熱い芦部信喜と冷めた佐藤幸治

自然法の理想的観念を追究した芦部信喜と、実証主義を貫いた佐藤幸治、そのスタンスの違いを、高島章弁護士が語りました。
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高島章 @BarlKarth

 芦部信者(信者というのは別に揶揄ではない)は憲法を熱く語るが,佐藤幸治信者は何となく醒めていている。これは,それぞれの教祖の学風の反映だろう。俺は,佐藤幸治教なので,憲法改正草案を色々批判しているが,根本は冷笑的な批判。

2012-12-10 16:49:02
高島章 @BarlKarth

 芦部教は,矢張り一種の自然法思想なのだろう。天賦人権,自然権,憲法改正の限界,氏が言うところの根本規範。いずれも自然法的なとらえ方だ。その点は,落合さんの紹介(『憲法制定権力』前文に転向後ラートブルッフの引用がある,芦部氏の戦争体験)からもよく分かる。

2012-12-10 16:53:19
高島章 @BarlKarth

対して,佐藤幸治は,基本的に実証主義者だ。前文に「立憲主義へのアフェクション」という熱情的な言葉があるが,清宮・宮沢・芦部流の自然法臭さはほとんどない。これは,広い意味の京都学派,佐藤幸治の学統の影響だろう。

2012-12-10 16:56:01
高島章 @BarlKarth

 佐藤幸治は,「自然権的な人権条項は憲法改正の限界」と述べる。しかし,佐藤幸治は,端的に(いわば自然法的発想で)「自然権」を肯定しているわけではない(あくまでも管見の限りであるが)。実定法たる日本国憲法典が「自然権を認めているから」という発想である。

2012-12-10 16:58:58
高島章 @BarlKarth

「憲法典が自然権を認めているから」という説明は,言葉を換えると,「憲法典が明示的あるいは黙視的に改正を禁止している条項は改正できない」という極めて実証的発想である。確か佐藤幸治の師匠佐々木惣一,大石義雄先生も同様でなかっただろうか?

2012-12-10 17:01:27
高島章 @BarlKarth

佐藤幸治的考えでは「〇条 1動物を殺すときは麻酔をすべし。2前項は改正してはならない」というのも本質は自然権条項の訳だ。第1項にそれ自体価値があるから改正が禁止されるわけではない。

2012-12-10 17:03:49
高島章 @BarlKarth

 ややあおった言い方をすると「逝かれたヤンキーGHQが自然権が-」と定めたかどうかの問題になる。

2012-12-10 17:05:09
高島章 @BarlKarth

法哲学的な言い方をすると,芦部教は理性主義,カトリックで言えばトマス主義,佐藤幸治教は意思主義,オッカム主義と言えよう。

2012-12-10 17:07:17
高島章 @BarlKarth

 オッカム・ケルゼン・シュミット(シュミットはよく知らない)ついでに言えばカール・バルト的意思主義では法は主権者(神・王・人民)の意思であり,意思を制限する高次の何ものか(自然法みたいなもの)は存在しない。

2012-12-10 17:10:53
高島章 @BarlKarth

 対して芦部先生は,やはり自然法的なものを認めており,そこから自然権・憲法制定権力を基礎づけている。自然法だから,そこには(法規範段階構造としての授権性だけでなく)内容性があり(個人の尊厳とか)その内容が下位法である憲法典や憲法改正権力を制限する。

2012-12-10 17:13:43
高島章 @BarlKarth

 私は大学3-4年生のころ,ケルゼン,らーどぶるっふ等を少し読んでいたので今述べたようなことに気づいた。確か芦部三部作も図書館や政教で立ち読みして,「俺にはこれはダメだ」と思った。

2012-12-10 17:15:38
高島章 @BarlKarth

 実は,佐藤幸治を読み始めたころ同人の言う「自然権」理解に難渋した。「これは自然法論ではないか?」しかし,今述べたような理解に達し,佐藤幸治の本を読み続けることにした。この理解に達したときは,一種の法悦状態だった。「アルス・オプなんだ!」 

2012-12-10 17:18:03
高島章 @BarlKarth

 憲法改正の限界を超えた新憲法(自民党改正案はこれに当たると思う)をどう考えるか? という問題でも佐藤幸治は冷笑的だ。「しょうがないじゃん」という感じ。芦部先生の見解は知らない。「革命件を行使せよ」というノリだろうか?

2012-12-10 17:20:09
高島章 @BarlKarth

 余談だが,佐藤幸治の叙述には,矢張り新潟県民に良くある諦念・冷笑性を何となく感ずる。新潟県人というのは親の葬式を冷静に分析して冷笑する気風を持っている。そんな感じが本の端々から感じられた。芦部先生の場合,信徒の暑さから見て,情熱的な人が多いのかも知れない。

2012-12-10 17:22:31
高島章 @BarlKarth

 その上,佐藤幸治は,学者から政治家へと転向し,「いわゆる司法改革」を始めた。そしてその惨憺たる成果について責任をとろうとしない。学者時代カルト的に信奉していた佐藤幸治信者も大部分が棄教した。

2012-12-10 17:25:35
高島章 @BarlKarth

今となっては,教えを受けたというゥ記憶すら消し去り,元信者であることを隠し,いわゆる司法改革を呪っている連中もいて,例えばというと俺がそうである。

2012-12-10 17:26:39
高島章 @BarlKarth

 私も落合先生のように,佐藤幸治を基本としながら芦部先生の論文集を少しでも読んでいれば良かったと反省している。

2012-12-10 17:30:08