#ICKX兵工技研のバレンタイン

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CK/旧七式敢行💉×3 🌳🏇 @CK_Ariaze

「♪~♪~♪~」フォートクォートの厨房に楽しげな鼻歌が響く。 フリルだらけの服の上にこれまたフリルだらけのエプロンをつけた少女は鍋の中身をかき混ぜ、少し掬って味を確かめると満足げな笑みを浮かべた。 「これでよし。ふふっ、あとは型に入れれば完成ですね」

2013-02-14 22:01:58
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翌日、いつものようにフォートクォートに平和な朝が訪れた。 「おはよう」ナヴァホは広い廊下をゆっくりと歩いていき、時折すれ違う乗組員や社員たちに挨拶していく。 「どうした唐変木、今日は顔色が良くないな。幽霊でも見たか?」食堂に入ってきた彼の姿に最初に気づいたのは猟犬だった。

2013-02-14 22:05:30
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「角砂糖に埋もれて死ぬ夢を見た」「おっかねぇなぁそりゃ」 ハウンドは苦笑しながらナヴァホに座るよう促した。「コメットは一緒じゃないのか?」いつも猟犬と一緒に食堂で駄弁っているはずのコメットの姿は見当たらなかった。「今朝はヤボ用だとさ」「へぇ」

2013-02-14 22:07:36
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「そういうお前は今日は新型ガンポッドのテストなんだろ?」「あぁ、午後からだけどな」ナヴァホのチームは新型ガンポッドの性能評価試験を進めているところだった。テストは順調で、今のところは軽微な機械的トラブルが起きただけだ。「こっちはこれからスクランブル待機だとよ」

2013-02-14 22:10:10
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「いいじゃないか、3時間交代だろ?」今となってはフォートクォートにちょっかいを出そうという愚か者はいなくなったが、一応用心をしておくに越したことはない。番犬ハウンドの朝は早い。「缶詰だしソファーも岩のように硬いし、第一あの待機室の空調がイカれてて足が冷えるんだよ」

2013-02-14 22:13:03
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「コメットが嫌がるわけだ」ナヴァホの言葉にハウンドは頷いた。「あぁ、この間も冷え解消の本を読んでたからな」「へぇ、意外だな」「あぁ見えて意外と乙女なところがあるからな」ハウンドの言葉に耳を傾けていたナヴァホの表情から苦笑いが消える。「あ、どした? 幽霊でも……うわっ!?」

2013-02-14 22:18:08
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「ほう……詳しく聞かせてもらおうじゃないか」ハウンドの後ろに、いつの間にかコメットが立っていた。「あ、オハヨウゴザイマスコメットサンケサモゴキゲンウルワシュウ」ハウンドがおそるおそる振り返ると、コメットはにっこりと微笑んだ。「あ、あはは……ゴメンナサイ」

2013-02-14 22:21:53
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「骨は拾っておいてやるよ」「あいだだだだだだだぁ!?」ハウンドの絶叫が食堂に響いた。

2013-02-14 22:22:14
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「――以上です。バルーンをすべて破壊、もしくは弾薬がなくなった時点で状況終了とします」 「わかりました」 いつものようにフルトからの説明が終わり、ナヴァホはブリーフィングルームを後にしようと椅子から立ち上がった 「あ、ナヴァホさん。今日は特別ボーナスです」「特別ボーナス?」

2013-02-14 22:27:53
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ナヴァホは日付を思い出す。2月14日、給料が振り込まれるにしても手当が出るにしても妙なタイミングだ。 「あっ……」「気づくのが遅いです、ナヴァホさん」はっとした表情のナヴァホにフルトは小さな包装紙とリボンに包まれた箱を渡した。「受け取って……いただけますよね?」

2013-02-14 22:32:30
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頬をほのかに染め、身長差も相まって上目遣いでナヴァホを見上げる少女の澄んだ瞳に青年は抵抗できなかった。「よ、よろこんで!」ナヴァホは仰々しく包みを受け取り、深々と礼をしてから退室していった。 「今出ました。予定通りです」フルトは黄金色の髪の中に隠したインカムに話しかけた。

2013-02-14 22:36:07
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「おはようございます、マスタ」「あぁ、おはよう」ぎこちない操縦者の態度はAIにも分かった。「心拍数と体表面温度が高いです。何かあったのでしょう?」「や、なにもないぞ? 今日はやけに暖かいからな」ナヴァホの背を冷たいものが伝っていった。「例えば、誰かから甘いものをもらった、とか」

2013-02-14 22:37:44
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「っ!」「図星ですか」いつものように、静かにエフィは言った。「で、相手は誰です? 死星ですか? オペレータのあの娘ですか? それとも……猟犬?」「まて、最後おかしいだろそれは!」彼女の挙げた候補の中にフルトの名前がなかったことにナヴァホは安堵した。

2013-02-14 22:40:41
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「昨日は伝えそこねましたが」「ん?」ナヴァホは彼女の声の調子が少し変わったように感じた。「本機に新たな機能が実装されました」「新型ガンポットじゃないのか?」首を傾げるナヴァホには構わず、エフィは続けた。「計器盤の裏を見てください」「なにもないぞ?」「右ではありません、左です!」

2013-02-14 22:44:03
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「お、おう」言われるがまま、ナヴァホは計器盤の裏を探る。昨日まではそこになかった膨らみが底にあった。「これは……?」ナヴァホがそれに触れると、膨らみは計器盤をはずれ、慌てて伸ばした彼の右手の中に着地した。水色の包装紙に赤いリボンのかけられた包みだった。

2013-02-14 22:48:39
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「意味は……ご自身で考えてください」「ありがとう。受け取っておくよ」ナヴァホはコクピットカメラに向かって微笑んだ。 Y1のあらゆる回路に設計限界ギリギリの電圧がかかり、放熱機構が強制冷却を始める。「マスタ……」「どんな魔法を使ったのかは、お前が戻ってきた時にでも聞かせてくれ」

2013-02-14 22:51:58
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ナヴァホがそっと計器盤を撫でると、Y1のヘッドアップディスプレイは電磁パルス攻撃でも受けた如く様々な警告を表示し、装備されているあらゆる装備が強制排除された。「うわっ、なんだ!?」「機械的な……トラブル……です」エフィは唯一まともに動作する会話モジュールを使って状況を報告した。

2013-02-14 22:53:43
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「ふふ、二人共まだまだね」格納庫の端ですべての会話を聞いていたフルトはインカムを外した。 ――妹の恋路を応援するのも、姉の大事な務めですもの。 不敵な笑みを浮かべ、フルトは静かに格納庫を後にした。

2013-02-14 22:55:20
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武装の強制排除によってガンポッドの重心がひん曲がり、某重工にフルトが謝罪のケーキを贈るハメになるのは、また別のお話。

2013-02-14 22:55:25
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「そういえばよ、今朝は何やってたんだ?」スクランブル待機の終わったハウンドは未だ不機嫌そうなコメットに問いかけた。「んっ!」コメットは黙って。オレンジ色の包みを彼に渡した。「こ、これはまさか……!」「いいか、義理だからな! 何度も危ないところを救ってもらった義理だからな!」

2013-02-14 22:57:39