地声って? 裏声って?

発声学の研究者quesokis先生の、発声に関する用語等についてのツイートをまとめました。
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Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

間違った情報がweb上で散見するので,きちんと書いておこう.ファルセットと裏声とは声区としては同じものを指します.裏声=ファルセットは仮声帯の振動を音源にしている訳ではありません.声帯振動によって生成されているが,地声と異なった声帯振動様式で作られる声区のこと.

2013-02-05 14:20:28
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

地声と裏声との声区の違いは,所謂,カテゴリカルな違いで,中声区をその2つの声区の中間的な声を示す声区として定義する.ただ,時間領域で連続的に地声と裏声を変化させると,ピッチジャンプという,声区間の突然の転移が起こることが多い.連続的に変化させることも可能.

2013-02-05 14:22:50
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

地声と裏声は,古くは胸声,頭声と云う呼び方をしていたが,頭声は,女声では裏声を,男声では,高い地声の音色を示す呼び名になっているので,様々な誤解を招くので,研究者としては,既に使いたく無い極力使うことを避けたい用語になっている.国際的にそう.

2013-02-05 14:24:29
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

仮声帯のみを音源として使った発声は,仮声帯発声と呼ぶ.これは,声帯麻痺など声帯を音源として発声出来ない人が,仮声帯を絞扼させて自励振動させて行なう場合などに見られる.

2013-02-05 14:26:15
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

……一回,本当に発声のあたり日本語だけでもwikiをちゃんと整備しとかないといけないなと思っていますが,なかなかそう云うエネルギーと時間が取れない.僕が責任を負うべきだとは思っていますが…すみません.

2013-02-05 14:27:17
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

仮声帯を使う発声には,仮声帯発声以外に所謂,声帯-仮声帯発声がある.ダミ声とかホーメイに使われるドローン,カルグラーなど.声帯と同時に連成振動が仮声帯に起こって,声帯と仮声帯の振動の周波数が同じ場合は,ドローン,声帯の振動の半分の周波数で仮声帯が振動するとカルグラーになる.

2013-02-05 14:31:12
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

咳払いをした時のガラガラした有声の発声は,声帯-仮声帯発声ではなく,声帯-披裂喉頭蓋発声.仮声帯の振動ではなく,披裂部の前後径がつぶれて絞扼することにより披裂部,披裂喉頭蓋襞の粘膜が,声帯振動と連成して振動することによって,2つの振動体が連動した準周期振動が生じる.

2013-02-05 14:32:56
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

声帯ー披裂喉頭蓋発声が意図的にやられている歌声として南アフリカのコーサ族の民族的な歌唱などがある.通常,growl 唸り声という用語で呼ぶことになっている(僕とLeonardo Fuksとでそう決めて,国際的にそうなった)

2013-02-05 14:34:12
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

地声より低い声区は,通常は,日本語ではフライと呼ぶ.国際的には,fry, pulse, creak, strohbassなどの呼び方がある.fry は揚げ物のfry. プチプチと切れた油が撥ねる時の音の様な声なのでfryと呼ぶ.通常,プチプチした声に聞こえるのは 70 Hz以下

2013-02-05 14:36:15
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

フライ声区のカバーする帯域はどの辺かと云うのはこれまた難しい.地声からフライへの遷移は,連続的で,生理的には様々な内喉頭筋の弛緩によって起こる.ただ,緊張したフライと云うのも報告されているので厄介だ.

2013-02-05 14:37:25
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

声を説明する時に難しいのは,(i) 生理的な生成のメカニズム,(ii) 物理現象,(iii) 聴覚印象; の間に,一対一の対応がある訳ではないと云うところ.声帯振動を見ても,物理現象としては,カオスと言えるものだし,同じ物理現象を違う生理的な制御の戦略で実現することもある.

2013-02-05 14:41:04
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

地声と裏声との違いは何ですか? と云う質問は,声の専門家にとっては,少なくとも僕としては,実は簡単に答えられる質問では無かったりする.

2013-02-05 14:42:13
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

非常勤先の音楽学部では,美空ひばり,北島三郎などの歌手の声を聞かせて,声区に関連した声質の制御を,聴取することで分析する,と云う訓練をする授業を1コマやっていて,その後に,ドラマチックメゾソプラノなどの声の使い方を分析させたりしている.

2013-02-05 14:44:13
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

話声と歌声とは何が違うのか?と云う質問も良くされますが,これも答えにくい質問.先ず,質問されている歌声とは何をさすのかを逆質問しないと絶対に答えられないw

2013-02-05 14:47:42
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

話声がnormalだとしたら歌声は,supranormalなことを沢山していることは間違い無い.ただ,そう答えても,話声と歌声の違いは何かと質問した人の答えにはなっていない訳で…

2013-02-05 14:49:51
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

歌声をオペラ歌唱に限ったとしても,歌声と話声とで,声帯振動様式がどう違うか,と云うのは,個人差も含めれば実は,本当に明らかな「これ」と云うのが見付かっている訳でも無い.声道の形状や,喉頭の構えつまり外喉頭筋なども含めての喉頭の調節などは,確かにオペラでは特徴的なマナーが存在する.

2013-02-05 14:52:43
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

フライが70 Hz以下と云う解説には,物理的な背景があって,声道のダンピングの時間長が 1/ 70 s とだいたい一致するので,それよりも低い声だと周期ごとの励起による音が時間的に分離する,と云うこと.

2013-02-05 14:55:37
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

高い声区では,裏声の上に,whistle ホイッスルと云う声区を置くのが普通.これは,話声ではほぼ出て来ないソプラノのコロラトゥーラの高い音域の声を示す声区.高さは違うが男性でも発声可能と考えるのが自然.ただし裏声→ホイッスルの声区の遷移は,生理的な連続性があると僕は考えている.

2013-02-05 14:58:09
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

若い学生たちにとっては,水樹奈々が裏声を使ったりする歌手としてはポピュラーなのかな.レポートを読み乍ら…

2013-02-05 15:00:44
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

日本の素晴らしい歌手,と云うテーマで,科学的にどう素晴らしいのかを解説した連載とか本とか将来的に書いてみたいですな.出版関係の人達のオファー歓迎です.

2013-02-05 15:03:24
Ken-Ichi Sakakibara @quesokis

いま仕事しながら聴いているTom Waitsとかを聞き続けていると声区と云う概念自体が,もう,どうでも良くなって来たりしますが…

2013-02-05 15:04:38