山本七平botまとめ/【バシー海峡①】/日本の敗滅は「バシー海峡」にあり/~なぜ日本人はバシー海峡という言葉を忘れてしまったのか?~

山本七平著『日本はなぜ敗れるのか』/第2章 バシー海峡/37頁以降より抜粋引用。
政治 大本営 敗因21ヶ条 小松真一 サイパン陥落 バシー海峡 山本七平 ヒステリー アウシュヴィッツ 日本はなぜ敗れるのか マッカーサー
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山本七平bot @yamamoto7hei
1】…人は自らの内にある「予定稿」にない内容は排除するか無視するのが普通である。そしてこの21ヵ条の内恐らく読者の「予定稿」に全くなく、一種意外な感じを受けるのが「⑮バアーシー海峡の損害と戦意喪失」であり、従って何気なく読みとばしてしまうのが普通であろう<『日本はなぜ敗れるのか』
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2】氏(註:虜人日記の著者/小松真一)がこの中で具体的にその名をあげている場所はこの海峡だけであり、通常、人が、太平洋戦争の「天王山」だとするミッドウェーもレイテも、またインパールも沖縄も、氏は掲げていない。
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3】なぜであろうか。 比島(註:フィリピン)という地にいることが、氏に、バシー海峡(註:台湾とフィリピンの間の海峡)を偏重させたのであろうか。 そうではない。 私も日本の敗滅をバシー海峡におく。
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4】そしてそれに対して「お前は、ルソンの北端、このバシー海峡に面した港町アパリの近くにいたから、特にそう感ずるのだ」という反論は、私に対しては、あるいは成り立つかもしれない。
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5】しかし小松氏に対しては成り立たない、というのは、氏は私と違ってネグロス島で収容され、ついでレイテの収容所に移された。 従って氏は、ネグロス島で自ら戦闘を体験しただけでなく、レイテ戦の模様をも、レイテ収容所で十分にしかも体系立てて聞いたはずである。
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6】…確かにそれは体験談もしくは伝間にすぎないが、同一体験をした者の受取り方は、間接的自己体験といってよい。 しかし、バシー海峡の方は、氏にとっては、同一体験なき純然たる伝聞であって間接的自己体験とはいえないのである。
山本七平bot @yamamoto7hei
7】というのは氏は…台湾の屏東を重爆キ21で立ち…ルソンのクラークフィールド飛行場に無事着陸しており、従ってバシー海峡の上空を何の事故もなく…通過している。 従ってバシー海峡は、氏に何の印象も残さないのが普通であり、こういう場合、通常、人はレイテをとってもバシー海峡はとらない。
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8】では一体なぜ氏は、この21カ条の中に、レイテをあげずにバシー海峡をあげたのであろうか。 また一方、戦記とか新聞とかは、なぜ、だれもただの一度もバシー海峡に言及しないのであろうか。
山本七平bot @yamamoto7hei
9】ここに、戦争なるものへの、決定的ともいえる視点の違いがあり、同時に、戦争と戦闘との区別がつかず、戦争を単に戦闘行為の累積としてのみ捕える、いわゆるジャーナリスティックな刺戟的・煽動的見方への偏向がある。
山本七平bot @yamamoto7hei
10】戦闘皆無の戦争もありうることは、食糧と石油だけによる戦争もありうることが実感される現代では、別に説明を必要としないであろうが、実情は、太平洋戦争の時点でも同じことであった。
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11】だが人びとはその最も決定的な面、すなわち「バシー海峡」を見ようとせず、戦争中は武勇伝や悲愴調愛国殉国物語を読まされ、戦後はそれの裏がえしにすぎない刺戟的「残酷物語」を読まされて、最も恐怖すべき対象から逆に視線を逸らされている。
山本七平bot @yamamoto7hei
12】それは、バシー海峡、この「バシー海峡」という言葉に、人びとが何の反応も示さないことに、端的に表われているであろう。 では一体、氏が記したバシー海峡とは何なのか。 「バアーシー海峡の損害と、戦意喪失」という短い言葉の背後には何があるのか。
山本七平bot @yamamoto7hei
13】おそらく、ジャングル戦を生き抜いたはずの少数者が、その恐ろしい戦いを語る以上の恐怖をこめて口にした「バアーシー海峡」という言葉の集積がこの一ヵ条の背後にあったはずである。
山本七平bot @yamamoto7hei
14】全体の中の自分を見なおす――と言ってしまえば簡単だが、これは実際には不可能に等しい。
山本七平bot @yamamoto7hei
15】例えばあるサラリーマンが地球上の一切を正しく把握し、その正しく把握した地球上における日本国の位置を正しく措定し、その中で自分が所属する企業を正しく位置づけし、ついでその企業における自己の位置と役割を正しく認識して、それに基づいて自己規定をする、などという事は実際にはできない
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16】現在は言論も自由、報道も自由、自由なる新聞は毎日のように正しい情報を皆に提供している筈である。 しかし、それだからといって、人々に前記の自己規定ができるかといえばもちろん否である。
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17】人は大体、自分の属している組織の中で、有形無形の組織内の組織に制御されて自己を規定している。 現実の行動の規範はそれ以外にない。
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18】そして、その組織がどのようなスローガンを掲げようと、それがその「現実の行動の規範」とは無関係であることは「世界同時革命」と「鉄パイプによる殺し合いの内ゲバ」とが、実質的に無関係であることを例にひくまでもあるまい。
山本七平bot @yamamoto7hei
19】そしてその際、その人が実際的に危機を感じ、その危機に対処する行動の基準をもっているなら、それは「鉄パイプが振り下ろされるかも知れぬ」という危機感とそれに対処する基準だけであろう。
山本七平bot @yamamoto7hei
20】これは昔も今も変らず、従って、戦争中の日本でも変らず、前線でも後方でも変らなかった。 従って、敵が間近に迫った前線だからといって、人びとがそれらの情報に規制されて生活しているわけではない。 小松氏のマニラに着任したときの印象が、良い資料であろう。
山本七平bot @yamamoto7hei
21】《…【武官】サイパンは陥落し、まさに日本の危機であり、比島こそこの敗勢挽回の決戦場と何人も考えているのに当時の(昭和19年4月、5月)のマニラには防空壕一つ陣地一つあるでなく、軍人は飲んだり食ったり淫売を冷やかす事に専念していたようだ。》
山本七平bot @yamamoto7hei
22】《ただ口では大きな事を言い「七月攻勢だ」「八月攻勢だ」とか空念仏をとなえている。平家没落の頃を思わせるものがある。》 だが、情況がこうだということは、危機という言葉がなかったということではない。 「七月攻勢」「八月攻勢」は、危機の裏返しの表現だとはいえる。
山本七平bot @yamamoto7hei
23】確かにこれ以外にも、危機や超非常時といった言葉は戦地にもあり、また内地では一億総決起などの激烈なスローガンは巷に氾濫していた。 しかし真の危機は、いくら大声で叫んだとて実際には人の耳に入らない。
山本七平bot @yamamoto7hei
24】サイパンが陥落しても、″飲んだり食ったり淫売を冷やかすことに専念していた″のは、少なくとも象徴的な意味では、何も軍人だけではない。
山本七平bot @yamamoto7hei
25】それは前述のように、その人の自己規定が、有形無形の組織内の組織における身の回りの小さな危機――電車に乗り遅れるかも知れぬ…遅刻して上役から雷をおとされるかも知れぬといったような―― で規定され、それ以上の大きな危機によって自己を制御するという事が実際にはできないからである。
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