仲山ひふみさんの論考「ボーカロイドを用いた諸実践において進行している」もの

ATAK Dance Hall feat.初音ミクに端を発する仲山ひふみさんの論考。 「ボーカロイドを用いた諸実践において進行しているのは、『声』という具体音・環境音の中でもっともサインとしての性質が強いマテリアルが、サインとしての性質を解体させていくことで(ボーカロイド自体が既にただの『声』ではないのだから)、リズムとテクスチュアの対立を止揚していく過程だろう」
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仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

7:15あたりでミクの声が無数に絡まりあう部分、リズム/テクスチュア/サインが完全にトリニティ・イニシエーションしてた(すごすぎて)。”ATAK Dance Hall feat.初音ミク@LIQUIDROOM 2013.01.25: http://t.co/t5QlgCCf

2013-02-16 02:23:42
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仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

ボカロの可能性について考えるうえで、絶対避けて通れない聴覚的参照物の一つになっていると思う。ノイズとボカロの親和性。”ATAK Dance Hall feat.初音ミク@LIQUIDROOM 2013.01.25: http://t.co/t5QlgCCf

2013-02-16 02:30:37
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仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

ここでの声のカットアップの仕方って、いわゆる〈現代詩〉における言語の使用に非常に類似しているので、その観点の分析も有効だろう。”ATAK Dance Hall feat.初音ミク@LIQUIDROOM 2013.01.25: http://t.co/t5QlgCCf

2013-02-16 02:37:19
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仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

リズムとテクスチュア(音色)という要素は通常区別されるが、DAWの波形編集画面では等しく時間軸上に展開するイベント(出来事)のパターンであり、単に基準となる時間単位の大きさが違うにすぎない。そこをついたのがアンビエントから派生したダブテクノだろう(ないしはダブそのものが既に)。

2013-02-16 02:44:57
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

例えばエフェクターの一種であるトレモロについて考えてみよう。ある音色の振幅の大きさに周期的な揺れを与える。これはリズムとして感知できる。フィルターであれピッチモデュレーションであれ、周期的な音色の変化はそれだけでリズムの要素になる。工夫次第で不規則な変化からもリズムが作れる。

2013-02-16 02:47:58
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

ノイズ・ミュージックは普通、非周期的な音色と構成を採用した音楽とみなされているが、これは相対的なものにすぎない。ノイバウテンのように金属の非整数倍音の音色からノイズ性を引き出すこともある。逆に、整数倍音を持った音色でも、複雑に組み合わせていけば結局はノイズに近づく(現代音楽)。

2013-02-16 02:52:06
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

そういうわけなので、リズムとテクスチュア(音色)は現代の先端的な音楽制作環境においては、区別することが難しい場合が多々ある。茫漠としたパッドのテクスチュア(音色)と、背後のサブベースが打ち出すリズム(ビート)が境界を失っている状態など。「声」のサンプリングでも同様の事態になる。

2013-02-16 02:57:49
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

「声」はそれ自体で、音節や音素や抑揚など、リズムとテクスチュアの統一体を持っている。これを音楽の構造に対応させていく際、既にあったリズムとテクスチュアに新たな要素が付け加わる。そしてその要素、「声」のもつサイン(記号)としての性質が、前二要素と共に融解(分解)していく。

2013-02-16 03:04:11
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

ダブステップ以降のサウンドは、それぞれの音色を明晰に分離できるようにするという20世紀初頭以来のモードに対し、19世紀的な混色気味のテクスチュア(音色)への回帰しているとも言えるかもしれない。リズムとテクスチュアの有機的統一が取り戻される。そこにダブが絡む文化的意義は大きい。

2013-02-16 03:12:18
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

ダンスミュージックから区別されたエレクトロニカは、個々のテクスチュア(音色)を周期的な反復を前提とした波形のパターンとしてまとめ上げた。結果としてそれらマテリアルは打楽器のように扱われる。打楽器は西洋音楽においては内部構造(音程構造)を与えられない。所有とオリエンタリズムの音楽。

