ソイ・ディヴィジョン #5
重金属酸性雨が降りしきる夜のネオサイタマを、重武装のリムジン部隊が走り抜ける。検問所通過。その先にはジョウゾウ社の私有地。強制立ち退きで生まれたコンクリートの死骸。腐食し穴だらけになった首無し武田信玄像が、ビルとビルの間に渡された峻厳なアーチの下で赦しを求めるように天を仰ぐ。 1
2013-02-02 18:25:02リムジンは道路に転がった武田信玄像の頭を踏み越える。震動はごく僅か。快適な後部座席で、ラオモト・チバが言った。「ムハハハハ!何故わざわざ僕自ら出向くか、不思議に思うだろう。安全な秘密基地に籠っていれば良いと」「ハイ」側近ネヴァーモアが頷く。彼は教養に乏しく、愚直なニンジャだ。 2
2013-02-02 18:33:17「ムハハハハ!それはサンシタ的思考だ」チバはカタナのように鋭く言い捨てた「帝王は時には愚民どもの前に姿を現し、威光を示さねばならん!やがて僕はマネーとニンジャの力でこの国を支配する。そのためにはアマクダリ・セクト内のみならず、政財界に対してもプレゼンスを強めねばならないのだ」 3
2013-02-02 18:38:15「そうしなければ……」チバは忌々しげに舌打ちする。不吉な遠雷の音が車内へ忍び込む。「そうしなければ、いつまでもアガメムノンの操り人形だ。ネヴァーモア=サン、お前は今、視察中に僕の身にもしもの事があったら、と考えたな?」「ハイ」「イディオットめ、そのためにお前を連れているのだ」 4
2013-02-02 18:44:06ヤクザリムジン部隊は、ソイ・ディヴィジョン地上部の正面エントランスに到着。数十人のクローンヤクザたちが同時に車を降り、紫絨毯を敷き、軍事国家の独裁者を迎えるように左右に列を作った。アルマーニスーツを着た少年とニンジャがそこを歩む。「オイデヤス!」高級マイコが深々とドゲザする。 5
2013-02-02 18:51:46「悪くないショドーだ。あれは骨のある奴の字だ」チバは歓迎立て札に一瞥をくれながら言う。バラバラバラバラ……上空では30分ほど前から数機の武装ヘリが旋回を続けていた。その光景はさながら、ナムの密林内に建造されたソ連軍巨大トーチカの上を飛ぶ、餓えたハゲタカの群れのようであった。 6
2013-02-02 18:59:42「アイエエエエエエ!大変だ!ニンジャだ!ニンジャが出たぞ!大勢殺された!」奴隷職人の悲痛な叫び声が、違法強制労働施設ソイ・ディヴィジョンの手搾り作業ホールに響き渡った。「アイエエエエエエエ!ニンジャ!?」「ニンジャナンデ!?」狼狽する奴隷職人たち!労働車輪の動きが止まる! 8
2013-02-02 19:13:57「ザッケンナコラー!持ち場戻れッコラー!」監視台からクローンヤクザの怒声が飛ぶ。「長老!どうすれば!?」奴隷職人たちはセンニンめいた存在であるアラヤに教えを請う。「余計な事を考えるな。作業室は安全。違法ショーユ造りに専念するのだ……」アラヤは達観した顔で黙々と労働バーを押す。 9
2013-02-02 19:22:24「アバーッ!」突如、強化フスマの前に立っていた監視ヤクザが絶命!その胸には、背中側からタケヤリが突き立てられていた!「アイエエエエエエ!?」それを見た奴隷職人が絶叫する!「見るな!真面目に働いている限り、ニンジャはわしらを襲わん!伝説にもそうある!」アラヤ長老が一喝する。 10
2013-02-02 19:30:45「アッコラー!」真横で起こった突然死インシデントに気づいたクローンヤクザは、胸元からドスダガーを抜いて強化フスマを振り返った!だが一瞬早く、フォレスト・サワタリの突き出したタケヤリが、虎の墨絵を突き破って伸びる!「サイゴン!」「アバーッ!」二人目のヤクザも心臓を貫かれ即死! 11
