山本七平botまとめ/【恐ろしい話②】/「死の詐欺師」より恐ろしい「思想的(宗教的)な使命感」/~恐ろしさの”起点”は経済的動物(エコノミック・アニマル)ではない人間~

山本七平著『無所属の時間』/さらに恐ろしい話/72頁以降より抜粋引用。
3
山本七平bot @yamamoto7hei

①【さらに恐ろしい話】前回記した「死の詐欺師」は確かに「ひどい話」だが、これはまだ本物の「恐ろしい話」ではない。 もっと恐ろしい話がある。<『無所属の時間』

2012-12-22 03:57:38
山本七平bot @yamamoto7hei

②山崎正和氏が、スペイン人のメキシコ攻略を評して「単純な物質欲よりも、ときに、思想的な使命感のほうがより恐ろしい、という事情は現代でも余り変わらない」と記されている。

2012-12-22 04:27:50
山本七平bot @yamamoto7hei

③確かにその通りであろう。 「死の詐欺師」は、相手にドルがある限りは、次々と新しいスクラップを売り込みに来るであろうが、それは「単純な物質欲」にすぎず、相手にドルがなくなれば、もう近よろうとはしない。

2012-12-22 04:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

④同じようにメキシコに来たスペイン人も銀塊の掠奪で満足して引き揚げたなら、確かにそのほうが「恐ろしい話」でなかっただろう。というのはメキシコ人は豊富だが余り用途のなかった銀をそれほど貴重品とは考えていなかったのだから。――ちょうどある時期に石油採掘に無関心だったアラブ人のように。

2012-12-22 05:27:49
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤ところがスペイン人は、ここで、メキシコをカトリック教化しようと”宗教戦争”をはじめ、恐るべき大量虐殺事件を惹起してしまうのである。

2012-12-22 05:57:38
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥どうも人間は、単なる”経済的動物”(エコノミック・アニマル)ではないらしく、そして、この″経済的動物″でないという点が、つねに、もっと「恐ろしい話」の原因になってしまう。 そして多くの場合、発端そのものも、後代の分析のように経済的原因ではない。

2012-12-22 06:27:45
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦そしてそれを表象するのがパレスチナ問題である。 パレスチナ問題がその発端から「経済的問題」なら、とうの昔に解決したであろうし、いや、はじめから何の問題にもならなかったであろう。

2012-12-22 06:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧多くの専門家が指摘するように、ここは、経済的な面では、”争う価値なき土地”である。 石油・石炭はもちろんない。 鉱山資源も殆どない。 沃地はきわめて少なく、大部分が岩砂漠である。 水は十分でなく、水力資源はもちろんなく、南部のエイラットでは海水まで利用している。

2012-12-22 07:27:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨今でこそ植林されて幾分かは緑があるが、森林資源といえるものはなく、1930年代の紀行文は、この地を「月世界はおそらくこういった姿」であろうとか「白墨(チョーク)のパケモノの地」とか記している。

2012-12-22 07:57:36
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩この地がパレスチナでなければだれも見向きもせず、世界が狭くなったとはいえ、この水準なら、今なお無人に等しき状態で放置されている土地は、中南米・アフリカ・大洋洲にいくらでもあり、そして「ある」ということが人の意識にのぼらぬほど、その地は無視されている。

2012-12-22 08:28:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪従ってパレスチナは、経済的理由だけなら、元来、「ある」ことすら意識されないのが当然とされる土地だという。 現代の世界のさまざまな問題の一つはおそらく、「単純な物質欲よりも、ときに、思想的な(また宗教的な)使命感のほうが恐ろしい」という点にあるのであろう。

2012-12-22 08:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫われわれは問題の所在をつきとめ、解決点を見出すにあたって、常に、国内問題も外交問題も、経済的観点からのみ対象を見、そこにだけ解決の方途を見出しうるという偏見をもちすぎているように思う。

2012-12-22 09:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬「死の詐欺師」が活躍しうる前提となっているパレスチナという対象は、実は経済的には無価値に等しい対象である事、そしてこの対象が、世界の様々な経済問題のドライブであっても、経済問題がこの問題のドライブではないのである。 そして本当に「恐ろしい話」は、常にここを起点にして出てくる。

2012-12-22 09:57:41