バトルクエスト・クレンチ・ユア・フィスト #5

翻訳チームによるサイバーパンクニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) 日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

バトルクエスト・クレンチ・ユア・フィスト #5

2013-01-23 21:50:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(あらすじ:カラテ・エキジビション第一日が終了した。アコライトはウォーピッグを破り、己のカラテを示した。アコライトの力を確かめたアナスタシアは、密かに彼にオリガミ・メールを持たせる。オリガミ・メールにはその日の夜にアナスタシアが訪れると……秘密めいた相談事があると書かれていた。)

2013-01-23 21:55:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(だがアナスタシアは訪れなかった。替わりにフワリというオイランが現れ、不穏なそぶりをしめす。アコライトはある可能性を思い当たった。彼はフワリを出し抜き、カラテで気絶させると、オイランヴェールを盗み、遠目には廊下をしめやかに渡るオイランめいた姿となって、邪悪の宮殿を探りにゆく……)

2013-01-23 22:04:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

月明かりと控えめなボンボリの灯りが青色モノトーンに照らすギリシア様式の廊下を、アコライトはひたひたと歩き進む。薄紗の下の彼は眉間に血管が浮かぶほどの集中の相を浮かべていた。途中幾つかの分かれ道が出くわすが、彼はある明確なサインを読み取り、決断的に道を選んでゆく。ニンジャ嗅覚だ。1

2013-01-23 22:14:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャの鋭敏な嗅覚は、オイラン香水の微細な残り香を嗅ぎ分ける事ができる。それはあたかもルミノール反応によって輝く血痕めいて、彼にサインを示す。フワリがもときた道を。 2

2013-01-23 22:17:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オウ……フームたまらん……たまらんぞ」「アタシ今体温何度あるのかなーッ!?」「ウーン!」閉め忘れたとおぼしき鉄扉の隙間から漏れ聴こえる痴態を通り過ぎ、アコライトは廊下の突き当たりに辿り着く。そして狭い階段を上がる。「……」彼は階段の陰から上階の廊下を窺う。護衛の影が伸びる。 3

2013-01-23 22:25:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

足音はその一人のみ。アコライトは胸を撫で下ろす。ある意味それは残酷な安堵だ。彼はその護衛を誰にも気づかれず容易に排除出来ると判った事で安堵したのだから。引きつける……近づいて来る……横顔が見えた。アコライトは素早く襲いかかり、片腕で護衛の首を抱え込むようにすると、気絶させた。 4

2013-01-23 22:32:10
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この階の廊下の光源は松明だ。何らかの金属粉を松脂に含めたものか、炎の色は神秘的な濃青色、開けた場所では通路沿いの水路の水が光を受け、山羊神と交わる女達を描いた壁画を妖しく照らし出すのだった。「!」アコライトは足を止めた。突然、右手前方の壁が隠し扉めいて内側から開いたのだ! 5

2013-01-23 22:40:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アコライトは短時間に稲妻めいて高速思考した。彼は賭けた。歩みは止めず、歩幅を小さく、奥ゆかしいオイランめかして、さも、この回廊のその先に用があるかのように振る舞う。前方の隠し扉からは別のオイランが現れた。心臓が早鐘のように打つ。オイランは会釈した。アコライトは会釈で応じる。 6

2013-01-23 22:46:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「……」通過!アコライトはすり足でゆっくりと歩きながら、そのオイランが角を曲がっていなくなるのを待つ。先程気絶させた護衛は大きな壷の陰に隠したが、場合によっては気づれるかも知れぬ。その時はその時だ。アコライトはためらわず、壁扉の先へ進む。フワリの痕跡もこちらからだ。 7

2013-01-23 22:53:31
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壁の奥は黒塗りの回廊で、前方から漂って来るのは甘い没薬の匂い。アコライトは進み出る。嬌声、音楽、喧噪の気配。そこには……。 8

2013-01-23 23:08:23
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「ンアーッ!」冷たい大理石の上に荒々しく投げ倒され、アナスタシアはむせた。彼女をこのような目に遭わせたのはオーバーウェルム……アナスタシアのぼやけた視界は、近づいて来る彼の巨大な逆光シルエットを霞ませる……「どうした。まるで本当のオイランのように弱々しい」ニンジャは嘲った。 10

2013-01-23 23:23:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「乱暴じゃない……痣になったらうまく働けないわ?」アナスタシアは笑おうとした。オーバーウェルムは何の反応も示さず、その両手首を片手で掴み、引き上げた。「ンアーッ!」そして真鍮製の枷を嵌めた。枷と壁は短い鎖で繋がっており、アナスタシアは強制的に立たされた格好だ。 11

