unpeu_g #twnovel 2013/1 空想と現実の狭間の鰐

twnovelまとめ:その⑭(1月分)
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二月大笑 @unpeu_G

故郷の山を思い出す。木々の間の冷たい空気、がさがさと通り過ぎる動物、黒々とした豊かな土。土から萌える幾多の芽、食べて食べられて朽ちる生き物。その全てを受け止める山。変哲もない山ではあるが俺に付けられた四股名でもある。俺は大地を踏みしめる。俺は今あの山である。 #twnovel

2013-01-05 23:40:09
二月大笑 @unpeu_G

#twnovel スノードームをプレゼントされた。キラキラと舞い上がる雪、そして降り積もるドームの底にあるのは小さな肉片である。生のステーキ肉である。雪原の中の赤い肉。私が巻き起こした紙吹雪に覆われて隠される肉片。

2013-01-05 23:57:08
二月大笑 @unpeu_G

#twnovel 私は羊を追っている。群れ全体で私だったしそれぞれが私そのものだった。だから私ははぐれてしまった羊を探しに行かねばならぬ。たった一頭だとしても。世界に開かれたままでいるのは風が通って落ち着かない。

2013-01-08 04:01:01
二月大笑 @unpeu_G

#twnovel 逃げればいいと思っている。いざとなったらの逃げる方法をいくつも頭に描いている。でも本当に逃げたら私はここからも逃げ出したい私はその次はどこに逃げるのだろう。だから実際は逃げられない。まぶたを閉じていくつもの輝く逃げ場を思い浮かべる。そうして少しだけ進むのだ。

2013-01-10 02:49:07
二月大笑 @unpeu_G

#twnovel 悪気は無いしむしろ善意だし私もたぶんやっちゃってるしさらっと笑って流せばいいのだ。それが大人と言うものだ。でも待って本当の大人ならこの場の空気を悪くせずにきちんと主張ができるのでは?「へえ、スピッツ好きなんだ?俺もミスチル好きだよ!」への回答をぐるぐる考える。

2013-01-15 21:52:07
二月大笑 @unpeu_G

#twnovel カーボンナノチューブを生成する植物を作り出しただけでも歴史的大発明だろうにヘリウムを組織に取り込んで繊維にしても壊れない性質をも持たせた綿はすっかり歴史を変えてしまった。人類は厚着さえすれば空を飛べるようになったのだ。熟れた綿は天井に溜まるので収穫服で回収する。

2013-01-17 22:23:43
二月大笑 @unpeu_G

#twnovel 春らしいセーターが欲しかった。上半身に光を当てて"植木鉢"の上に立つ。細くて軽くて柔らかい種類の種を選んで植える。つるがするすると伸びてきてブラウスの上で絡まり合う。芽先を遮り形を決める。少しくらいなら動いていい。むしろ全く動かないと実際着るとき動きにくい。

2013-01-18 19:03:02
二月大笑 @unpeu_G

#twnovel 外回りも一段落したので遅めのお昼にすることにした。近い公園を検索する。里山法の整備により公園で山菜が採れるのだ。犬を入れると罰せられる。こごみと、野蒜も少しだけ。干し鱈と味噌で雑炊にする。さすがに焚き火は出来ないが最新型のiPadにはIH機能が付いている。

2013-01-19 14:30:31
二月大笑 @unpeu_G

#twnovel 食事はコントロールされている。なにがどれだけ必要か、水分まで計算されて無駄なく不足無く摂取する。旧食事からの転換期には相当抵抗もあったらしい。ただ入れることのコントロールは出すことのコントロールにつながる。不意のピンチが限りなく減る。始めると便利で戻れない。

2013-01-21 08:45:22
二月大笑 @unpeu_G

#twnovel 知の後宮たるこの学院はぐるりと堀に囲まれており私たちは寮の各部屋でさえそれぞれの学問に愛されてそれだけで満足だった。ただ北塔の彼だけは夜中に『外』へ出ているという。堀には底まで見通せないほど鰐が犇めいているのだが、その大型の爬虫類さえも彼は誑かせるのだと聞く。

2013-01-27 09:47:00
二月大笑 @unpeu_G

#twnovel 一度も鰐を見たこともない絵師の手によって描かれた彼らを誑かすのなぞ造作ない。おやまた描き足されたのでは、と中の一匹に囁くと水面でずらりと並ぶ。お互いの差異を確認する。その隙に背中を渡り継ぎ簡単に向こう岸へ達する。空想と現実の狭間に描かれた鰐達による架け橋である。

2013-01-28 00:15:51
二月大笑 @unpeu_G

#twnovel 夜中に抜け出す生徒のことはもちろんちゃんとわかっていた。空想と現実の狭間に生きる鰐を放った水堀などは所詮飾りの脅しなのだ。ただ欲を言えばその生徒はもう一歩考えるべきだった。墨で描かれた鰐達が水に濡れても滲まない訳を。橋も船もないこの学園を囲む堀とは何なのかを。

2013-01-28 20:37:02
二月大笑 @unpeu_G

#twnovel 私達は現実には一度も鰐なんて見た事がない絵師に描かれた鰐である。私達を恐れる人間が水に濡れても滲まぬように私達が放れている堀の水に濡れても滲まない。私達は人間が神を信じるように絵師を信じる。人が奇跡を待つように何かを描き足される時を忘れられるまで待っている。

2013-01-29 21:00:47
二月大笑 @unpeu_G

#twnovel 神は心を痛めていた。確かにこの子は苦労しすぎだ。一つ解決したと思えばまた次の困難に襲われる。順風満帆一直線に幸せにしてしまいたい。でもそんな根性無しの作者に次の仕事の依頼は来ない。この子の話もそこで終わる。またぎりぎりのトラブルに巻込む。ごめん最後は幸せにする。

2013-01-30 22:03:54