若島正(@ propara)さんの語る「本を読んだ体験ワースト1」(あるいは、もだえ苦しむ活字中毒者地獄の土浦)

若島正さんは「23歳のとき」として語ってますが、若島さんが23歳の時は1975年8月から1976年の8月まで。体験上は1976年の春のような気がするんですが、日下圭介さんの「小説新潮」掲載作が何かまでは確認できませんでした。詳しい人はコメント欄でよろしくお願いします。
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Problem Paradise @propara

それでは次に、本を読んだ体験ワースト1の話とまいります。

2013-02-16 01:08:32
Problem Paradise @propara

あれは23歳のときだったでしょうか。当時のわたしは数学者になる夢を捨てきれずに、院浪をしていたのでした。で、そのときに受験したのが筑波大学の大学院でございました。

2013-02-16 01:13:37
Problem Paradise @propara

当時の筑波大学というと、建ったばかりで、大学のまわりには田んぼしかないところ。たしか、土浦市からバスに乗って30分かかったように記憶しています。

2013-02-16 01:15:22
Problem Paradise @propara

で、受験の前日に土浦市の予約した宿を探して行ってみると、それはそれはうらぶれた和風旅館で、どう見ても宿泊客はわたし一人しかいないのでした。

2013-02-16 01:18:24
Problem Paradise @propara

廊下の電気も薄暗い。夜になって、ますますわびしい雰囲気になってきたときに、わたしはある恐ろしい事実に気づいたのでした。読む本を一冊も持ってきていない!

2013-02-16 01:20:13
Problem Paradise @propara

その頃のわたしは、完全な活字中毒になっていたときでした。椎名誠さんの名著『もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵』ではありませんが、活字なしには生きていけない、そんな状態であったのでした。土浦市という見知らぬ都市のわびしい旅館で、読むものがないと知ったときの恐怖、お察しくださいませ。

2013-02-16 01:25:16
Problem Paradise @propara

そこで、夜の8時ごろだったか9時ごろだったか、わたしは読むものを求めて、土浦市を彷徨することになりました。ところが、どうしたことか、行けども行けども、夜の土浦市に本屋が見つからない。ただただ迷宮のような町が広がっているだけです。

2013-02-16 01:28:52
Problem Paradise @propara

本屋がないという文化果つる地を想像できなかった、京都のどまんなか生まれのわたしは、完全にパニックに陥りました(土浦市民のみなさんすみません)。パニックに陥った頭には、とんでもないアイデアが思い浮かぶものです。ここには本屋というものが一軒もないとして、どこへ行けば活字に出会えるか?

2013-02-16 01:34:39
Problem Paradise @propara

知らず知らずのうちにわたしの足が向かったのは、土浦駅でした。駅の構内には、きっとキオスクがあるはず。そしてそこには、どんなつまらないものであれ、雑誌があるはず!

2013-02-16 01:37:47
Problem Paradise @propara

わたしの記憶には、真っ暗な中に浮かび上がる土浦駅があります。そしてそこには、わたしの期待どおりに、キオスクがありました!

2013-02-16 01:39:51
Problem Paradise @propara

当然ながら、そこには駄本しかありません。しかしそんなことは言ってられない。長崎の駄本売りからわたしが買ったのは、いわゆる中間雑誌と呼ばれるもの、今では憶えていませんが、「小説新潮」といったたぐいのものでした。

2013-02-16 01:42:02
Problem Paradise @propara

わたしはその「小説新潮」か何かを、まるで戦利品のように、わびしい旅館に持って帰りました。そして、眠れぬ夜に、その雑誌のそれこそ隅から隅までを、むさぼるようにして読んだのでした。

2013-02-16 01:44:27
Problem Paradise @propara

たしか350ページほどあったでしょうか。それは、それまでにわたしが読んだ中でも、最も意味のない本でした。活字はぎっしり詰まっていても、ほとんど白紙同然のような本。しかしわたしは、それでも読まずにはいられなかったのです。中毒患者というのはそういうものです。

2013-02-16 01:47:50
Problem Paradise @propara

今では、その雑誌にどんな小説や記事が載っていたのか、完全に忘れています(忌まわしい記憶とはそういうものです)。唯一記憶しているのは、江戸川乱歩賞受賞作家である日下圭介のくだらないミステリが載っていた、ということだけです。

2013-02-16 01:53:52
Problem Paradise @propara

で、肝腎の筑波大学大学院の方は、受かったのですが、結局入学しませんでした(代わりに、京都で数学の高校教師をすることにしたののです)。数学者になることをあきらめた理由のひとつは、その土浦市での「小説新潮」体験であったことは間違いありません。

2013-02-16 01:57:22
Problem Paradise @propara

考えてみれば、今こうしてこんな仕事をしている遠因は、もしかするとあのときの「小説新潮」ではなかったかと思えなくもありません(それがなければ、数学者になっていたかもしれないのですから)。万事塞翁が馬の如し、ということでしょうか。ワースト1の読書体験に選ぶのは当然のことなのです。

2013-02-16 02:02:12
Problem Paradise @propara

もちろん、わたしは話を誇張して書いていますが、市の中心街に本屋が見当たらなかったというのは本当の話です。1975年頃。申し訳ございません(ペコリ)。@Seki_Etsushi :はじめまして。土浦市民ですが、本屋がなかったというのは何年頃の話なのでしょうか。

2013-02-16 02:13:49
Problem Paradise @propara

今冷静に考えれば、夜に見知らぬ町を歩くと同じところをぐるぐるまわってしまうので、なかなか見つからなかったのだと想像します。@Seki_Etsushi :その当時ですとまだ駅前の通りに面した共栄堂等、2軒ほど大きな書店があったので惜しかったですね。

2013-02-16 02:33:19