2013-01-23 23:29:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ところどころ引き裂かれた黒いオイランドレスから、豊満な胸が見え隠れする。「痣?問題無い。そういう趣味の客もおる」オーバーウェルムは無感情に言った。「だが貴様にオイランの用は無い。もう少し色々と情報を引き出したいところゆえ」「そうね、協力的な囚人よ、私は」アナスタシアは言った。12

2013-01-23 23:33:29
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「それにしても異様な薬物耐性だ。どこで鍛えた?」オーバーウェルムが乳房を掴む。アナスタシアは耐えた。「それが知りたいの?」「少し困っておってな。本格的に拷問すべきか、決めあぐねておる。取り返しがつかぬからな……」「穏便なのがいいわね」「フン」オーバーウェルムは鼻を鳴らす。13

2013-01-23 23:43:08
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「お前には実際目をかけておったのだ、ナースチャ(註:アナスタシアの愛称)」オーバーウェルムの後方から近づいて来る新たなニンジャ有り。ガンダルヴァである。「美しく、機知に長け、この神仙園をよりよきものにしてくれると……それこそオーバーウェルム=サンのごとくに、我が側近としてな」14

2013-01-23 23:51:35
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オーバーウェルムが脇に退くと、ガンダルヴァはアナスタシアに近づき、その指を肢体に這わせた。アナスタシアは身を震わせた。「この神界はまだまだ完全な世界には程遠い。より多くの富と欲望を必要とする。努力をな。それをお前はさも恥ずべき罪悪であるかのように誤解しているのか。いけないぞ」15

2013-01-23 23:58:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

さらにはその邪悪なメンポが左右にスライドして開き、先端が二股に分かれた奇怪な舌が伸びた。震えるアナスタシアの頬を、そして耳を、耳の後ろのLANジャックを嬲った。「どこへ通信しようとしていたのかね?ナースチャ」「……!」「言うまい、そうだな、言うまいとも。お前は強い女だからな」16

2013-01-24 00:04:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……!」アナスタシアが荒い息を吐く。オーバーウェルムは腕組みして眺め、グルグルと喉を鳴らして笑う。ガンダルヴァはやがて身を離し、懐から奇怪なベルトを取り出す。「電子戦争時代の品だ。アンティークめいた魅力がある」アナスタシアは目を見開く。ガンダルヴァは彼女の首にそれを巻いた。17

2013-01-24 00:11:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

首輪である!金属装飾部にある鍵穴に、ガンダルヴァはクローバーの鍵を差し込み、捻る。「ンアーッ!」アナスタシアが悲鳴をあげた。両腕を高く固定され、倒れる事は無い!そして見よ!首輪の金属装飾部から奇怪な凸部が飛び出し、彼女の耳後ろのLANジャックを塞いでしまった!「ンアアーッ!」18

2013-01-24 00:16:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私はもう少し希望を繋ぎたい。精神的な和解を待ちたいのだ」ガンダルヴァは恍惚めいて言った。「これでお前の邪なネットワーク行為を断つ事が出来た。関係を再構築する第一歩と言えよう」「ンアアアー!」ALAS!いかなる苦痛が彼女を襲っているのか?我々には知る由もない! 19

2013-01-24 00:19:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何?」オーバーウェルムがIRC通信器に囁いた。ガンダルヴァが一瞥すると、オーバーウェルムは会釈し、会話を続けた。「……よし。そちらへ向かう。うむ。他区画の兵も。そうだ。よきように」「どうした?」「野鼠かと。確かめて来よう」オーバーウェルムが退出した。「騒がしい夜だ!」 20

2013-01-24 00:30:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガンダルヴァは肩を竦めた。アナスタシアの視界は濁り、邪悪なニンジャの表情も定かでない。彼は顔を近づけ、アナスタシアの涎を指で拭うと、何事か囁いた。だがアナスタシアは集中できなかった。やがてガンダルヴァはオーバーウェルムに続いて退出した。アナスタシアただ一人が残された。 21

2013-01-24 00:35:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……砂嵐が満ち、退き、ザリザリと不快なノイズが近づき、離れ、左右に揺れ、まばたきを繰り返すと、耳鳴りがひどく、首を強く振って意識をキックし、鎖の感覚、やがてアナスタシアはようやく己が繋がれている部屋を再び認識した。円形で、壁は滑らかな大理石状、中央には何故か井戸がある。 22

2013-01-24 00:42:26