @BIONET_

しかし、さとりが走るのを止めることはできない。先ほどの亡者の一群こそ距離を離したものの、それ以降も四方八方から幻影が二人に覆い被さってくる。 「!」 さとりは、突如虚空から突き出てきた斜めの切り口の竹を、すんでのところで避ける。

2012-12-01 19:07:21
BIONET @BIONET_

直撃は回避できたが、そのとがった切っ先が、僅かにさとりの右頬をかする。 瞬間、鋭い痛みが走った。ガーゼそのものは変化していないが、その内部のさとりの右頬には、すっぱりとした切り傷が生まれたのである。これは、何を意味するのか。

2012-12-01 19:07:37
BIONET @BIONET_

こんな話をご存じだろうか。 例えば、事情の知らない人物に、見るからに高温をたたえる熱した棒を見せたとしよう。被験者は、それを当然「熱い」と思う。

2012-12-01 19:09:24
BIONET @BIONET_

その後、「この棒は熱い」と言いながら、何の変哲もない普通の棒を対象に押しつけると、被験者は火傷のような熱さと痛みを覚える。それと共に、棒を押しつけた箇所には、火傷のようなミミズ腫れが生じるのだ。

2012-12-01 19:09:54
BIONET @BIONET_

強いイメージや暗示は、例え物理現象として関係がなかったとしても、本当にそうであったかのような変化をもたらすことがあるということだ。

2012-12-01 19:10:11
BIONET @BIONET_

自身も催眠暗示などを使いこなすさとりが、幻だとわかっているものによって肉体的ダメージを被る。これは、今竹林に発生している異変の幻影が、それほどまでに強力なイメージを見るものに植え付けている事実にほかならない。つまり、幻影に捕まったら命の保証はないに等しいのだ。

2012-12-01 19:10:22
BIONET @BIONET_

だから、さとりはひたすら幻影から逃げ続けるしかない。阿求と出会う前から、既に傷だらけであったが、今はさらに走りながら阿求をかばっていることで、一層ダメージが蓄積されていた。それは確実にさとりを消耗させていく。

2012-12-01 19:11:31
BIONET @BIONET_

幻影による影響は、ある種の精神的ダメージでもある。元々、竹林に来た時点でさとりのコンディションは劣悪だった。走りながら、さとりの視界はかすみ、ぶれ始めていた。 「さ、さとりさん、道が!」 「はっ!?」

2012-12-01 19:11:42
BIONET @BIONET_

そんな中、阿求の声でさとりは目の前の異常に気づき、とうとう立ち止まる。 正面の道が、竹で塞がっている。道を間違えた? いや、違う。幻影の竹が、二人を足止めするように、めきめきと発生している!

2012-12-01 19:12:38
BIONET @BIONET_

本物でも幻影でも、かき分けていけばいい、という話ではなかった。幻影の影響化にある今の二人にとっては、幻であっても物理的障壁となんら変わらない。かき分けて進むにしても、速度を一気に落とさざるを得ない。 そして、その間に、亡者達が彼女を取り囲むだろう。そうなってしまえば、詰みだ。

2012-12-01 19:12:56
BIONET @BIONET_

「――くっ!」 さとりは、決断的に地面を蹴り、飛翔を始める。 「さとりさん!?」 「上空に逃げます!」 真っ直ぐに高度を上げていくさとり。竹林を脱出するには、ある意味それが一番手っとり早い。

2012-12-01 19:13:51
BIONET @BIONET_

だが、それを猛追するように、竹はしなりをあげて蠢きだす。さらには、竹の群生の隙間から、亡者の手の数々が、螺旋を描いて襲いかかってきた。 幻影は、己が胎内に生者を押しとどめようとする。さとりは、弾幕を避ける挑戦者の如く、全包囲から迫る竹槍と笹の葉と黄泉路の使者を回避していく。

2012-12-01 19:14:21
BIONET @BIONET_

攻撃を受けているというより、地獄が意志を持って世界をひきづりこもうとしているかのようだ。後ろ髪におぞましい引力を感じながら、さとりは歯を食いしばって飛ぶ! だが、現実は無情だった。幻影はさとり達を追い越すほどに竹の節を伸ばし、増殖する笹の葉と竹の花が天を仰ぐさとりの視界を塞いだ。

