体罰の理論補強

shinshinohara @ShinShinohara

体罰の起源はおそらく軍国主義だと考えてよいだろう。ただ、戦後に入っても体罰がなくならなかったのには、理論的根拠になったものがあったのかもしれない。しかし日本の歴史にはあまり体罰の起源が見あたらない。しかし教育的体罰をある程度認めていた文明がある。西欧だ。

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西欧ではルソーが現れるまで、子供を厳しく躾る家庭が多かった。鞭打つこともしばしば。こんなむごいことをしていた原因は、２つ考えられる。キリスト教の原罪の意識と、自らを厳しく律しようとするストア学だ。

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人間は生まれながらにして罪を負っている、というのがキリスト教特有の原罪の意識。自らに鞭打つ巡礼者が尊敬されることがあるなど、自らを罪人として痛めつけ、責めることが尊ばれた。この意識は子供さえ「生まれながらの罪人」と見なすことにつながり、体罰を正当化した。

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西欧にも体罰に懐疑的な人はいた。ルネッサンス期のモンテーニュは、なるべく子供の自然な発育に寄り添った方がよいと指摘している。しかし、子どもの教育には鞭が必要だという意識は根強かった。子供を甘やかしてはろくな人間に育たない、殴って初めてまともになると思われていた。

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西欧で明確に体罰に異議を唱え、それに理論的根拠を与えたのがルソーだ。「エミール」という著作で、「子どもは子どもらしくて構わない」という、それまでの西洋教育の常識を根底から覆す理論を打ち立てた。あまりに常識からかけ離れていたので、すぐには普及しなかったほどだ。

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幕末の日本を見た西洋人は、日本人がすでにルソーの唱えている西洋で最先端の教育理論を実践し、子育てに成功しているのに驚いている。子供に鞭をふるわなければ躾は不可能と思っていたら、甘やかすだけ甘やかしてもしっかり者に育つのを不思議がり、西洋人から「子どもの天国」と呼ばれた。

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西洋はルソーの教育理論と、幕末の日本での子育ての実例などをみて、徐々に「体罰は不要」という考えが浸透していく。しかしこれには時間がかかった。アメリカ草創期を描いた「トムソーヤの冒険」では、鞭に打たれるトムが登場する。比較的最近まで、西洋では体罰が必要だと思われていた。

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欧米で体罰が消えたのは、ごく最近といえる。教育学者デューイらの教育改革の運動など、子供の内発的な成長を促すやり方が根付くには、ルソーが「子どもの発見」をしてから、ずいぶん時間がかかってからだった。西洋は、日本をはじめとする東洋から子育ての好例を学んだのかもしれない。

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西洋では体罰が否定されるようになっていったのに対し、逆に戦後の日本では軍隊の強烈な体験から体罰を許容することになった。デューイなどの欧米の教育学が体罰を否定する理論に傾く中で、日本人は逆に「欧米人は軟弱」と、敗戦のコンプレックスからくる妙な対抗心があったのかもしれない。

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西洋は日本や東洋の、子供を大切に育てる実例から学んで体罰から離れていったのに対し、日本では逆に軍隊の強烈な体験を正当化する妙な心理が働き、西洋の粗暴な過去を真似る結果となった。西洋の文学作品などが当時、体罰に肯定的なものも少なくなかったのが、多少、正当化を補強したかもしれない。

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日本の「教育的体罰」の起源はおそらく軍国主義だが、それを理論的補強をしたのが、体罰のシーンが少なくない欧米の文学作品などかもしれない。「赤毛のアン」でも、子供に鞭を振るう過酷な登場人物がある。体罰は必要悪だと思ってしまう人がいたかもしれない。日本の過去にはないにも関わらず。

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この結果、教育での体罰を輸出した西洋では体罰はなくなり、体罰なしにしっかりした大人に育ててきた日本が体罰を輸入したかのような逆転現象が起きてしまったようだ。西洋がかつての日本から「体罰のない子育て」を学んだように、日本もかつて先祖がどう子育てしていたか、見直しをすべきだろう。