山本七平botまとめ/【マッカーサーの戦争観③】/役に立たなかった大日本帝国陸海軍

山本七平著『ある異常体験者の偏見』/マッカーサーの戦争観/207頁以降より抜粋引用。 ※番号振り間違い、及び、一部ツイート抜けがあります。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】…この平和憲法発布の当時、これに少しも違和感を感じさせなかった一つの「実感」へとまず進もう。それは一言でいうなら「あれだけやってダメだったのだから、日本国が生存を続けようとするなら発想を変えて別の方向に生存の道を探らねばならない」といった感じであろう<『ある異常体験者の偏見』

2012-12-17 02:27:47
山本七平bot @yamamoto7hei

2】この感じは、少しくわしく説明しなければならない。 それは「……いざというときに役に立たない自衛隊……」といった言葉があるが、それよりもはるかに強烈な「あの陸海軍が、いざというときに役にたたなかった」という実感である。

2012-12-17 02:57:38
山本七平bot @yamamoto7hei

3】「無条件降伏をした」という事実、それは否定できない事実であり、その現実を直接目にした者には「大日本帝国陸海軍は無用の長物であった」という判定への、いかなる釈明も受けつけ得ないのである。 少なくとも軍隊にとって「無条件降伏」とは、釈明できる事態ではない。

2012-12-17 03:27:48
山本七平bot @yamamoto7hei

4】しかし人は自分が払った犠牲が全て無駄であったとは考えたくない――従って種々様々な「言いわけ」は出てくるであろう。 しかし「無条件降伏」とは、その軍隊が「一国の安全保障も独立の保持もなし得なかった」という決定的な最終的判決であって、その判決には…控訴の余地などはないのである。

2012-12-17 03:57:37
山本七平bot @yamamoto7hei

5】そこでまず何よりも前にこの判決を…再確認しておこう。そして私がのベた「あれだけ…」という言葉は、この結果と戦争中の事との対比だけではないのである。 戦前の日本の軍備が、海軍においては当時最大の軍事国家米英の六割から七割、陸軍は装備は劣悪とはいえ最盛時で七百万人であったという。

2012-12-17 04:27:51
山本七平bot @yamamoto7hei

6】中ソ国境にソヴィエト軍百万が集結したとか、ヴェトナム派兵最大時のアメリカ軍が約五十万とかいう数と比較すれば、この七百万がどれほど膨大で、従ってどれほどの大負担かは想像できよう。

2012-12-17 04:57:39
山本七平bot @yamamoto7hei

7】海軍が一流軍事国家の六~七割ということは、今になおせば、米ソそれぞれの六~七割ということになろう。海空軍、戦略爆撃機からミサイル・原水爆まで、もし米ソの約六~七割の軍備を保持すれば、今の日本はどうなるであろう。

2012-12-17 05:27:53
山本七平bot @yamamoto7hei

8】おそらくその生活水準は終戦直後ぐらいにならざるを得ないであろうが、戦前の日本は確かに、それだけのことをやったのである。 そしてそれだけやっても、無駄だったのである。 今とは規模は違うであろう。

2012-12-17 05:57:39
山本七平bot @yamamoto7hei

10】また戦艦大和が人類史上最大の戦艦であったことも事実であろう。 しかしそれらが造られているとき、東北の農民は飢えていた。 豊作でカユをすすり、凶作で娘を売る、といったさまざまな悲惨な物語が伝えられた。

2012-12-17 06:27:48
山本七平bot @yamamoto7hei

11】今、街頭で西アフリカやバングラデシュの飢饉のため募金が行われている。 ところが私の学生時代には、専ら「冷害で餓死に瀕した東北の農民」のために、街頭募金が行われたのである。 今では想像もつくまい。

2012-12-17 06:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

12】「トチの実もドングリも食べつくし、ワラモチで飢えをしのいでいます」といって、その実物を机に並べて街頭に立ったグループもあった。 …こういうこと、すなわち「国民が飢えに瀕しても原爆や戦艦を造る」といったことは、多くの民族が通過しなければならぬ一段階なのかも知れない。

