ミストルティン編　第三話　葬室からの励と責～イット・カムズ・レイド～ #1

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4月9日(火)10:15、茨城県日館市星咲学園中等部。昨日の入学式に引き続き、今日は10:30始業の短縮授業である。午前中に今後の予定などの説明をした後、午後からは各部活動合同の新入生歓迎・勧誘会が行われる。その後の体験入部などと合わせ、新入生が部活動を決める一助となる。

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そんな中、入学と同時に部活動を「作った」者達がいた。例えば入学前から部活をある程度「決めて」いる者は少なくないだろうが、彼等は「作った」のである。部活動新設に必要な人員や顧問の教師、資金などを確保した上で。特に部員は１３人も集めていた。それも日本各地からだ。

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そのうちの２人、中心人物である観崎智明(みさき　ともあき)と源瀬隆光（みなせ　たかひろ）は部活塔から校舎へと向けてやや早足で歩いていた。距離にして１０分程だ。昨日の部員の顔合わせに引き続いて、明日水曜日は実戦形式に近いプレゼンが行われる。その準備をしていたのだ。

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彼等ともう一人の伊都谷湊(いとや　みなと)の３人は、ここ星咲から徒歩で３０分前後の距離にある東永山小学校の出身だが、他１０人は違う。福岡から３人、京都方面から３人、茨城西部から４人が集まってきている。県外からの６人に関しては学費・生活費の一部に加えて住居も用意されている。

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茨城西部の４人に関しても交通費などが与えられている。東部の日館と彼等の地元は直線距離では100キロにも満たないが、電車通学では遠回りになるため、移動時間・距離・費用とも無視できない負担になるからだ。彼等の費用は学校が用意したものでは無く、智明達によるものだ。何故そこまでするのか？

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それはＡＢ（アクトボット）と呼ばれる総合ロボット競技大会に優勝するためだ。全国大会ともなれば多くの企業や大学チームが鎬を削るこの大会は、一般への知名度こそ甲子園にやや劣る程度だが、工業界などではそれこそプロ野球並みの注目を浴びるものとなっている。

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一位の賞金一億を始めとする高額の賞金も魅力ではあるが、それ以上に技術力のアピール・団体名の広告効果が非常に大きい。大会の名を借りた展覧会と言っても良いだろう。そんな中で中学生のみのチームが優勝すれば…その衝撃は正に、中学の野球部がプロチームを倒す、に等しい物であろう。

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部長である観崎智明の狙いはそこに、そしてその先にある。勝算はあった。ＡＢは代表者が18歳を超えてさえいれば、年齢制限はない。地区予選の段階では実際小中学生すら見られる。大半は地区、または地方予選で消えていくのだが…ごくわずかな例外が存在した。その例外を集めたのだ。

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福岡の呼原北小学校出身の、村雨早紀(むらさめ　さき)、海上起矢(みかみ　たつや)、河坂直人(こうさか　なおと)の3人はそれぞれ武器、防具、修理のエキスパート。2012年度大会では全国にこそ出られなかったものの、地区予選で優勝候補を下している。

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京都の鴨川南小学校から来た、亀岡興基(かめおか　こうき)、氷堂蘭花(ひょうどう　らんか)、兵庫の鷲林(しゅうりん)小学校の島田延生(しまだ　のぶお)は、駆動部開発、プログラミング、操縦に優れる。10年度の全国8位だ。上位陣の大半が平均十数名という中での大快挙だ。

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茨城県西部の来栖見(くるすみ)小学校からは4人が来ているが、このうちデザイン担当の白鳥仁美は大会経験者では無いが、残る3人～戦術担当の子安星護(こやす　しょうご)と、改造・改良が得意な七橋裕岐(ななはし　ゆうき)、そしてもう一人～も10年度で上位に入っている。

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智明達も来栖見、京都チーム同様に、10年度大会で好成績を収めている。隆光が人型ロボの操縦、智明がサポートメカの操縦と補佐、湊がマネジメントと二人の補佐を担当している。明日のプレゼン試合ではその人型ロボで来栖見の『3人目』と戦うことになっている。

