秘書ミン

ほっしゃん
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我愛圭敏 @woaikyumin

①7年勤め上げた会社の、まさかの倒産から1ヶ月。どうせなら少しでも条件のいいところ、そう思って探していたら、たまたま見付けた求人。「男性秘書急募 条件:容姿端麗である事」明らかに怪しいけれど、びっくりするくらいの高給。今思えばなんで面接を受けようと思ったのか分からない。#秘書ミン

2013-02-02 12:38:46
我愛圭敏 @woaikyumin

②多分、倒産のショックでちょっと頭がおかしくなってたんだと思う。容姿端麗だなんて、学生に間違えられるほど童顔の僕にはほど遠い表現なのに…。面接にやって来た件の会社は、都心部のど真ん中、新興IT企業が多数入る複合ビルの中だった。真新しいエントランスの受付で会社名を告げる。#秘書ミン

2013-02-02 12:38:47
我愛圭敏 @woaikyumin

③「面接で参りましたイ・ソンミンと申します」「お待ちしておりました。39階になります。奥のエレベーターへどうぞ」エレベーターに乗ってから気付く。39階って、最上階じゃないか…緊張で入構用のカードを持つ手に力が入る。何だか、とんでもない所に足を踏み入れてしまったみたい。#秘書ミン

2013-02-02 12:38:55
我愛圭敏 @woaikyumin

④予想通り39階は黒茶のトーンで落ち着いた、重厚感溢れる雰囲気の、とても一企業のオフィスとは信じ難い場所だった。約束までに少しだけ時間があったので、慌ててトイレに駆け込む。「お前みたいなのが何で来たんだって言われたらどうしよ…」鏡とにらめっこしながら、今更すぎる独り言。#秘書ミン

2013-02-02 12:39:05
我愛圭敏 @woaikyumin

⑤せめてもと思い髪型を整えていた、その時だった。ガタンッ!と何かが倒れる音が奥の個室から聞こえ、驚いて振り返る。「えっ…?」普通に考えて、トイレの個室で倒れるものなんて、用を足そうとしている人間そのものしか思い浮かばない。駆け寄ると中から聞こえるのは荒い息遣いで驚く。#秘書ミン

2013-02-07 21:34:59
我愛圭敏 @woaikyumin

⑥「どうしましたっ!?」声をかけても返事がない。当然のように内側からカギがかけられていて、扉はビクともしない。どうしよう。誰か呼んでこようか。でも…。逡巡しているうちに、隣の個室のロールホルダーが目に入った。あれを使ってよじ登れば中の様子が窺えるかも知れない、だけど…。#秘書ミン

2013-02-07 21:37:31
我愛圭敏 @woaikyumin

⑦「あぁ!もう!」自分を勇気付けるために叫んでから、思い切ってよじ登る。個室の壁と天井の間から覗けば、案の定、便器の前でうずくまっている人影。「大丈夫ですか!?」自分でも引くくらい大きな声が出た。俯いた顔が、なんとか力を振り絞って、という感じで上を向く。あぁ…真っ青だ。#秘書ミン

2013-02-07 21:37:58
我愛圭敏 @woaikyumin

⑧「あの、鍵!鍵を開けて下さい!」必死で指差すと、蒼白の顔がゆっくりと扉の方を向く。そうして、力なく伸ばされた腕が、ようやくかかって、ドアの鍵を押し戻した。ガタンと音を立てて床に降りると、急いで個室の扉を引き開ける。途端、グラッと倒れて来たその人を、慌てて受け止めた。#秘書ミン

2013-02-07 21:38:18
我愛圭敏 @woaikyumin

⑨「あの、どうすればいいですか!?」背中に手を回し身体を支える。こういう時、むやみに動かしちゃいけないんだって、なにかのテレビ番組で言っていた気がする。返事を待って、ぜぇぜぇと荒い息を繰り返す顔を見つめる。眉間に寄せられた皺が苦しそうで、あいた方の手で思わず髪を撫でた。#秘書ミン

2013-02-07 21:38:57
我愛圭敏 @woaikyumin

⑩「クスリが…あるっ、か、ら…」ぽつぽつと呟きながら、ポケットに手を入れようとしているのに気付いて、先に手を突っ込んだ。硬い感触を見つけて引っ張り出す。ピルケースに錠剤が3種類。「どれですか!?」「きいろ、の…ひとつでいいっ…」震える手で取り出して、その口に放り込んだ。#秘書ミン

2013-02-07 21:39:55
我愛圭敏 @woaikyumin

⑪水が無くても飲めるのだろうか、と心配したが、案の定、無理やり錠剤を飲み込んでいるようだった。「水をっ…!」立ち上がろうとすると、腕を掴まれた。「だ、いじょ、ぶ…」苦しいだろうに、頑なに僕の腕を離そうとしない。仕方なく体を膝に乗せ、そのまま背中をさすり、頭を撫で続ける。#秘書ミン

2013-02-07 21:40:25
我愛圭敏 @woaikyumin

⑫まっすぐ伸びた鼻筋に薄い唇の、端整な顔立ちをただ見つめるしか出来ない。投げ出された足も長くて、モテるんだろうな、とぼんやり思って。それでも、ぎゅっと心臓の辺りを掴んでいるのが痛々しくて、僕も辛い。心臓の発作かな?トイレの床が冷たい。早く暖かい所に連れて言ってあげたい。#秘書ミン