2012-12-17 07:27:52
山本七平bot @yamamoto7hei

13】だがそれはいずれの国民が行おうと結局はすべて無駄なのである。 いまどき一、二個の原爆や水爆をつくるということは、太平洋戦争の直後に戦艦大和をつくるぐらいの愚行であり、軍事的に見れば、栄光を追うおいばれの老将軍や軍事委員会主席の白昼夢に基づく浪費にすぎない。

2012-12-17 07:57:38
山本七平bot @yamamoto7hei

14】だがここで誤解してならないことは、そういう状態を、その国民であれ当時の日本人であれ、圧政とは受けとらないことである。 ここに軍備というものがもつ奇妙な魔力、子供を異様にひきつけるある魅力にも似た魔力がある。

2012-12-17 08:28:04
山本七平bot @yamamoto7hei

15】当時の日本人が物凄い軍備の重圧下に苦しみ呻き、かつ怨嵯の声をあげていたかのように言うのは戦後に創作された虚構であり、当時はそういう事を言う人は例外であり異端者であって、一般はむしろ逆で…そういった批判を口にすれば、最もそれに苦しんでいる筈の農民から面詰されるのが普通であった

2012-12-17 08:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

16】彼らは軍備を、軍艦や戦闘機や砲を、血と汗できずきあげた誇るべき自分たちの共有財産のように考えており、それらにケチをつけるような者は、ただではおかない、という面があった。

2012-12-17 09:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

17】一方、軍の側にも明らかにこれに対応する考え方があった。人間より兵器を大切にしたことは、前にもいったように事実であるが、兵器について必ずいわれたことで、今では忘れられている言葉は、「御紋章」と同時に「お前たちの父母の血と汗の結晶である」という言葉である。

2012-12-17 09:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

18】この考え方は海軍にもあったようで、大和出撃の動機の一つが「国民に多大の犠牲を強いて造った戦艦を戦わずして敵の手にわたすことは出来ない」ということだったそうである。

2012-12-17 10:28:04
山本七平bot @yamamoto7hei

19】いわば「身分不相応」な軍備が国民に極限ぎりぎりの犠牲を強いつづけて来たことを実感している当時の軍人には、「共有財産」を活用もせずに、勝手に敵手にわたして平然と「降伏」することは、何としても出来ないことだったのであろう。

2012-12-17 10:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

18】…自己の貧しさが、今、目の前に存在するもののためであるという意識は彼らには皆無であった。 それは、子の進学のため犠牲になることに喜びを感じている親のようなものだったかも知れない。

2012-12-17 11:28:03
山本七平bot @yamamoto7hei

19】進学なんぞそれだけの犠牲を払う価値などないといえば、逆にその親が激怒するように、あなた方の貧しさも苦しさもその砲にあるのだといえば、逆に彼らに告発されたであろう。 そこに親子一体の涙ぐましい努力に似たものがあったことは、私には否定したくても否定できない。

2012-12-17 11:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

20】ただ比島、いわゆる「太平洋戦争の旅順」で生き残った者――長い間、多くの国民に餓死直前同様の耐えうる限度ギリギリの負担をかけて、陸海それぞれ七割・七百万という軍備を整え、それを用いて人間の能力を極限まで使い尽すような死闘をして、そして「無条件降伏」という判決を得た現実、(続

2012-12-17 12:28:05
山本七平bot @yamamoto7hei

21】続>しかもあまりに惨惰たる現実を否応なしに見せつけられた者には、二つの感慨があった。

2012-12-17 12:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

22】これだけやってダメなことは、おそらくもう誰がやっても、どのようにやっても、ダメであって、あらゆる面での全力はほぼ出し切っているから、「もし、あそこでああしていたら……」とか「ここで、こうしていたら……」とかいう仮定論が入りこむ余地がないということ。

2012-12-17 13:28:03
山本七平bot @yamamoto7hei

23】そしてあの農民のことを思い出せば、あの人たちは本当に誠心誠意であり、一心同体的に当然のことのように犠牲に耐えていたこと。 そしてもう一つは、どこでどう方向を誤ってここへ来たのであろうか、ということ。

2012-12-17 13:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

24】そしてその誤りは、絶対に一時的な戦術的な誤り、いわば「もしもあの時ああしなければ……」とか「あすこで、ああすれば‥…」とかいったような問題ではなく、もっと根本的な問題であろうということであった。

2012-12-17 14:28:03