2013-02-02 19:38:33一瞬の静寂。アラヤは祈るようにフスマを見た。だが…「イヤーッ!」七人のニンジャが同時に体当たりを食らわせ、強化フスマを破壊!怒りに燃える異形のニンジャたちが、堰を切ったように雪崩れ込んできた!サヴァイヴァー・ドージョー!彼らは自由に向かって突き進む!地上へ!地上へ!地上へ! 12
2013-02-02 19:48:10もはやサヴァイヴァー・ドージョーに退路は無い!ゾンビーニンジャの追っ手が、下水道の隠しドージョーに到達したからだ。しかも卑劣な幻覚剤攻撃により、彼らの重要な食料であるアルビノアリゲーターたちは全滅!ショーユも汚染され、もはやバイオニンジャたちが潜伏する必然性は皆無となった! 13
2013-02-02 19:51:25「突破作戦だ!ショーユとインゴットを補給しながら進むぞ!」巨大なバイオカエルに跨がった参謀フロッグマンが作戦マキモノを読み上げる!「アイエエエエエエエエ!」急性NRSに襲われた奴隷職人が駆け回り、彼らの行く手を遮る!そこへサワタリのタケヤリ!「イヤーッ!」「アバーッ!」 14
2013-02-02 19:56:47「敵は民間人に化けているかもしれん!躊躇するな!部隊の生存だけを考えろ!」サワタリが二刀流マチェーテでヤクザも奴隷職人も御構いなしに殺戮する!首が!手足が!血飛沫が飛ぶ!それに続くカマイタチも、両肘のバイオブレードで血の円弧を描く!ファーリーマンが長いボーを振り回す! 15
2013-02-02 20:01:54「こんな、こんな馬鹿な事が!」アラヤ長老は労働バーを押しながら目を剥く。「長老!どうすれば!」奴隷職人たちが労働バーを押しながら問う!あちこちで爆発!火の手が上がり、天井のスプリンクラーが回転する!「そうだ……火災発生時プロトコルだ!自室に戻るべし!連絡があるまで待機!」 16
2013-02-02 20:09:00「ダッテメッコラー!」監視台のクローンヤクザが躊躇無く銃座のマシンガンを斉射する!「アバーッ!」巻き添えを食らった奴隷職人が絶命!「ニイイイイイイーッ!」市街戦用生体戦闘兵器セントールが蛇行走行で銃弾を巧みに交わし、跳躍!サスマタでクローンヤクザの首を刎ねる!「アバーッ!」 17
2013-02-02 20:14:51「アイエエエエエエエ!」奴隷職人たちは自室に戻るため、破壊された強化フスマに向かって走る!だがそれは、野火に追われ暴走するヌーの大群の前に身を投げるも同然の自殺行為であった!「アイエエエエ!」マチェーテで斬殺!「アバーッ!」バイオ大ガエルの長い舌に巻き取られ、呑み込まれた! 18
2013-02-02 20:19:35「ショーユに毒を仕込んで俺達を殺そうたあ、えげつねえ連中だぜ!やっぱりヨロシサンか!?ゾンビーニンジャも仲間か!?」ハイドラはメンポの奥で三ツ眼を不気味に光らせた。両手にはクローンヤクザと民間人の死体が一個ずつ掴まれていた。「俺たちゃ孤立無援ってことよ!」フロッグマンが言う。19
2013-02-02 22:22:41「バイオインゴット反応はどうだ!」クローンヤクザの首を斬り飛ばしながらサワタリが問う。「人使いが荒いな、大将!もっと上のほうだ!方向的には……あっちか!」ディスカバリーが反対側の強化フスマを指差す!ニンジャたちは一丸となって突き進んだ!生き残った奴隷職人たちは自室へ逃げる! 20
2013-02-02 22:27:59香ばしい発酵臭が漂うそのプラントには、数千ℓは入る大型木樽が整然と詰まれ、荒縄でしっかりと封をされて出荷の時を待っていた。床面積のうち半分は、ショーユ・ピットに割り振られており、黒い液体が並々注がれた円柱形プールがミサイルサイロめいて何十個も並んでいる。 21
2013-02-02 22:52:05