バニかわ禁止令

ねこのげぼく @stcndr

バニかわ禁止令？

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その日、ひとつの法令が発布された。バニかわ禁止令…シュテルンビルトの王子様、バーナビーについて、「バニーちゃんかわいい！」と讃えることを禁ずる、というものであった。当のバーナビーが「僕、バニーちゃんって呼ばれるのも、かわいいって言われるのも、ちょっと」と発言したためである。

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バニかわ村は激震した。しかし当のバニーちゃん、いや、バーナビーが嫌だと言うものを村民が口にするわけにはいかない。バニかわ村は沈黙の底に落ちた。ひとり、ふたり、耐えきれず「バニーちゃんかわいい！」と叫んで身を投げ、あるいは狂ったように駆け出していった。村民は目を閉じ、耳を塞いだ。

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バニかわと夢の中で口に出すこともはばかられ、バニかわ村は名を変えることを余儀無くされた。バニかわ村最後の日、村民は小さなろうそくを灯し、バニーちゃんのかわいさを心の中で讃えた。このろうそくの灯りが消えても、心にバニかわを灯して生きよう。そしてひっそりとバニかわ村の旗が降ろされた。

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一人の旅の男が民家を見つけて立ち寄った。水をもらおうと声をかけるが、どこにも住人の気配はない。「おーい、誰もいないのか」かつて賑わっていたであろう通りは静まり返り、家々は崩れかけていた。男がやっと人影を見つけたのは、村の外れの東屋であった。「ここに人はいないよ。みんな出て行った」

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「出て行ったって、どこへ」「自由を求めて」「ならばあんたはなぜここにいる」「お守りせねばならんのさ。我らの…ゃんを」たったひとり残った老婆の言葉はしわがれて聞き取りづらかった。男は老婆の深い皺に刻まれた悲しみと、握り締められた布切れに縫い取られた文字を見つめた。「自由が欲しいか」

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「欲しくはない」「どうして」「逃げた先にバニかわを叫べる自由があるものか」バニかわ、バニかわ！ 老婆は地に額をこすりつけて泣いた。男は老婆の肩を抱いて、優しく言った。「バニーちゃんかわいい、それがあんたの自由なんだな」禁止された言葉を口にした男を、老婆は涙の奥から見返した。

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「さあ立って！ 約束するよ、俺はあんたに自由をやる！」力強く胸を叩き、男は立ち去った。老婆は某然と、かつて旗であったボロ布を握りしめた。翌朝のことである。老婆の家の水瓶に、小さな花弁が浮かんでいた。つまんで捨てると、花弁はそこに芽を吹き、茎を伸ばし、花を咲かせ実をつけた。

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あばら家は跡形もなく木にのまれていった。這々の体で逃げ出した老婆は、小山のように茂った巨木の実が次々にはじけ、鈴のように鳴るのを聞いた。「バニーちゃんかわいい！」「バニーちゃんかわいい！」…それは、長い長いバニかわ禁止令が解かれた瞬間であった。バニかわの号令は村を越えて響き渡る。

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きらきらと雫のように花びらが降り注ぐ。ふと老婆は自分の手に皺がないことに気づいた。体が軽い。バニーちゃんだ！ バニーちゃんかわいいの魔法があたしを救ってくれたんだ！ かがめていた背を伸ばし、胸を張って老婆は、いや少女は叫んだ。バニーちゃんかわいい！ 村は花に埋め尽くされていた。

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その、少し前である。旅の男がバーナビーのもとへ駆け込んできたのは。「バニーちゃんかわいい！」「なんですか、それ、やめてくださいって言ったじゃないですか」「頼む、バニーちゃんかわいいって言わせてくれ！」「いい加減にしてください」「バニー！」男の勢いに、バーナビーはじっと考えこんだ。

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「…また。何かあったんですか」「おまえをかわいいって言いたがってたのは俺だけじゃなかったんだ」バーナビーはため息をつき、旅の男のあごひげを引っ張った。「仕方ないですね。許しましょう」ふわりと蕾がほころぶようにバーナビーは微笑んだ。そして遠く離れたバニかわ村は息を吹き返したのだ。

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バニかわ村には一本の巨大な木がある。木は一日の終わりと始まりにバニーちゃんかわいい！ と鳴り、村人たちは木を見上げて唱和する。バニーちゃんかわいいと叫べる喜びと、バニーちゃんへの惜しみない愛情が村にこだまするのだ。バニかわ村の新しい旗の隅には、猫ヒゲの男の似顔絵が刺繍されている。

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おわり。

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ところでなんでバニかわが禁止されたんです？(今更