バトルクエスト・クレンチ・ユア・フィスト #2

翻訳チームによるサイバーパンクニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) 日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆ヴェールが開き、X字の鋲打ちベルトとバラクラバを身につけた屈強な親衛戦士が、金の首輪をつけた「今回の成果」を浴槽の縁に立たせた。彼女は恐怖に震えていた。オーバーウェルムは目を見張った。ガンダルヴァは目を細めた。「ようこそ、キナコ=サン。快楽の園へ」◆

2012-12-26 19:51:38
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「バトルクエスト・クレンチ・ユア・フィスト」#2

2012-12-26 19:51:57
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「成る程これは……」オーバーウェルムは感嘆の声を漏らした。ガンダルヴァは得意げに頷いた。「のう?これが宝玉よ。家財を焼き捨て、親族を絶やし、こうして召し上げるに躊躇い無し……フー!」ガンダルヴァは達した。脚の間の湯が泡立ち、水中から別のオイランが顔を出した。潜っていたのだ。 1

2012-12-26 19:59:41
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オイランは喉を鳴らして笑い、ガンダルヴァにしなだれかかった。ガンダルヴァは煩わしげに女を傍にのけた。女は湯からあがり、手近の男オイランの手を取り、ヴェールをくぐって消えた。ガンダルヴァはキナコを見た。「楽しき園だ。恐れるな!すぐにお前も蠱惑の笑みで応えるようになるゆえ」 2

2012-12-26 20:06:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヒ……」キナコは息を呑み、後ずさろうとした。親衛戦士が鎖を引き、諌めた。キナコは従った。瞳孔が開き、瑞々しい唇はかすかに開いている。没薬が既に作用し始めているのだ。「美酒、美食でその美体を清め、磨き上げて、邪気を払い、神の園の乙女に相応しき霊的覚醒者たるべし」 3

2012-12-26 20:11:49
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ガンダルヴァは手振りでキナコを近づけた。片手を上げ、自分のすぐ後ろに立たされたキナコの足先から太腿へ邪悪な指を添わせた。オイラン達が笑った。皆、美しかった。オイランドロイド以上に。だが、人間である。ガンダルヴァが日本中から、更にはキョートの空港経由で集めてきた奴隷達なのだ。 4

2012-12-26 20:18:34
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憔悴し、怯えてなお、キナコは彼女らに劣らぬ、内側から輝くような美しさを備えていた。「興味深いものよ!醜い寒村にこのような原石が眠りもする。一方で、ネオサイタマのネオンのあわいにも同様に宝玉は眠る。法則がわからぬ。遺伝子の謎よ」「で、こいつは売り物にするか?それとも、ここに?」5

2012-12-26 20:22:40
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「それは彼女の到達段階如何、努力如何よ」ガンダルヴァは溜息を吐いた。オイランの一人が嬌声を上げ、脚の間の湯の中へ潜り込んだ。「神の園に遊び歌い続けるには……アー、よいぞ……それだけ、美しく高めねばならぬぞ?キナコ=サン。七日で邪気を払い、そののち、私自らしっかりと」「ヒ……」6

2012-12-26 20:29:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

チコチコ。シャチホコの目が輝いた。オーバーウェルムはオイラン達を振り捨て立ち上がる。8フィートの巨躯!「客人の到着ですな。一番乗りだ」「丁重にもてなせ」ガンダルヴァは微笑んだ「お前の満足できるカラテカは果たしておるや?」オーバーウェルムは鼻を鳴らした。「常に満足です。壊すのは」7

2012-12-26 20:37:27
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ドドドドドド……煩いエンジン音と船体の震え。風を切って真っ直ぐに進むボート上には数人の護衛とクライアント老人、そして、どことなくニンジャ装束めいたバトルカフタンを着た片腕のボンズ……アコライト。彼は首を巡らし、洋上に浮かぶクルーザーを見た。「セッタイ・アイズルはな」と老人。 9

2012-12-26 20:48:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もとは、海底の石油掘削施設を中心に作られた、なかば人工の島よ。島ごと遺棄された。理由などどうでもよいが、とにかく電子戦争以後、無人の島となっておった。二年前まではな」前方、コンクリート補強された岸壁が徐々に大きくなる。プロジェクト住宅じみた高層の廃墟群がその上に乗っている。10