2013-02-07 21:41:27
我愛圭敏 @woaikyumin

⑬どのくらい時間が経ったのか。ようやく肩にかかる息の熱さが抑えられてきたころだった。大声で言い合いながら、トイレに入ってくる集団。先陣を切った男性がこちらを見て、軽く舌打ちをした。「だから勝手に出るなって言ったのに!おい、バカキュヒョナッ!」僕は呆然と見上げるしかない。#秘書ミン

2013-02-07 21:43:22
我愛圭敏 @woaikyumin

⑭びっくりするぐらいの美人、男性なんだろうけど、そう表現する以外に思いつかない。綺麗な男の人。濃紺のストライプスーツが良く似合う細身、整った顔立ちに大きい二重の目。そんな美人が、仁王立ちで僕たちを見下ろす。「おいキュヒョナ、なんと言えよ」僕の腕の中で、彼がピクリと動く。#秘書ミン

2013-02-11 04:37:35
我愛圭敏 @woaikyumin

⑮「う、るさ…」相変わらず目はキツく閉じたまま、彼はぼそっと呟いた。小さい声だったけど、他に物音がないから、聞こえてしまったらしい。「なんだと!」美人なのに、怒ると怖い人なんだな…僕も怒られている気分になる。すると「まぁまぁヒチョリヒョン」鈴のように軽快な声が響いた。#秘書ミン

2013-02-11 04:37:49
我愛圭敏 @woaikyumin

⑯仁王立ちの男性の後ろから、今度は可愛らしい顔の男性、だよね?が、ぴょこっと出てきた。「すみません、大丈夫ですか?」その差し出された手が、僕の腕を相変わらず離さない彼ではなく、自分に向けられていると気付く。「あ、いえ僕は大丈夫です」立ち上がったら彼が床に転がってしまう。#秘書ミン

2013-02-11 04:40:05
我愛圭敏 @woaikyumin

⑰「あぁ、いいんですよソレは転がしておけば」「そんなもん床に転がしとけ」二人同時に言われて、ぽかん、とするしかない。「えっとあの…」逡巡でキョロキョロしていると、二人のさらに後方の男性たちが、担架を持っていることに気付いた。「あ、担架…ここに置いて下さい」横を指さした。#秘書ミン

2013-02-11 04:41:15
我愛圭敏 @woaikyumin

⑱すっと運ばれてきた担架に、腕の中の男性を横たえる。手を離す間際、彼は何か言いたそうに口を動かしかけたが、すぐ諦めたように僕の腕を離した。「あの、お大事に」運ばれていくのに声をかけると、ちらっとだけ、右手が上がったような気がした。「おいリョウガ、ところで…コイツ誰だ?」#秘書ミン

2013-02-11 04:42:04
我愛圭敏 @woaikyumin

⑲リョウガ、と呼ばれた可愛らしい方の男性は、首を傾げながら答える。「えっと…僕も初めまして、で」深いグレーのスーツが品の良さを表している。そういえば、倒れた彼はスーツじゃなかった。白いシャツにジーンズという、簡易な服装。僕も今日はスーツだしな…そこまで考えて思い出した。#秘書ミン

2013-02-11 04:42:32
我愛圭敏 @woaikyumin

⑳「あぁ!面接!!」どれだけの時間、彼を抱いていたのか、時計を見ていなかったが、どう考えても約束の時間はとうに過ぎている。ため息をつきながら、恐る恐るスーツの袖をめくり、腕時計を見て、さらにため息をついた。「あぁ…こんな時間…」謝罪の電話だけ入れて、このまま帰ろうかな。#秘書ミン

2013-02-11 04:43:11
我愛圭敏 @woaikyumin

21「あ、もしかしてお前がイ・ソンミン?」「ちょっとヒョン、呼び捨てダメでしょ」そうか、ワンフロア全部この会社だから…じゃあ、あの彼も社員さんなのかな。って、だめだめ、そんなこと考えてる場合じゃない!「す、すみませんっ!」#秘書ミン

2013-02-11 05:32:07
我愛圭敏 @woaikyumin

22勢いよく頭を下げる。何も声が掛からないので、頭を下げたままでいると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。「謝らないで下さい、ご迷惑おかけしたのはこちらの方です」「でも…」「社長もお許しになると思います」ふわりと微笑まれた。#秘書ミン

2013-02-11 05:32:42
我愛圭敏 @woaikyumin

23「ねぇ、ヒョン、あのキュヒョナが触らせるなんて」「まぁ確かにな…じゃあ面接するか?こっち来い」有無を言わさずトイレを出ていく二人を追い掛ける。「えっと、あの人事部の方ですか?」慌ててスーツを引っ張って整えながら尋ねた。#秘書ミン

2013-02-11 05:33:05
我愛圭敏 @woaikyumin

24「人事部なんてもんはうちの会社にはねーから」そうなのか、じゃあ誰が面接するのかな…そんな僕の心の声が聞こえたかのように、可愛い方が振り返った。「社長が直々に面接します」「え!?」「僕たち二人とも秘書なんですよ、実は」#秘書ミン

2013-02-11 05:33:30
我愛圭敏 @woaikyumin

25容姿端麗とは、ここまでのレベルだったのか、と二人の背中を見ながら理解して、僕はさらに絶望するしかなかった。出来ることなら、今すぐリタイアしたいけれど、遅刻したにも関わらず、会ってくれるというのを振り切る勇気も出ない。#秘書ミン

2013-02-11 05:33:59
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