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「しかし、改めて…本当に優秀な人材に恵まれたね」智明がふと口を開いた。「恵まれた訳じゃないだろう。お前たちが探してきたのだから」隆光がそれに答えた。部員達は智明達が各地で交渉して呼び込んでいたので、彼の言う通り『恵まれた』という表現は不適当かも知れない。

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そもそも湊からして、その能力を買った智明が遠方から連れてきたのだ。純粋に智明が『恵まれた』のは数年前から居候することになった隆光だけと考えるべきかもしれない。「いや、恵まれた、で良いんだよ」「？」しかし智明はそれを否定した。「全ては彼のおかげだからね」「そういうことか」

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「僕が『計画』を立てたのも、その為にアクトボットを選んだのも…全ては彼がきっかけだからね」「…浅空」「他の皆も、彼がきっかけだろう？」「ああ」「4年前…あの大会での彼の活躍がね？」カメラ目線めかして隆光の反対、誰もいない方を向いて言う。「何故、向こうを向く」

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浅空勇矢(あさぞら　ゆうや)。来栖見の3人目。裕岐達と参加した10年度大会の更に1年前、彼等が小学三年生の時の、2009年度大会でもアクトボット全国大会に出場し、4位の成績を収めている。その時の人数は……彼一人だった。

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アクトボットは全国予選こそ1対1のロボットバトルだが、地区予選以降は集団戦である。直接戦闘と同時に得点の獲得の競争も並行して行われるものだ。そして出場枠は人数20人、機体は20体までで、大半のチームはこの枠の7～8割を埋めてくる。少なくとも上位陣は殆どがそうだ。

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そんな中での浅空勇矢の上位進出は驚異を通り越して脅威、いや異常だった。年齢制限対策の保護者役はいたが、彼女は整備にすら参加せず、事実上完全に勇矢1人のみだった。それに加え1人で3台以上の機体を操る、高過ぎる機体性能、技術力アピールにほぼ無関心、などイレギュラーに過ぎた。

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その時の彼としては純粋に金だけが目当てだったのだが、結果として、その活躍は智明や部員達を始めとする少年少女を大いに触発し、翌10年度大会では小学生～高校生の参加が倍以上に増えた。勇矢自身も2名の仲間を迎えて、再び参加した。なんらかの意図を持って。

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彼等の多くは予選敗退と言う結果に終わったが、その例外が…星咲アクトボット部員達だ。「ヒロの操縦能力や、湊のマネジメント、氷堂さんのプログラミングに河坂君の修理技術は言うまでもないけど、勿論それだけじゃない」「…」『ヒロ』こと隆光は無言で頷く。自身の能力をも含めた肯定だ。

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「亀岡君、島田君、村雨さん、海上君、星護君、七橋君、白鳥さん…それぞれが上位陣チーム数人に匹敵するだろう人材だ…彼等を見出せたのも、元をただせば浅空君のおかげと言って良いだろう？」「そうだな」「その彼に至ってはもう1チームに匹敵する人材だ」「ああ」

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「ただでさえ優秀な人材が十分に揃っているのに…それに加えて、僕らにはまだ、その彼…浅空勇矢がいる！」智明が誇らしげに呟き、隆光が頷きかけた、正にその時！………ヒュゥゥゥゥゥゥン！落下物！！「…ッ！…トモ！」隆光が咄嗟に腕を突き出し、智明の歩みを制す！

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その落下物は……人だった。「アクトボット部にぃぃぃーーー！栄光あれぇぇーーーーっ！！！」…ズドォォォン！！轟音が響く。ちょっとした疾風が吹いた。

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土煙が立ち込める。二人が埃を払う中、煙が徐々に晴れ、直径数ｍ程の浅いクレーターが見えてきた。その中心には…「………いなくなったな…」「………………そだね」自転車を抱き抱えて胎児めいた姿勢の、浅空勇矢。「……死んでんじゃない？」「……いや、生きている」良く見ると微かに蠢いている。