リレー小説

cuo @QO_cuo

リレー小説やります。参加者は @maitea919 @krdyna @QO_cuo です。ハッシュタグは #怪説

マイティ @maitea919

@krdyna @QO_cuo 2月も終わる頃だというのに、春の気配なんて全くない。今朝は雪もちらついている。今年の寒さは本当に異常だ。暖房のききも悪いしもう一度寝直そうかと考えていると、階段を昇る足音が聞こえてきた。｢ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ｣ #怪説 猫の日の当番は黒田さん！

熊人 @krdyna

@maitea919 @QO_cuo そう呟いてみたところで､この部屋のチャイムは鳴らない｡壁の向こう側で､鍵を開ける小気味良い音と､軽い足音が聞こえた｡つい先日ここに越してしてきたばかりの､嫌みなほど爽やかな笑顔の“お隣さん”だ｡朝帰りの生活音まで爽やかなのが忌々しい｡ #怪説

cuo @QO_cuo

@krdyna @maitea919 気怠い体を何とか起こして、薄いコーヒーを入れる。ヒーターのカチカチいう音と隣の物音を聞きながらテレビをつけると、ローカルテレビが奇妙なニュースを伝えていた。見覚えのある景色が画面に映り、あやうくコーヒーを取り落としそうになった。 #怪説

マイティ @maitea919

@QO_cuo @krdyna 慌ててサイドテーブルに置かれた手帳を捲る。半年前からつけ始めた夢日記は最近では細部まで正確に記入するようになり、登場人物の似顔絵まで書かれている。ブラウン管の向こうに広がる世界は、確かに繰り返し夢に見、手帳に書き留めた世界そのものだった。 #怪説

熊人 @krdyna

@maitea919 @QO_cuo 早鐘のように打つ心臓を宥めようと､ひとつ｡大きく息をついた｡これは､夢だ｡夢でなければ起きてすぐに夢を､或いはその断片をこの手帳に記録する｡これはあの夢を俯瞰で見ているにすぎないのだ｡コーヒーをわざとゆっくりすすり､テレビに向き直る｡ #怪説

cuo @QO_cuo

@krdyna @maitea919 夢で何度も見た、あの湖がテレビのなかにあった。頭のなかを覗かれているような浮游感。夢日記のスケッチと見比べる。湖の横の壊れかけた塔、不自然な形に伸びた木、全てが同じだ。ニュースは、湖で突如居なくなった少女について伝えていた。 #怪説

マイティ @maitea919

@QO_cuo @krdyna 肩に届くくらいの真っ直ぐな黒髪、透けるように真っ白な肌、左目の下の泣きぼくろ。映し出されたその姿は、毎晩のように夢の中で逢っていた彼女に他ならなかった。そういえば今日はあの夢を見ていない。ここ半年毎日見ていたというのに… #怪説

熊人 @krdyna

@maitea919 @QO_cuo あ｡違う｡これが『今日の』夢｡ともすれば夢を夢と自覚できなくなる意識に活を入れ､慣れない明晰夢の感覚をつかもうと､軽く足踏みをする｡夢と分かれば何も不思議ではない｡ただ､夢の中で彼女の存在がここまで離れたのは今までにはないことだった｡ #怪説

cuo @QO_cuo

@krdyna @maitea919 さて。テレビを背にして、扉をあけた。足音もなく階段を滑り降り、空き地の前を通り、坂を下り、酒屋の角を曲がると、いつもの湖のほとりだ。枯れて倒れた丸太の上に腰掛けて、懐からタバコをとりだした。夢の中でだけ、喫煙する癖がある。#怪説

マイティ @maitea919

@QO_cuo @krdyna 全てがいつも通りだ。ただ一つ、傍らに彼女がいないことを除いては。そういえば先ほどまで騒いでいたはずのテレビクルーの姿がどこにもない。あれは彼女の不在を告げる為だけのものだったのか。この世界のルールを教えてくれた彼女の不在は何を意味するのか。 #怪説

熊人 @krdyna

@maitea919 @QO_cuo 頭を巡らそうとしても､考えが纏まらない｡深く吸った煙を吐く｡彼女のいない居心地の悪さを紛らわそうと､立ち上がりかけたその時､手首を何者かに掴まれた｡ーー瞬間､ついさっき出たはずの布団の中で目を覚ます｡しかし手首の感覚は消えない｡ #怪説

cuo @QO_cuo

@krdyna @maitea919 身体を起こしてベットにこしかける。違和感の残る手首をさすりながら、気味が悪いなと思う。頭も痛い。手帳の夢日記には「彼女は不在」とだけ記した。時計は既に正午過ぎ。今日はひさしぶりに予定がない。気分転換に外で食事でもしよう。 #怪説

