東海道中膝栗毛 二編 下
- KumanoBonta
- 10944
- 2
- 0
- 0
二編下は、東海道蒲原宿から岡部宿までのお話です。
【中ぼん】東海道中膝栗毛 二編下 は、だいたい2月20日頃から連載するかもしれないです。 http://t.co/CYtSTNcq
2013-02-13 20:24:13蒲原宿
江戸から三十七里二十一町四十五間 (147.7 km)
蒲原宿にたどり着いた弥次と喜多。 この宿の本陣ではお大名がお着きになったらしく、慌ただしく膳の用意の真っ最中だ。 喜多がそれを玄関から覗き見て、なにか思いついたらしい。 喜多「弥次、ちょっとこの風呂敷包みを持っててくれ」
2013-02-20 19:36:11弥次「何を始めるんだ」 喜多「すぐ戻ってくるよ」 弥次に風呂敷包みを渡すと、本陣へツカツカと入って行き、慌ただしさに紛れてしれっと席に着いた。お大名のお付き達に並び、 喜多「ここにも一膳たのむよ」 女中「はい、どうぞ」
2013-02-20 19:36:18他のお付き達とともにパクパクとたいらげ、隙を見て広げた手ぬぐいに茶碗の飯を包み、ササッと外に出た。 離れた場所の軒下で待つ弥次。 弥次「おい、どこへ行ってたんだ」 喜多「へへっ、飯を持ってきた」 弥次「えっ、どこで?」
2013-02-20 19:36:25喜多「本陣だよ。どさくさにまぎれて5~6杯いただいてきた」 弥次「そんな手をつかったのか! なんだよぅ俺も連れてってくれりゃよかったのにぃ」 喜多「ちゃんと土産があるよ。ほれ」 手ぬぐいに包んだ飯を出す。 弥次「うおぉありがてえ。おまえなかなか気が利くなぁ。うはー、うめえ」
2013-02-20 19:36:31残さず食ってご満悦の弥次だが、ふと気づいた。 弥次「あれ?おまえが飯を包んでた手ぬぐい、これ今日一日使ってたやつだよ…な」 喜多「それがなにか?」 弥次「うぷっ、なんだか急に気持ち悪くなってきた。うげげ」
2013-02-20 19:36:38喜多「気にするな。そんなことより今日の宿はどうする? 宿場はずれに木賃宿があるはずだ、そこでいいか」 弥次「いい女のいる木賃がいい」 喜多「そんなのあるわけねえ。木賃に期待するかよ普通。宿はどこだ? 弥次も探せっ」
2013-02-21 19:04:08宿が見つからずあちこちの家を覗いていたら、軒下で寝ている犬の尻尾を踏んでしまう。 犬「キャンッ」 がぶー 喜多「いてええええ!」 犬「がるるるる」 弥次「うわあ、逃げろーっ」 鮨の売り子「鯵の鮨~♪ 鯖の鮨~♪ 鮨はいかがー」
2013-02-21 19:04:18喜多「おすしやさん、この辺に木賃宿はありませんか」 鮨屋「いちばん向こうの端っこの家がそうだよ」 弥次「おう、サンキュ」 言われた家へ行ってみると、ほとんど六畳ひと間に仏壇、囲炉裏、そして破れたつづらが置いてあるだけの小さな宿だった。
2013-02-21 19:04:23主人は70歳近い爺さんで、囲炉裏の横で縄を編んでいる。囲炉裏に吊るしてある鍋で何やら煮ている側には、六十六部、略して六部と呼ばれる行脚僧が一人と巡礼が二人。巡礼の一人は60歳ほどのオヤジ、もう一人は17歳ほどの娘で、羽織を着たままあかぎれだらけの脚を伸ばし、火にあたっている。
2013-02-21 19:04:29【中ぼん】六部 (六十六部) とは、法華経を66回書写して一部ずつを66か所の霊場に納めて歩いた巡礼者で、通常の巡礼とはちと異なります。写真は明治中期の六部さん。 http://t.co/xsnrcUPpSv
2013-02-21 19:04:43婆さんは、枝をへし折りながら囲炉裏にくべていた。 喜多「ごめんくださーい…」 婆「どうぞ、こっちへ入らっしゃいまし」 喜多「今夜泊まりたいんですけど…」 爺「あがらっしゃい。そこに水があるから足をゆすぎなされ」