2012-12-26 20:58:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

後方、クルーザーはどんどん小さくなる。大型船舶はあれ以上近づいてはならないという決まりだ。老人は目の上に手をかざした。「嫌な太陽じゃ」アコライトは目を閉じた。老人の説明に、彼自身がハッカーから取得した情報のマイコ音声の記憶が重なる。「遺棄された島を訪れ、居を構えた者あり」 11

2012-12-26 21:03:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……地権者がいかにして廃墟の地権を手中に収めたか。刑務所を出所したのち(そう、彼は比較的短い刑期であるが刑務所にいた。詐欺と監禁の罪だ)、どこで何をした末に、誰の協力を得て、そのような行動に出るに至ったのか。定かでは無い。気がつけばその廃墟の中に、おかしな宮殿が作られていた。12

2012-12-26 21:13:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

時を経ずして、「ビジネス」が始まった。ヤクザマネーのロンダリング。中立的な闇ケジメ・セレモニー会場の提供。密売される麻薬。違法登録オイランドロイド。大トロ粉末。……そして、人身! 13

2012-12-26 21:44:17
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廃墟に、海に囲まれ、電子的・物理的鎖国の境界線を東に望む謎のヘイブンは、あまりにも自然に、百年前から存在していたかのように自然に、するりと暗黒社会に滑り込み、闇の諸侯達によって諸手を上げて承認された。孤島の主の名はガンダルヴァ。彼は、ニンジャであった。 14

2012-12-26 21:51:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

セッタイ・アイズルの中心部、廃墟の只中、ただそこにのみ人が住むガンダルヴァの居城、その名も「神の園」、通称マッポー・オイラン・パレス……ギリシア宮殿に瓦屋根をしつらえたネオヘレニズム様式の建築物を毎夜、煌々とライトアップするサーチライトは、天に向かって矢を放つが如し。15

2012-12-26 22:01:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そしてガンダルヴァは単なる闇取引の調停者では無かった。宮殿はガンダルヴァを教祖とする謎めいたカルトの神殿でもあった。不気味な文化混合物じみた建築物と同様、その教義は奇怪な継ぎ接ぎの産物であり、性的快楽に対するガンダルヴァの執着心を露骨に反映させたものであった。 16

2012-12-26 22:30:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

さらに驚くべきは、セッタイ・アイズルを闇調停の場として利用するオヤブンや堕落政治家、退廃社長といった者達の中に、このカルトの信奉者が少なからず存在していた事である!彼らはダーティーマネーを気前良く寄進し、競い合って性的イコンを奉納するのだ! 17

2012-12-26 22:37:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お前は場違いにも程があるッて事になるな、清廉なボンズ殿」老人はアコライトを見た。「エエッ?」「気にする事も無いでしょう」アコライトは微笑した。「要は、私は貴方が雇ったチャンピオン(代理戦士)で、それ以上でもそれ以下でも無いわけです」「その格好でほざく!まあいいわい」 18

2012-12-26 23:02:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

老人は進行方向を見た。セッタイ・アイズルの岸壁が近い。小さな港には既に数隻のボートが繋がれている。「チャンピオン(代理戦士)!ハッ!その通り。あの教祖らしい気取った名付けよ!なあボンズ殿。要は闘犬じゃ。喉首かっ喰らうイクサよ!」「……」「……ニンジャ同士のな!」 19

2012-12-26 23:06:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

深いスリットの入った黒いオイランドレスを着た女が、二人の屈強な親衛戦士を連れて岸壁に立っていた。「ドーモ、ジバヌチ=サン。神の園は貴方がたを歓迎します」女は親衛戦士とともに岸壁の階段を降り、ボートに近づいた。「フン!」老人は女の手を取り、停止したボートから飛び移った。 20

2012-12-26 23:18:33
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アコライトが、そして護衛達が続いてボートを降りる。コーカソイドの美女はジバヌチらを先導し、歩き出す。「既にいらっしゃっている方々も」「せいぜい愉しませてもらうぞ。お前も売り物か?」ジバヌチは不躾に訊いた。女は微笑んだ。「ええ。少し高いですが」「名を言え」「アナスタシアですわ」21

2012-12-28 15:07:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

一団は埃っぽい平地を、朽ちかかったアスファルト沿いに進む。左右に谷めいてそそり立つ灰色の廃墟マンション。アスファルトには、潮風に色褪せたカエルのアイサツ絵がいまだそのままに残されている。「たのしいお友達の島は石油もいっぱいで幸せです」かつてありし希望の残滓……。 22

2012-12-28 15:12:55