2012-12-01 19:15:19
BIONET @BIONET_

そして、その非現実的な美しさを破るように、獄卒が投げつける鎖付きの枷めいて、亡者の腕達が殺到する。 「あああー!」 さとりは、上空への飛翔をやめ、重力に身を任せる。すんでのところで忌まわしい手のひらから逃れ、そのまま阿求を抱きしめながら自由落下。

2012-12-01 19:16:19
BIONET @BIONET_

地面に落着する直前で、さとりは再度重力中和を行い、自由落下エネルギーを己の体の中で相殺する。それにより、さとり達は落下の衝撃を被ることなく、無事地面に降り立つことができた。 「はぁ、はぁ――」

2012-12-01 19:16:36
BIONET @BIONET_

しかし、今までの無理な動きが祟り、さとりは地面に着いた瞬間に膝を折った。危うく、腕に抱えた阿求を取り落とすところだった。 ゆっくりと阿求、そして上海人形を地面に降ろしたところで、さとりは体中から力が抜けていくことに愕然とする。

2012-12-01 19:17:44
BIONET @BIONET_

ふぬけた上半身は、ぐらりと後方に倒れ、そして堅いもので止められる。本物の竹の節がさとりの背中を支えた。 立てない。立とうと思っても足が崩れたままだ。 そして、周囲は竹に閉ざされた。本物、幻の区別は付かない。せいぜい、今背中を預けているのが確かな実体を持っていることがわかるだけだ。

2012-12-01 19:18:34
BIONET @BIONET_

「さとりさん、しっかり――」 言いつつも、阿求にもさとりが力つきたことは歴然だった。ガーゼの隙間から見える白い肌は青ざめ、脂汗が滴っている。大きく肩で息をしても、全く酸素が足りていないように、喉がぜいぜいと音を鳴らしていた。 「ごめん、なさい。これ以上、は……」

2012-12-01 19:20:37
BIONET @BIONET_

「ち、違うんです! そんなんじゃ、なくて」 ぼう、と二人を閉ざす竹の檻が、にわかに燐光を強めた。また何かしら幻影が現れるサインだ。 阿求とさとりは同時に身をすくませる。何かが襲いかかってくれば、もはや二人に為すすべはない。

2012-12-01 19:21:24
BIONET @BIONET_

「ヤッテヤル、ヤッテヤルゾー!」 上海人形だけは、抵抗するように極彩色の弾幕を放つが、いくつかの本物の竹をなぎ倒しただけで、道を開くことさえできない。上海人形にどれほどの確かな感情があるかはわからないが、まさしくやぶれかぶれというほかない。

2012-12-01 19:22:22
BIONET @BIONET_

「どうすれば、どうすれば……」 阿求は悲痛な声音でさとりに泣きすがる。さとりは感じた。胸元で嗚咽する阿求からの恐怖と、残悔の念を。 さとりもまた、絶望的な心地に浸りつつあった。だから、阿求を励ましたりするような言葉の一つもかけられない。

2012-12-01 19:24:09
BIONET @BIONET_

ただ、さとりは阿求から伝わってくる感情を、無念に思う。 抵抗する手だてもなければ、逃げる手だても存在しない。唯一働く思考だけが、絶体絶命か、と歯噛みして、首筋を這い上がる無力感に必死であらがった。

2012-12-01 19:24:44
BIONET @BIONET_

そもそも、あの幻はなんなのか。思えば、一番最初にアルフレッドの姿を見た時から、ずっと解消されていない謎だった。 死せるペット達、移りゆく竹の一生、数多の亡者の姿……共通するのは、かつて生き、そして死に至った者ということ。

2012-12-01 19:27:56
BIONET @BIONET_

そこでさとりは疑問を覚えた。さとりは、確かに今まで何匹ものペット達の死を看取ってきた。しかし一方で、竹の一生を眺めたことなどなければ、今まで目にしてきた亡者達とは、一切何の縁もゆかりもない。

2012-12-01 19:28:40
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