「キリ番の国　―５０００―」

時雨沢恵一 @sigsawa

「キリ番の国　―５０００―」（１／８）荒野の一本道を、キノが元気よく走っていた。背中に、旅荷物を積んだエルメスを背負っていた。「いつもすまないねえ」エルメスが切なそうに言うと、「『それは言わない約束でしょ？』――とか言ってもらいたいのかっ！」キノが怒った（続く）

時雨沢恵一 @sigsawa

（２／８）「まったく、エルメスがいきなり故障するから」キノが走りながらぼやいた。「ごめんねー。キノの隠された怪力が都合良く開花してなかったら大変だったね」「まったくだ。次の国でサクッと直らなかったら、“レッド○ロン”に売るかもよ？」「ご無体な」城壁が見えてきた（続く）

時雨沢恵一 @sigsawa

（３／８）許可が下りて、キノはエルメスを背負ったままテクテクと入国した。城門をくぐった瞬間、ファンファーレが聞こえて、目の前を破裂音と共に紙吹雪が舞った。キノが反射的に撃ち返すのをどうにか抑えて目を凝らすと、多くの国民が笑顔で大歓迎している様子が見えた。（続く）

時雨沢恵一 @sigsawa

（４／８）「おめでとう！　あなたが、我が国９７８６３人目の旅人です！」国の人が言って、キノの首に花束をかけた。ついでにエルメスのハンドルにも。「はあ……、どうも」キノは呆けていたが、「だから、この国にある物はみんなタダです！」その一言に双眸があやしく光った。（続く）

時雨沢恵一 @sigsawa

（５／８）エルメスを完全に直してもらい、さらに三日間たらふく飲食した後、キノは訊ねる。「その番号にどんな意味が？」「特に。実は、そう言って旅人に色々与えて、後で莫大な代価を要求するという罠です。さあてそろそろ、返済のために奴隷として働いてもらいましょ――」（続く）

時雨沢恵一 @sigsawa

（６／８）国の人が言い終える前に、キノは飛び跳ねていた。エルメスに飛び乗ると、全力でその場から逃げ出す。「追え！　俺達みたいに借金漬けの奴隷にするんだ！」「おおっ！」騙されて仕方なく働いている元旅人達がムキになって追い掛けて、キノの行く手を塞いだ。（続く）

時雨沢恵一 @sigsawa

（７／８）「うおおおおっ！」すかさずキノの怪力が炸裂した。襲いかかる人を容赦なく叩きのめして大暴れした。あまりの光景に、エルメスが目を逸らした。「ふふふーん♪」鼻歌交じりに二百人ほど倒してから、城壁をパンチで破壊して大きな穴を開けて、キノはエルメスに跨って出国した。（続く）

時雨沢恵一 @sigsawa

（８／８）「やれやれ」キノは、遠くに城壁を見ながら一息ついた。「危なかったね。キノ」「ああ。でも、とても儲かった」「じゃあ、行こうか」「行く？　冗談じゃない。あと三回くらい入国してからさ！　タダでもらえるものは全てむしってやるぜっ！」その国の行方は、ようとして知れない。（完）

黒星紅白 @kuroboshi

@sigsawa 挿絵できました！ http://twitpic.com/2hirm7

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