舞城王太郎Twitter連載小説「NECK the seventh」第97話~第108話
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(97)「悪いね唐突に。早速だけど一緒に来てもらえる?」「・・・」。急かす。「結論から言います。お父さん、生きてるよ」久里緒が言う。「その通りです」 #neckthe7th
2010-08-09 12:00:33(98)え。 硬直する俺の前で久里緒が振り返り、呼ぶ。「お父さん」 すると廊下の一番奥のドアが開き、パジャマ姿の横溝正敏が現れる。 #neckthe7th
2010-08-09 15:00:07(99)俺は腰の拳銃に手をやるが、同時に気付く。そこにいる横溝正敏は、俺を追い立てる首以下マシーンの横溝じゃない。ぼんやり微笑んでるような顔つきをしてふらふらと危うい足取りで、まるで横溝の形をした風船だ。とてもじゃないが時速百二十キロで走れそうではない。 #neckthe7th
2010-08-09 18:00:07(100)「これは・・」「実はお父さんが死んで三ヶ月くらいたったくらいのとき、庭にいたんです。お父さん」「・・・」「よく判らないんですけど、これ、お父さんです。でも死んでお葬式をしたのもお父さんだったし、上手く整理ができなくて・・。 #neckthe7th
2010-08-09 21:00:07(101)で、お父さんについて台無さんに調べを続けてもらってたんですけどやっぱり何もはっきりしたことが出てこなかったじゃないですか。その間に私とお母さんも、このお父さんをお父さんとして受け入れることにしたんです。 #neckthe7th
2010-08-10 12:00:12(102)ちぐはぐで理屈は通らないけど、とにかく私たちのお父さんなのは間違いないわけですから」 という久里緒の話を聞きながら、俺は悟る。 #neckthe7th
2010-08-10 15:00:05(104)悲しい横溝正敏の頭め。心がないせいで、ここを探すことが想像できなかったんだ。一番最初に探すべき場所なのに、きっと家族を守るためにも近づいてはならないと決め込んでいたせいもあるんだろう。 #neckthe7th
2010-08-10 21:00:05(105)それが頭を固定してしまっていたんだ。その指令が頭を占めていて、心と離れてしまっていたんだ。 馬鹿め。 #neckthe7th
2010-08-11 12:00:09(106)「でも、お父さんと一緒にいられるのももうあとわずかだと思います」と久里緒が言う。 「どうして?」 #neckthe7th
2010-08-11 15:00:07(107)「お父さん、何て言うか、少しずつ薄くなってきたんです。おぼろげになるって言うか、不確かな感じに」 そうか。そりゃそうなるんだろう。 頭がないからだ。 #neckthe7th
2010-08-11 18:00:06(108)何も憶えられない。考えられない。 心だって記憶の蓄積の中で育っていくものだ。 頭と心が同時に働いてこそお互いが育つんだ。 #neckthe7th
2010-08-11 21:00:06