西住殿の戦車講話#4 「装甲と砲弾の歴史Ⅱ」

西住殿による装甲と砲弾の歴史の続きであります。 今回は新世代の砲弾に対抗するための装甲が主であります。 流石に現行のものだけあって、詳しい所は機密なモノが多いですね。 前回はこちら(http://togetter.com/li/423091
26
西住みほ @Miho_Nishizumi

装甲と砲弾の歴史その2です。例によって大したことはつぶやかないので、過度な期待はしないでくださいね。

2012-12-30 23:05:10
西住みほ @Miho_Nishizumi

さて、装甲と砲弾の関係は追いかけっこというかいたちごっこというか、まさに矛と盾の関係で、ある砲弾に対して有効な装甲が登場すればそれに対抗する砲弾が現れ、またそれに対抗する装甲が表れたらその装甲に有効な砲弾が現れるという歴史を繰り返しています。

2012-12-30 23:07:05
西住みほ @Miho_Nishizumi

防弾鋼板一つ取ってみても、初期の表面硬化処理をしただけの鋼板から均質圧延鋼板へと、時代を経るごとに素材技術は進歩していきます。

2012-12-30 23:09:02
西住みほ @Miho_Nishizumi

たとえば八九式中戦車に使われた「ニセコ鋼」。これは表面の炭素量を増加させ、表面のみを焼き入れ硬化処理するというものでした。何故表面のみ固くするのかというと、当時の冶金技術では均質圧延鋼で十分な強度が確保出来なかったためです。これについてはあとで少し触れます。

2012-12-30 23:11:07
西住みほ @Miho_Nishizumi

そして、前にもつぶやきましたが、傾斜装甲(避弾経始)によって実質的な装甲の厚さを増し、跳弾の効果を期待するというのも革新的なことでした。ちょっと想像してみてください。同じ厚さの鉄板を傾けてみると、実質的な厚さが増すのが分かると思います。 http://t.co/iKZZkfke

2012-12-30 23:13:37
拡大
西住みほ @Miho_Nishizumi

実質的な厚さが増すのと同時に、避弾経始により跳ね返す事が可能になります。これはそうですね……川や池で「石切り(水切り)」をやったことがある人なら分かるかもしれませんが、浅い角度で装甲表面に命中した砲弾が、貫徹することなくはじかれてしまうという現象です。

2012-12-30 23:17:17
西住みほ @Miho_Nishizumi

均質圧延鋼装甲は、戦後第2世代戦車でよく使われた装甲です。全体が均質な圧延鋼板を用いた装甲で、初期の表面処理だけを施した防弾鋼板と違い、均質圧延鋼は「固くすれば割れやすく、粘りを持たせれば硬度が落ちる」というジレンマを克服したものでした。

2012-12-30 23:20:02
西住みほ @Miho_Nishizumi

均質圧延鋼板や防弾鋳鋼による避弾経始重視の設計は、戦後第2世代戦車では標準的なものになりました。ですが、避弾経始はHVAP(高速徹甲弾)などには有効でしたが、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)にはほとんど効果がありませんでした。

2012-12-30 23:22:58
西住みほ @Miho_Nishizumi

APFSDSは、浅い角度で装甲に命中しても、弾かれることなく装甲を浸徹してしまいます。湾岸戦争でT-72がM1A1に一方的に蹂躙されたのは、避弾経始重視のT-72に対して、M1A1が劣化ウランによる複合装甲をもっていたことが非常に大きな原因だと思われます。

2012-12-30 23:26:23
西住みほ @Miho_Nishizumi

先にも触れましたがAPFSDSやHEATなどに対しては均質圧延鋼装甲や避弾経始も有効ではないため、さらなる工夫が必要になりました。その一つが「中空装甲」とよばれるものです。

2012-12-30 23:30:01
西住みほ @Miho_Nishizumi

中空装甲(空間装甲とも)というのは、主装甲の外側に空間を持たせて防弾鋼板を取り付けたもので、鋼鉄と空気による複合装甲の一種と言ってもいいかもしれません。これはHEATに対して有効でした。韓国のK1やK1A1はこの中空装甲を採用しています。 http://t.co/Bg2FCinN

2012-12-30 23:34:05
拡大
西住みほ @Miho_Nishizumi

第二次大戦中のドイツのシュルツェンなどの増加装甲も、後の中空装甲(スペースドアーマー)に通ずる効果がありました。主装甲の外側に薄い防弾鋼板を一枚置くだけで、対戦車榴弾(HEAT)の威力をかなり殺ぐことができたのです。

