ついのべとか、短いのまとめ

自分用メモ。とりあえずさかのぼれるまで。
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志水了 @rssyubinbou

誰もいないはずの音楽室から、小さくピアノの音が聞こえてきた。そっと小窓から覗くと、友人が悲しげなフレーズを繰り返している。鍵盤に向けられる眼差しは微笑んでいるようにも、寂しそうにも見えて。扉にかけていた手を引いて、そっと背中を扉に付けた。 #twnovel

2013-06-10 17:51:40
志水了 @rssyubinbou

最期に見上げた桜は、霞のように柔らかい色だった。くすぶっていた後悔や執念が全て浄化されるような感覚に、ほうと息を吐く。この散る花びらと共に消えていく中、ただひとつ、ただひとつだけ、残った想いは。目を伏せても、瞼の裏に焼き付いているのは、あなたの。 #春の欠落

2013-05-01 12:11:37
志水了 @rssyubinbou

また今年も桜が咲いた。柔らかい風が花びらを揺らして、散らす。今年も満開のアーチを皆で見上げて花を楽しんで。ああ、きれいだな。美しいな。暖かいなあ。満たされているはずなのに、記憶のどこかで何か足りないと叫んでいる。何が足りないのか、ああ、消えてしまったあなたが、いない。 #春の欠落

2013-04-30 13:04:46
志水了 @rssyubinbou

最初に嘘をついたのは僕なんだ。がらがらと崩れ去った現実を前に、君は痛々しそうな笑みを浮かべる。笑ってないで、ほら、こっちを向いて怒ってよ。早く僕を「裏切り者」と蔑んでよ。そう願っても、君はこっちを見て笑うんだ。ここまでしても――君は僕を見てくれないんだね。  #twnovel

2013-04-10 20:17:59
志水了 @rssyubinbou

我が儘と言われるのが怖くて、ずっと口を噤んで君の横にいた。今になって、我が儘と言われてもすがりつけば良かったと、強く思う。桜が咲くのを見る度、散りゆく花びらの向こうに消えていった君の姿が、鮮やかに蘇るのだ。 #twnovel

2013-04-08 18:05:14
志水了 @rssyubinbou

いくつもの写真が綴られたアルバム。送る事のなかった手紙。少し古ぼけたテディベア。使いこんでひびの入った、ティーカップ。そこには見えないいくつもの思い出が溶け込んでいる。その思い出達をボストンバックに詰め込んで、私はひとり、住み慣れた街を出る。  #twnovel

2013-04-02 20:46:15
志水了 @rssyubinbou

その香炉は、亡き母の形見だった。亡き母からは生前、いつでもこの香りを切らさぬように、ときつく言われていた。新たに香りを焚こうとすると従者に止められるのだが、刷り込みのように何度も言われているので、香炉に手が伸びてしまう。それが体に障る毒であると知っても、なお。 #twnovel

2013-03-27 12:05:03
志水了 @rssyubinbou

数年ぶりに故郷に帰ってきた。一見昔と変わらない光景。だが昔あったはずの建物は無くなって、少しずつ、記憶と噛み合わなくなっていく。あの頃、夢を語っていた友人は今もまだ、同じ夢を追いかけているのだろうか。それとも故郷のように、僕のように、変わっているのだろうか。 #twnvday

2013-03-21 18:50:14
志水了 @rssyubinbou

その日、珍しく部屋はろうそくの灯りだけだった。アロマキャンドルを貰ったらしい。こういうのも良いよねといつも明るい彼女の笑顔が、柔らかな灯に照らされている。だがろうそくの火が揺れた時、彼女の表情も揺れたように見えていた。同じ面の中に、昏さを隠しているのだろうか。 #twnovel

2013-03-13 11:54:37
志水了 @rssyubinbou

姉が死んだ。色々な手続きに追われた帰り道、すっかり宵の並木道を歩いていく。並木道は桜が一斉に咲き誇り、祭りに向けて提灯の準備がされていた。その時、灯りが点されていないはずの提灯が一斉に赤く染まる。驚いて足を止めた先、赤と桃色の光に浮かび上がるあの姿は、まさか。 #twnovel

2013-03-06 12:21:11
志水了 @rssyubinbou

先輩には、花束を押し付ける事しかできなかった。階段を下りながら涙が滲み出る。踊り場で窓から空を見上げている姿。振り向いた時、夕焼けの影となっていた先輩。あの時、柔らかな笑顔を浮かべていたのだろうか。思い出してはきしりと胸が痛くなる。好きでした、も言えないままで。 #twnovel

2013-03-01 20:09:17
志水了 @rssyubinbou

提灯が赤く揺れる中、久々に再会した友人と花見の席になった。持ってきた酒のボトルを出すと、友人は愉しげに口元を吊り上げる。「これは、こいつらも好きそうだ」言葉の意味が分からないでいる時、ひらひらとボトルの口元に舞い降りる何かが見えた。青に輝く、蝶だろうか。 #twnovel