2013-02-16 03:18:00
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

エレクトロニカはだから、聴覚の上に仮想的に作り出された平面上にテクスチュア(音色)を並べるのだ。そこではサインウェーブが超越的シニフィエを作り出しつつ、全ての音色がビットレートとサンプリングレートの2つの軸から作られる平面のうえに置かれる(実際には合成されている)。

2013-02-16 03:22:03
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

明晰さも判明さも喪失すること。リズムとテクスチュアを分離しないこと。「声」は、既にリズムとテクスチュアの一体化を経験しているがゆえに、この古くて新しい音響世界における新しいモデルとなるのだが、「声」はサインでもあるので、音楽に新たな分節が再び導入される危険も生じる。

2013-02-16 03:27:16
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

「声」に代表される具体音や環境音の持つ、サイン(記号)としての性質を解体することが試みられる過程で、リズムとテクスチュアが区別されるのも音をサインとしてみる限りのことであるし、ならばサインの解体とリズムとテクスチュアの融合は同時に行われるべきではないかという考えが生じる。

2013-02-16 03:35:06
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

ボーカロイドを用いた諸実践において進行しているのは、「声」という具体音・環境音の中でもっともサインとしての性質が強いマテリアルが、サインとしての性質を解体させていくことで(ボーカロイド自体が既にただの「声」ではないのだから)、リズムとテクスチュアの対立を止揚していく過程だろう。

2013-02-16 03:40:31
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

本来ならリズムとテクスチュアの対立の止揚という純粋に形式的な問題は、ノイズ・ミュージックやフリー・インプロヴィゼーション、現代音楽などが取り組むべきだったはずだ。また、エレクトロニカが客観的な音響物理への関心を強めた結果、周縁化されてしまった技術と心理の関係の問題も含んでいる。

2013-02-16 03:46:09
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

ロック・ミュージックについてケージが述べたコメントが今日でも示唆的である。ロックのサウンドはリズムもテクスチュアもアンプリファイされることで溶け合い、一つの連続体を作っている(『小鳥たちのために』)。ダンス・ミュージックはテクノロジーとのかかわりの中で独自にこの融合を発見する。

2013-02-16 03:51:39
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

大雑把な書き方で恐縮だけれども、とりあえずここまでが現状の「音楽」(ボカロはもちろん現代音楽からポップミュージックまで、可能な限りあらゆるジャンルを含んだ、世界音楽史的視野における意味での「音楽」)に対する僕の考えであり、もっともアクチュアルであると思える問題。

2013-02-16 03:55:27
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

「ポスト・ケージ主義」と「聴取の絶対化」への警戒、「拡張された分節化」の諸様態の研究、「付随音楽的なもの」(要するにアニソンとか)の原理的な重要性の提示といった以前からの個人的課題に加えて、音楽の記号論的な取り扱い(つまり音楽のイメージの問題)の再検討も必要になってきそう。

2013-02-16 04:04:43
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

音楽の記号論的な取り扱いについては結局、「聴取」と「思考」の関係をどう定めるかという問題と深く関わってくるので、ケージ-フェルドマン-ウォルフの三者の姿勢を比較するという具体的課題に変形可能だし、あるいはフィールドレコーディングにおける様式分類にも繋がってくるだろう。

2013-02-16 04:07:29
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

しかしそれはそうと”silence”(ジョン・ケージ研究者が情報交換のために多数登録している国際的なメーリングリスト)にやっていて良かったな。基本的にハズレな情報というのがない。最近出版が相次ぐ図形楽譜関連の文献もしっかり紹介してくれているし。

2013-02-16 04:14:19
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA @sensualempire

音楽やサウンドアートについては常日頃からいろいろ考えているわけだが、そんな中MOTでの「アートと音楽」展に微妙に肩透かしを食らい、湯島でのハルーン・ミルザの個展に若干の刺激を受け、蓮沼執太の「音的」展に未見だがかなり強い期待を覚えるという次第になった。

2013-02-16 04:46:27