2012-12-30 23:37:09
西住みほ @Miho_Nishizumi

さて、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)やHEAT(対戦車榴弾)に対して有効な装甲をということで考えられたのが複数の異なる素材を積層させた「複合装甲」です。防弾鋼板とセラミックやチタン、劣化ウランや強化繊維プラスチック、カーボンファイバーなどの素材を積層させたものです。

2012-12-30 23:40:03
西住みほ @Miho_Nishizumi

複合装甲の素材に関しては、各国の軍事機密で、詳しいことは分かっていません。ですが、試験映像などを見ることで「この装甲には何が使われているか」を推測することは可能です。

2012-12-30 23:44:18
西住みほ @Miho_Nishizumi

たとえば某国の戦車に使われている複合装甲ですが、試験映像を見ると着弾時に白い粉末が飛び散っている様子が見られました。これはおそらくセラミックが割れた際にでた粉じんだと想像できますので、セラミック系の複合装甲だと考えられます。

2012-12-30 23:48:40
西住みほ @Miho_Nishizumi

90式戦車や10式戦車にも複合装甲が使用されていますが、その構造や素材は一切明らかにされていません。ですが、90式戦車の場合、同車が搭載している120mm砲のAPFSDSを複数撃ち込んで、なお走行可能であったという話があります。

2012-12-30 23:52:31
西住みほ @Miho_Nishizumi

セラミックを使用した複合装甲がどうやって砲弾を防ぐのか。簡単に言うと「HEATのメタルジェットの速度よりセラミックが割れる速度の方が遅いために貫徹が阻害される」ということです。割れたセラミックを「どける」作業にも砲弾のエネルギーが使われるので、より効果的です。

2012-12-30 23:56:42
西住みほ @Miho_Nishizumi

APFSDSも、重金属の弾芯が高速で衝突したときに流体金属化することによって装甲を浸徹する事を狙った砲弾なので、複合装甲はこの砲弾に対しても有効です。HEATやAPFSDSに対する複合装甲の防護力は、均質圧延鋼装甲(RHA)1000~1500mm相当に達するそうです。

2012-12-30 23:59:34
西住みほ @Miho_Nishizumi

ただしここで一つ問題が。HEATやAPFSDSに対応するための複合装甲ですが、古いタイプの徹甲弾に対しては均質圧延鋼より性能が劣ることがあるのです。爆弾の破片などに対しても複合装甲は有効ではありません。そのため、複合装甲の外側に防弾鋼板の増加装甲を取り付ける場合があります。

2012-12-31 00:04:11
西住みほ @Miho_Nishizumi

さて、一見すると無敵に近いように見える複合装甲ですが、対処する方法がないわけではありません。まず思いつくのはAPFSDSの砲口初速を上げてやることです。砲弾の貫徹力は速度の自乗に比例、質量に比例して大きくなることは以前お話したと思います。

2012-12-31 00:08:35
西住みほ @Miho_Nishizumi

十分な砲口初速が得られれば、現代戦車の複合装甲ですら貫通できるはずです。ダイキン工業の試作135mmAPFSDSは砲口初速2000m/秒以上を達成していたそうで、この技術は10式戦車の44口径120mm砲用の新型徹甲弾に応用されているようです。

2012-12-31 00:12:51
西住みほ @Miho_Nishizumi

APFSDSの砲口初速は、速い物でも大体1700m/秒程度です。基本的に銃や砲というものは、銃身・砲身が長い方が初速が速くなります。砲弾が加速出来るのは砲身の中だけだからです。しかし、自衛隊は10式採用にあたって55口径の長砲身砲を採用しませんでした。

2012-12-31 00:18:03
西住みほ @Miho_Nishizumi

伝え聞くかぎりでは、10式で90式用のAPFSDSを射撃することは可能ですが、90式で10式用の新型砲弾を射撃することは禁止されているようです。10式が55口径戦車砲を採用しなかったのは、この新型高腔圧戦車砲が実用化出来たことが大きいと思われます。

2012-12-31 00:21:24
西住みほ @Miho_Nishizumi

複合装甲で砲弾を防げたと仮定しましょう。これはAPFSDSだけに限らず、普通のAP弾やHEP(粘着榴弾)でもそうですが、これらが戦車などの装甲板に当たると、大きな衝撃が発生します。これによって装甲内側の金属が剥離し、乗員を傷つけることがあります。これを防ぐのが内張り装甲です。

2012-12-31 00:26:36