2013-02-27 22:20:54
志水了 @rssyubinbou

嫁ぐ家が決まった日、帰ると達彦は店の軒先を掃いていた。岬が嫁ぐ家が決まったとだけ告げると、彼はその手を止める。思わずきらいになったと問いかけると、彼は怒ったような顔で、嫌いになる訳ないだろと言う。いっそのこと、きらいになってくれれば良かったのに。少し、胸が痛い。 #twnovel

2013-02-25 17:53:40
志水了 @rssyubinbou

真夜中、ひっそりと手紙が届いた。封蝋だけのまっさらな手紙は手紙の主とだけ誓った、復讐に向けてのやりとりだ。誰もいないはずの部屋でそれを開けようとした時、頬を撫でるように寄せられた唇の感触がして、背筋が凍りつく。「なあに、それ」スカーフを弄ぶ彼女は、手紙の中の。 #twnovel

2013-02-18 22:06:40
志水了 @rssyubinbou

その受付嬢は会う度に違う人になっていた。かろうじて目元で分かるのだが、注意深く見ないと気が付かないだろう。どうしてそんなに雰囲気が全く変わるのかと問いかけると、彼女はポイントは香りを変える事なのだと言う。なぜだか棚に色とりどりの香水瓶が並ぶさまが思い浮かんだ。 #twnovel

2013-02-18 08:14:49
志水了 @rssyubinbou

あなたはいつだって優しい。どんな事を言っても笑っているから、どうすれば怒ってくれるのかと思わず頬を引っ掻いていた。手に残った嫌な感触と、どうしたの、と私を心配しながら微笑むあなた。その頬から滴る血を見て、ひどく虚しくなった。 #twnovel

2013-02-13 12:22:05
志水了 @rssyubinbou

眠りが浅い夜は決まって同じ夢を見る。怖いくらいに青い深い海と、防波堤の端に立つ少女がいる夢を。海と同じ色の目を持つ少女は何かを待つように海を眺めている。ある日の夢、少女の前に飛沫を立てて何かが現れた。イルカだ、そう思った時には、少女は防波堤から足を蹴っていて、 #twnovel

2013-02-13 01:23:29
志水了 @rssyubinbou

喫茶店の窓際には、いつも金平糖の入ったビンが置かれていた。誰も触っていないようなのに、いつの間にか数が減っている。ある日ふと金平糖へ目を向けると、すうと幼子のような手が浮かび上がって、驚いて声を上げる。声に驚いたのかぬっと姿を現したのは、獣耳をつけた少女だった。 #twnovel

2013-02-07 18:18:54
志水了 @rssyubinbou

起きた時から何となく調子が悪かった。それでも休むことはできなかったので、具合の悪さを押して準備をしていると、台所から味噌汁の匂いが漂ってくる。普段は朝食なんて絶対に用意してくれないのに。調子が悪いのを見ていたのだろうか。少しだけ重い身体が軽くなった気がした。 #twnovel

2013-01-23 19:19:57
志水了 @rssyubinbou

ふと用事を思い出し、いつもとは違う道を曲がった。少し歩くと急に周りが暖かくなって、顔を上げる。そこには咲いていないはずの桜が咲いていて。寄り道先でその事を尋ねると、どうにも春が待ち遠しくて仕方ない猫がいるらしいとの事だった。桜の傍に佇んでいた猫を思い出していた。 #twnovel

2013-01-19 08:19:35
志水了 @rssyubinbou

暗い道を歩いていると、少しずつ周りが白んできた。眠りについたかのような静けさの国道の横を二人、口を結んで歩いていく。明け方が朝に変わる頃、並んで歩く二人の関係も終わるのだろう。目を細めた先には、終着点となる駅の看板があった。 #twnovel

2013-01-17 08:22:48
志水了 @rssyubinbou

時々彼女は灯台近くに立って海を見ていることがあった。何を見ているのだろうと疑問に思った時、海からざばりとくじらが顔を出す。灯台を頼りにする船のように、くじらも彼女に会いに来ているのだろうか。あれから数年。未だにその答えは分からないまま、今日も彼女は佇んでいる。 #twnovel

2013-01-15 18:50:29
志水了 @rssyubinbou

居場所がないと感じていた頃、私達は大人になればと駅のホームで話していた。あれから十年。私は大人になったけれど、どこか居場所のない虚無感はそのまま抱えている。大人になったあなたは、なんか帰り辛いと小さく笑っていた。大人になればなんて、幻想だったのだ。 #twnvday

2013-01-14 13:17:22
志水了 @rssyubinbou

薄暗い部屋で何かを踏んづけた。暗くて何か分からないが、床に液体を広げながら転がっていくので、きっとワインの瓶だろう。昨日までは、みんながいる暖かい部屋だったのに、今日からは僕ひとり。捨て猫なんてもんじゃない、と赤黒く広がる染みを見ながらひっそりと笑った。 #twnovel

2012-12-26 18:11:48
志水了 @rssyubinbou

クリスマスの朝。そっと子供達の部屋を覗くと、まだ眠っているようだった。深夜まではしゃいでいたもんなと目を枕元に向けると、そっと置いたプレゼントのそばに小さな袋が。綺麗なそれは用意していないもので、思わず息を呑む。ひょっとしたら、これは。この大きさだと妖精かもね。 #twnovel

2012-12-25 13:24:00