2013-02-21 19:04:34二人は足を洗いながら、 喜多「弥次ぃ~あの巡礼の子かわいいなぁ~」 弥次「腹が減ってるときは何でもおいしく見えるってことだ」 六部「さあ、こっちへ来て火にあたりなされ」 喜多「おい弥次、も少しそっちに寄れよっ」 喜多が娘の横に割り込んで座る。
2013-02-22 19:35:11婆「さあ粥ができました。皆さんどうぞ」 弥次「おほっ、温かくていいねえ」 婆「いやいや、あんたたちの分はないよ。これはこちらさん達が持ってきた米だからね」 巡礼「今日もらってきた米は籾殻ばっかりで、中身はほとんどなかったよ。しかも半分は石ころだ。これを食ったら腹が重くなるだんべ」
2013-02-22 19:35:18婆「六部さんは三合ほどあったんべい。そこへ分けて食べなされ」 皆それぞれ持ち寄った米の分だけ食べ始める。弥次と喜多は見てるだけ。手持ち無沙汰で、煙草入れの底をポコポコたたく。 六部「お二人はお江戸のかたですな。わしは江戸でとんでもない目に遭いました」
2013-02-22 19:35:24弥次「どうしたんですか」 六部「私がこの六部になった原因でもあるんだが…人というものは、運がなくちゃどんなにがんばっても出世できないもんだねえ。私は若い頃、江戸に住んでたんですよ」
2013-02-22 19:35:32六部「ある年の夏から秋にかけて、毎日毎日風の強いことがあったんだ。そのころ金を儲けることばかり考えていた私は、あるときすごいことを思いついた」 弥次「何を?」 六部「いやね、箱屋を始めたんだよ。重箱に櫛箱、いろんな箱を片っ端から仕入れて売り始めた」
2013-02-25 19:17:26弥次「? 風が吹いたから箱屋を始めたとはどういう理屈だ」 六部「私が考えたのはこうだ。毎日毎日風が吹く。江戸は砂埃がたつから、みな目に入るだろ。それで目を悪くするものが続出するんだ。そうすると外にも出られないので、家で三味線を始めると」
2013-02-25 19:17:36六部「そうすると三味線屋が繁盛する。それで三味線が足りなくて、作るために猫が殺される。で、猫が少なくなるので今度はネズミだらけになるんだよ。どこの家も桶や箱がかじられてダメになってしまうわな。つまりそういうことだ。ここで箱が売れまくると、私はそう読んだのだ」
2013-02-25 19:17:43弥次「なんて素晴らしい発想だ! それは大層儲かったでしょう!」 六部「いや…ひとつも売れなかった。こんなにあれこれ頭を捻ってこれはいけると思っても、ダメなときはダメなんですよ。それで悟って六部になった次第です」
2013-02-25 19:17:51喜多「いやいや、たいへん感心しました。ところでそちらの巡礼さん達は、何がキッカケで巡礼に出ようと思いついたんですか」 巡礼「ははは。わしもついでに懺悔の話でもしますかな。この娘は私の孫なのですが、私達は妙なことから仏様と縁があり、巡礼に出ることになりました」
2013-02-26 19:20:13弥次「ほう」 巡礼「私達は日光から来たのですが、あそこは雷がとても多いところです。ある夏の夜に、私の家の裏でとても大きな雷が落ちました。見に行くと、雷様が榎の株に尻をついて具合を悪くしとったんです」
2013-02-26 19:20:18喜多「なんと」 巡礼「天に帰ることもできないと言うので家で休んでもらったのですが、数日泊まりこむうち、雷様が私の娘とできてしまったのです。お互い離れたくないと言うので、仕方なく雷様を婿にとりました」
2013-02-26 19:20:24