即興小説『忍殺風「走れメロス」』(完結)
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asagihara_s
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メロスは激怒した。慈悲はない、邪知暴虐の王殺すべしと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスはイナカ・ソサイエティの羊飼いである。イナカで笛を吹き、羊と遊んで生きてきた。しかし邪悪なるものに対しては、実際敏感であった。 1
2013-02-13 18:28:03
今日未明、メロスはイナカを出発し、羊飼いの恐るべき脚力をもって、約40キロメートル離れたこのシラクス・シティにやって来たのだ。 2
2013-02-13 18:34:09
メロスの両親は既に亡い。妻もいない。16歳になる内気な妹と2人暮らしだ。この妹は近々イナカの別の羊飼いと結婚する予定である。オメデタ! メロスは妹のため、ハナヨメ・イショーやご馳走を買いに、シラクス・シティまでやって来たのである。 3
2013-02-13 18:39:07
買い物を終え、メロスはシティのメイン・ストリートをぶらぶらと歩いた。メロスにはタケウマ・フレンドがあった。セリヌンティウスという石工の男だ。これからその友のもとを訪ねようとしている。セリヌンティウスと逢うのはオヒサシブリなので、メロスの胸は浮き立っていた。 4
2013-02-13 18:41:33
歩くうちにメロスは街の様子がおかしいと察した。街は相応しからぬ静寂に包まれている。既に陽は落ちている。暗いのは当たり前だ。だが、この静けさは夜のためばかりではない。ノンキなメロスも実際不安になってきた。 5
2013-02-13 18:46:26
メロスは街の若者を捕まえて訊ねた。「ドーモ、メロスです。街はどうした。2年前はもっと賑やかだったはずだ」若者は首を振るばかりで答えず、そそくさと去っていた。メロスは次に老人を捕まえて強く訊ねた。老人はあたりをはばかりながら小さく答えた。 6
2013-02-13 18:50:24
「アッハイ。王様は人を殺します」「なぜ殺すのだ」「悪心アトモスフィアを抱いている、インガオホー! というのですが、誰もそんな悪心アトモスフィアを抱いてはいません」「何人殺した?」「妹君のダンナ=サン、ご自身のムスコ=サン、イモウト=サン、そして妹君のムスコ=サン……」 7
2013-02-13 22:41:49
「ワッザ!? 王は乱心か」「乱心ではありませぬ。人を信じられぬと……。最近ではカチグミ・シンカにも人質を差し出させています。拒めばサラシ・クビです。今日は6人殺されました」聞いてメロスは激怒した。「呆れた王だ。慈悲はない、王殺すべし」 8
2013-02-13 22:44:38
メロスは単純な男であった。買い物を背負ったままで、メロスは王城へ歩いていく。その行く手にクローン警吏が立ちふさがった。「ダッテメッコラー!」「スッゾコラー!」メロスは懐中からスリケンを投擲!「イヤーッ!」「グワーッ!」メロスのスリケンはたちまちクローン警吏を絶命させる! 9
2013-02-13 22:50:10
しかしあまりに多くのクローン警吏の前に、たちまちメロスのスリケンは尽きた。「シャッコラー!」「シャッコラー!」「シャッコラー!」「シャッコラー!」「シャッコラー!」「シャッコラー!」「シャッコラー!」「シャッコラー!」ナムサン! メロスはたちまち捕らえられてしまった! 10
2013-02-13 22:52:57
メロスは王の前に引き出された。「ドーモ、はじめましてメロス=サン。ディオニスです」「ドーモ、ディオニス=サン。メロスです」暴君ディオニスは静かに、けれど威厳をもってメロスにアイサツした。「このスリケンで何をするつもりであったか、言え!」その顔は蒼白で、眉間の皺は深かった。 11
2013-02-13 22:58:05
「困っている人を助けないのは腰抜け」メロスは悪びれずに答えた。「ミヤモト・マサシのコトワザか」王は憫笑した。「お前には儂の孤独がわからぬ」メロスはいきり立って反駁した。「人にジュ・ジツを使えば己の墓穴が増える! 民の忠誠さえ疑うのが王か」 12
2013-02-13 23:04:44
「ムハハハハ! 疑わねば生きてはいけぬ。そう教えたのは貴様らだ。人間は私欲の塊よ。信じてはならぬ。儂だって平和を望んでいるのだ」王の落ち着いた言葉に、メロスは嘲笑した。「何のための平和だ。自分のためか。罪なき人にセプクを迫って、何が平和だ」 14
2013-02-13 23:12:29
「黙れ、マケグミ・イナカモンが」王は一喝した。「口の先端3フィートというコトワザがある。儂には人の腹の底が見えてならぬのだ。貴様だってセプクを迫られてから泣いて失禁したって聞かぬぞ」 14
2013-02-13 23:15:29
「俺はセプクの覚悟を決めている! 命乞いなどない! だが――」メロスは叫び、視線を落として続けた。「セプクまでに三日の期限がほしい。たったひとりの妹が結婚するのだ。三日のうちにイナカで結婚式を挙げさせ、ここに戻ってこよう。戻ったら潔くセプクしようではないか」 15
2013-02-13 23:20:25
「馬鹿な。逃げたお前が帰ってくるというのか」「そうだ。俺は帰ってくる。信じられぬというなら、この街にセリヌンティウス=サンという石工がいる。俺のタケウマ・フレンドだ。彼を人質としてここに置いていこう。三日目の日没までに俺が戻らなかったら、彼をセプクさせてくれ」 16
2013-02-13 23:23:49
それを聞いてディオニスはそっとほくそ笑んだ。このメロスも所詮は同じ穴のラクーン、どうせ帰ってこないに決まっている。それなら騙されたふりをして、三日目に悲しみにくれながらこいつの友とやらをセプクさせてやろう。王の顔に浮かんだ笑みは邪悪であった。コワイ! 17
2013-02-13 23:29:47
「ムハハハハ! わかった。身代わりを連れて来るがいい。三日目の日没に遅れたら、身代わりを殺す代わりに貴様は永遠に許してやろう」「なんだと」「ムハハハハ! 命が惜しければ遅れて来るんだな! 貴様の心はわかっているぞ!」メロスは悔しさにジダンダのマイを舞った。 18
2013-02-13 23:32:20
メロスのタケウマ・フレンド、セリヌンティウスは深夜、王城に連行された。暴君の前でタケウマ・フレンズは2年振りに再会した。「ドーモ、メロス=サン。セリヌンティウスです」「ドーモ、セリヌンティウス=サン。メロスです。巻き込んでしまってすまない」 19
2013-02-13 23:34:47
メロスは一切の事情を語り、セリヌンティウスは無言で頷いた。「ユウジョウ!」「ユウジョウ!」友と友の間はそれで充分であった。セリヌンティウスは縛られ、メロスはすぐに王城を出発した。満天の星であるが、それを見上げる時間はない。今はただ走れ、メロス! 20
2013-02-13 23:36:57