マイティ @maitea919

@QO_cuo @krdyna とりあえず乾いた喉を潤そうと冷蔵庫を開けると、ミネラルウォーターと海苔しか入っていないことに気がつく。どうやら食料品の買い出しも必要そうだ。適当な服を見繕いながらランチの店を考える。こないだ見かけたあの店、落ち着いた雰囲気で良さそうだな。 #怪説

熊人 @krdyna

@maitea919 @QO_cuo つま先を鳴らしながら玄関の鍵を閉めると､隣のドアが開いた｡｢あ､こんにちは!｣お隣さんはいつも通りの爽やかな笑顔で挨拶だ｡｢あ､こ…こんにちは｣ばつの悪さを払拭しようと声を張ろうとしてつっかえ､へらへらと曖昧な顔で返す｡いつも通りだ｡ #怪説

cuo @QO_cuo

@krdyna @maitea919 「僕、今からお昼なんですけど良かったら」いきなりの誘いに言葉を失っていると、すっかり乗り気の彼はお店の説明までしながら先に立って歩き出した。断りそびれてしまった。仕方なくついて歩く。彼はずっと喋っている。気のない返事で聞き流し続ける。 #怪説

マイティ @maitea919

@QO_cuo @krdyna 夢にも爽やかなお隣さんは出てくるが、時折こちらを振り返りながら意気揚々と先導する彼とは違う。彼らはみんな、こちらの世界で関わりのあるものと少しずつ似ていてしかし確実何かが違う。夢だから、で片付けて良いものなのだろうか。 #怪説

熊人 @krdyna

@maitea919 @QO_cuo 上の空で彼に追従していくと､いつの間にか店に着いた｡そう歩いていないはずだが､歩かせてしまって済みません､と大袈裟に悪びれる彼にまたいつもの曖昧な笑顔で返し､席に着く｡ここのお勧めはスープパスタらしい｡少し迷い､日替わりランチを頼む｡ #怪説

cuo @QO_cuo

@krdyna @maitea919 食事が出てくるのをぼんやりと待つ。しばらくメニューを眺めていた彼が、急に声を低くして問いかけてきた。「そういえば、朝のニュース見ましたか？女の子が殺されたって」珍しくもないニュースだけど、と思いながらも、何故かひっかかりを感じた。 #怪説

マイティ @maitea919

@QO_cuo @krdyna 「今日はまだニュースに目を通していないんです。」正直に告げると、あんな大ニュースを知らないなんて！と、彼は絵に書いたように大仰に驚いて見せた。先程までより更に声を潜めて続けられる言葉に頭の中は真っ白になり、手首の感覚だけがよみがえる。 #怪説

熊人 @krdyna

@maitea919 @QO_cuo テーブルの下で手首を握り締め､こみ上げる奇妙な不快感に耐える｡ｰｰ可哀想に｡彼の口からその言葉が出た瞬間､耐えきれずに立ち上がった｡店内に椅子の音が大きく響く｡驚いた顔の彼と料理を運んできた店員に小さく頭を下げ､逃げるように店を出た｡ #怪説

cuo @QO_cuo

@krdyna @maitea919 店を出たあと、どこをどう歩いていたのかよく覚えていない。ただ気がついたら誰もいない公園のベンチにうずくまっていた。彼の語るニュースは、今朝の夢と奇妙に符合していた。隣の県の大きな湖のほとりで少女の手首だけが見つかったという。#怪説

マイティ @maitea919

@QO_cuo @krdyna このままここで眠ってしまえば、また夢の中で彼女に会えるだろうか…。いや、だめだ。頭を振ってポケットの中を確認する。どうやら隣の県に行けるくらいの所持金はあるようだ。気を抜くとすぐに眠ろうとする自分を叱咤しながらゆっくりと駅に向かう。 #怪説

熊人 @krdyna

@maitea919 @QO_cuo その異変に気づいたのは､既に駅がすぐ先に見えてきた頃だった｡視界が悪い｡それが霧だと分かるには少し時間がかかった｡人気のない駅のホームに､静かに電車が滑り込んでくる｡休日の昼間だというのに車内に人の姿は無く､嫌な予感が確信に変わった｡ #怪説

cuo @QO_cuo

@krdyna @maitea919 まだ、夢のなかなのか。確信の持てない足取りで電車に乗り込む。窓の外を青空と鉄塔だけが、するすると流れていった。知らない名前の駅に止まると人が乗り込んできた。窓の外を眺めるふりをしながら横目で盗み見る。白く細い足が座席からのびている。 #怪説