ゴフマンが警鐘を鳴らした「原子力社会の成熟」
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プルトニウム吸入による細気管支・肺胞ガン
(1)気管支原性肺ガンは、気管や主気管支にはめったに発生しない。また、非常に小さな細気管支に発生することもめったにない。つまり、圧倒的多数を占める肺ガンは区域気管支と呼ばれる気管支の中間的領域に発生する。
2012-12-10 12:27:08(2)肺ガンのうちそれほど主要でない(全体の10%程度)細気管支・肺胞ガンは、細気管支と肺胞のつなぎめに発生する。そのため、この領域へのプルトニウムの沈着、およびこの領域と区域気管支との間の相対的沈着量を決定する要因にとくに注目する必要がある。
2012-12-10 12:27:20(3)人間が他の生物と比べて発ガンの感受性が高いのか低いのか不明なため、一般的には他の生物のデータから人間に関する推定を行うべきではない。しかしプルトニウムの吸入による危険性はきわめて重要であり、さしあたってビーグル犬のデータで人間の肺ガンを推定してみることも無意味ではない。
2012-12-10 12:27:35(4)ビーグル犬の場合、肺の奥深く吸い込まれた二酸化プルトニウム粒子の大部分は細気管支・肺胞領域に沈着する。しかし細気管支・肺胞ガンだけでなく、プルトニウム沈着による気管支原生肺ガンも必ず発生するはずである。
2012-12-10 12:27:49(5)すなわち、プルトニウムによって誘発される細気管支・肺胞ガンの評価値は、肺ガン全体の発生数の最小値を表しているにすぎない。そしてこの最小値は、人間とビーグル犬では同じ感受性であると仮定して導かれることを忘れてはならない。
2012-12-10 12:28:01(6)ベアーとトンプソン(BairとThompson, 1974)はビーグル犬に酸化プルトニウムを吸入させて、細気管支・肺胞ガンを誘発させた。実験を始めた当時、プルトニウムの発ガン性は過小評価されており、投与された最小量でもビーグル犬の100%にガンが誘発されてしまった。
2012-12-10 12:28:14(7)そのため彼らの実験結果から評価できるのは、毒性がそれ以下ではありえないという最小値である。肺の1g(血液の重さは除く)当り0.049μgのプルトニウム239が沈着した場合に、100%のビーグル犬に細気管支・肺胞ガンが誘発された。
2012-12-10 12:28:26(8)人間の肺の重量は血液を除けばおよそ570gである。人間とビーグル犬が同じ感受性をもっていると仮定して人間にあてはめると、570×0.049=28μgのプルトニウム239が沈着すれば、確実に細気管支・肺胞ガンが生じることになる。
2012-12-10 12:28:42(9)原子力発電所で生成されるプルトニウムは純粋なプルトニウム239ではなくプルトニウム同位体が入りまじったもので、そのα線の強さは同じ重さの純粋なプルトニウム239に比べて約5.4倍強い。
2012-12-10 12:28:53(10)そのため同じ発ガン影響が生じるには原子炉プルトニウムでは1/5.4あればよい。従って原子炉プルトニウムの場合、人間の細気管支・肺胞ガン沈着量は28/5.4=5.2μg、また吸入量でいえば20.8μgとなる。
2012-12-10 12:29:14細気管支・肺胞ガンと気管支原性肺ガンの違い
(11)ICRPの作業グループ(Task Group on Lung Dynamics, 1966)のモデルでは、区域気管支に沈着した酸化プルトニウムは粘液の分泌と繊毛の運動とによって一日以内に鼻咽頭部へ吐き出され、その後胃腸管へ排出されると仮定されている。
2012-12-10 12:29:26(12)細気管支・肺胞というもっと深い領域では、酸化プルトニウムのような不溶性粒子は、非常に長い期間(500日)で残留すると仮定されているが、その理由はこの深部領域の細胞には繊毛がないからだというのである。
2012-12-10 12:29:37(13)喫煙者に限るわけではないが、こうした仮定を全人口の約35~50%を占める喫煙者についても適用することは重大な誤りであると1975年に私は忠告した。この誤りによってプルトニウム被曝による気管支原性肺ガンの危険性が極端に小さく評価されている。
2012-12-10 12:29:49(14)煙草を吸うとこの気管支細胞の繊毛が著しく傷つけられることを多数の研究が示している。上皮細胞の大部分から繊毛が失われ、残った繊毛も物質をはき出すという正常な機能を果たせなくなる(Auerbachら, 1961)。
2012-12-10 12:30:01(15)ICRP作業グループは鼻咽頭と気管・気管支領域の体積を133cm3と評価し、そのうち50cm3を鼻咽頭部に割り当てている。残りの83cm3が気管・気管支領域(終末細気管支よりもっと深い肺胞領域は含まない)の空気量となる。
2012-12-10 12:30:13(16)気管と主気管支の表面積は176cm2、上皮細胞の厚さを30ミクロンとすれば上皮体積は0.527cm3となる。区域気管支の表面積は354cm2、上皮体積は1.062cm3となる。週末気管支までの細気管支の表面積は655cm2、上皮体積は1.966cm3となる。
2012-12-10 12:30:25(17)ICRPのモデルでは吸入されたプルトニウムのうち25%は肺深部つまり細気管支・肺胞領域に沈着し、8%が気管・気管支領域に沈着すると仮定されている。さらに肺深部に一度沈着したプルトニウムのうち40%は呼吸気道を通って数日中に排出され、残った60%が長期間残留する。
2012-12-10 12:30:36(18)ICRPは気管・気管支領域に沈着した8%がすぐに排出されると仮定している。しかし喫煙者では気管・気管支領域の30%は繊毛が失われており、その領域はもともと繊毛がない肺深部の組織と同じふるまいをすると考えるべきである。
2012-12-10 12:30:48(19)以上を考慮すると、喫煙者がプルトニウム1μCiを吸入すると0.0144μCiが長期間残留し、はき出されるプルトニウムでさらに0.018μCiが沈着する。つまり喫煙者が1μCiのプルトニウムを吸入すると0.0324μCiが気管・気管支領域に長期間残留する。
2012-12-10 12:31:01(20)上皮体積1cm3を1gと仮定し、先に述べた三つの領域の上皮組織の重さに比例してプルトニウムが分布すると仮定すると、高感受性領域つまり区域気管支には1.062/3.555×0.0324=0.00968μCiが半減期500日で残留する。
2012-12-10 12:31:12(21)1.062gの組織に1μCiのプルトニウム239が沈着すると一日当りの被曝線量は2460レム、半減期500日を平均残留期間に換算すると721.5日なので、1μCi当りの総被曝線量は721.5×2460=1.77×10^6レムとなる。
2012-12-10 12:31:22(22)従って1μCiのプルトニウムを吸入するごとに高感受性気管支が受ける被曝線量は0.00968×1.77×10^6レム=17134レムとなる。非喫煙者でもいくらか繊毛は傷ついており、その割合は喫煙者に比べてだいたい1/20なので被曝線量は17134/20=857レムとなる。
2012-12-10 12:31:32(23)血液を除いた肺の総重量は570gであり、気管支部の重さを70gとすると、肺の残りの重さは500gとなる。繊維質、毛細血管といった中間領域の重さを考慮して、細気管支と肺胞の上皮細胞の重さは全体の1/4つまり125gを超えることはないであろう。
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