アイカツおじさんと幼女先輩

感動のストーリー
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サイバー @cyber_jun

『アイカツおじさんと幼女先輩』 「おい、終わったら台から離れな」  幼い女の子の声がした。 「え、あ、あ」  アイカツおじさんが挙動不審に声を出す。 「あたしはねえ、ママが買い物を終えるまでにオデ、キメなきゃいけないのさ」《1/18 》

2013-02-23 01:57:48
サイバー @cyber_jun

女の子は100円玉を指で上に弾いて、落ちるところを反対の手の平に収めた。 「見ない顔だね。このシマは初めてかい?」 「あ、う、あ」 「じゃ、あたしが先輩だね!」  これがアイカツおじさんと幼女先輩の出会いだった。《2/18》

2013-02-23 01:58:12
サイバー @cyber_jun

幼女先輩は負けた。後で見ていたアイカツおじさんは歯がゆかった。コーデが合っていれば、自分がプレイしていれば。その思いも言葉にならない。 「あ、あ」 「笑うかい? 慰めはいらないよ。あたしは全力を尽くしたんだ」《3/18》

2013-02-23 01:58:26
サイバー @cyber_jun

アイカツおじさんは自分のリュックを探る。そこから取り出したのはカードの束だった。 「あ、あげる。ダブりだから、レアカード。あげる」  その瞬間、幼女先輩の顔が険しくなった。小さな手がアイカツおじさんの頬を叩く。 「てめえ、ふざけんな。幼女ナメんなよ!」《4/18》

2013-02-23 01:58:54
サイバー @cyber_jun

床にカードが散る。アイカツおじさんは頬の痺れと散らばるカードに「あ、あ」と動揺した。その様子に幼女先輩も苦い顔をする。 「悪い。大人気なかった。すまない」《5/18》

2013-02-23 01:59:12
サイバー @cyber_jun

しゃがんでカードを一枚ずつ拾い集めながら、幼女先輩はアイカツおじさんに顔を上げた。 「トレードだ。あたしのレアカードとあんたのレアカード。交換しよう」  アイカツおじさんは嬉しそうに何度も頷いた。《6/18》

2013-02-23 01:59:27
サイバー @cyber_jun

「これ、これが欲しい!」  幼女先輩はまるで幼女のように目を輝かせた。アイカツおじさんのダブりには幼女先輩も見たことのないカードがたくさんあった。 「これとあたしのカードを交換」《7/18》

2013-02-23 01:59:42
サイバー @cyber_jun

手元のカードを見る。幼女先輩の持つ全てのカードは明らかにアイカツおじさんのダブりレアカードより少ない。それでも幼女先輩はトレードという取引に興奮を隠せなかった。自分のレアカードにダブりのない少女先輩にとってトレードは身を削るに等しい。それでも楽しかった。嬉しかった。《8/18》

2013-02-23 02:00:01
サイバー @cyber_jun

自分のカードから一枚を差し出そうとしたとき、幼女先輩は気付いてしまう。決定的な自分の落ち度に。 「トレードは中止だ。今日のことは忘れてくれ」  アイカツおじさんは取り乱す。 「なんで、なんで! どうして!」《9/18》

2013-02-23 02:00:22
サイバー @cyber_jun

幼女先輩は自分のカードを愛おしそうに撫でた。諦めにも似た悲しい表情を。 「あたしのカードは」  気付いてしまったのだ。折り目、擦り傷。そしておじさんの全てのカードがスリーブに保護された新品に近い状態であるのを。 「あたしのカードは汚い! これは対等ではないのだ!」《10/18》

2013-02-23 02:01:34
サイバー @cyber_jun

頭を掻きむしりアイカツおじさんは叫ぶ。悟ったのだ。折り目も擦り傷も。何度も何度も幼女先輩がカードを並べて組合せを考えて試行錯誤して少ないカードで何度も何度もカードを動かしてそれが傷になろうともなろうとも。 「汚くなんかない!」《11/18》

2013-02-23 02:01:58
サイバー @cyber_jun

証なのだ。アイカツへの熱なのだ。尊いのだ。 「僕はこのカードとトレードする! これは絶対な取引だ!」  ボロボロのカードを掲げ、アイカツおじさんは天へ吠えたのだった。《12/18》

2013-02-23 02:02:24
サイバー @cyber_jun

幼女先輩のママが来た。アイカツおじさんは苦手な笑顔で会釈したが、ママはすぐに目を逸らした。  手を繋がれ、幼女先輩は去ってしまう。途中、振り向いてウィンクをしてくれた。アイカツおじさんはずっとずっと見送った。《13/18》

2013-02-23 02:02:41
サイバー @cyber_jun

幼女先輩が嬉しそうにママにカードを見せると、ゲンコツを頭に落とされて肩を落とす姿をアイカツおじさんは脳裏に強く焼き付けた。 「ちょっと、いいかな」  肩を叩かれアイカツおじさんは振り向いた。そこにはスーパーの警備員。《14/18》

2013-02-23 02:03:00
サイバー @cyber_jun

「あのね、その。苦情が来てるんだよ。いや、君は何も悪くないんだよ。でもね、わかるよね?」 「あ、あ」 「わかるよね?」 「はい」《15/18》

2013-02-23 02:03:17
サイバー @cyber_jun

アイカツおじさんと幼女先輩。二度と出会うことのないふたり。  果たしてそうだろうか。このふたりの繋がりは消えてしまうのだろうか。  祈れ。祈ったか。必要か。不要か。  アイカツおじさんは死なない。《16/18》

2013-02-23 02:03:36
サイバー @cyber_jun

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」  全国一位! 全国一位!  アイカツおじさんは使ったカード達を天に掲げる。《17/18》

2013-02-23 02:03:50
サイバー @cyber_jun

その中の一枚はボロボロのカード。折り目の付いた擦り切れたカード。  そしてすぐに台から離れて店を出る。聞こえるのだ。 (おい、終わったら台から離れな) 「はい、先輩!」  そこには、清々しいアイカツおじさんの顔があった。    アイカツおじさんと幼女先輩《18/18終》

2013-02-23 02:04:20