経済学PhD Studentによる「小野理論」の「政策論」と「元論文」のロジックのちがいに関する解説

Public FinanceのPhD Studentである@akknkさんが、「小野理論」の「政策論」と「元論文」のロジックのちがいについて解説してくれました。 私はこの話題をすべて追っていたわけではないので、関連するツイートは集めていません。ひとまず@akknkさんがナンバリングをされているツイートだけを時系列順にまとめてあります。適切だと思われるツイートを適宜追加してくださると助かります。 元論文: 続きを読む
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akknk @akknk

来月からバタバタしそうなので、夏の間にやっていたことをまとめてみる。この夏は、元同僚の@yirwkの助力を仰ぎつつ、「小野理論」を勉強してみた。いくつか発見があった。長くなるが、これから連続tweetする。

2010-08-30 11:28:38
akknk @akknk

(1)「小野理論」をめぐる議論については、不毛な印象を持っていた。だが、小野氏が学術誌(2001IER)での「理論」と、一般向けインタビューなどで語っている反証可能性の低い「政策論」を区別すると見通しがよくなった。

2010-08-30 11:29:28
akknk @akknk

(2)「理論」も「政策論」も、不況期に公共事業が必要、という結論は同じ。だが、ロジックが違って、理論では「公共支出増→需給ギャップ縮小→デフレ解消→現在の消費増」が経路。(@ iida_yasuyuki氏のブログによる説明が分かりやすい。)

2010-08-30 11:29:39
akknk @akknk

(3)政策論では、失業者は遊休資源だから活用すれば効率性向上、しかも、失業者は機会費用がゼロだから、役に立つ公共事業を見つけるのは容易、ことが論拠。批判者(@iwmtyss@kazikeo@ikedanobの各氏)は、「政策論」を批判の対象にしてて、

2010-08-30 11:30:23
akknk @akknk

(4)失業者の機会費用がゼロだとは考えられないとか、役に立つ公共事業を見つけられるほど政府は賢くない、などとしている。

2010-08-30 11:30:35
akknk @akknk

(5)小野氏の著作では、これらの批判は予定されていて、再反論も用意されている。そもそも「政策論」には背後にモデルがなくて反証可能性が低いこともあり、水掛け論的であるというのが個人的印象。(少なくとも経済学者は、)理論をベースに議論をしないと生産的ではないというのが私の意見。

2010-08-30 11:30:47
akknk @akknk

(6)ところで、なぜ小野氏は、理論と政策論で違うことを言っているように見えるのか。この点は、氏に直接メールで聞いたが、氏は理論、政策論のロジックの両方とも重要だと思っているが、政策論のロジックの方が一般には分かりやすいから、そっちの方が多く世に出ている、とのこと。

2010-08-30 11:31:09
akknk @akknk

(7)個人的な印象では、理論のロジックのうち「デフレ解消→現在の消費増」の部分は、いわゆるリフレ派とも同じなので(手段は全く違うけど)、一般向けに分かりやすく説明するのも可能な気がしているが、小野氏の印象は違うようだ。

2010-08-30 11:31:46
akknk @akknk

(8)さて、それでは、理論を見ると何が分かるのか。

2010-08-30 11:31:59
akknk @akknk

(9)理論モデルでは、標準的なラムゼイモデルをベースに、貨幣保有を効用関数にいれ、しかも貨幣保有の限界効用に下限β>0があるとする。このとき、定数が一定の条件(βと時間選好率の大小関係など)を満たすと、家計が最適化をし、しかも価格が伸縮的でも、財市場に不均衡が継続するとする。

2010-08-30 11:32:19
akknk @akknk

(10)価格が伸縮的でも不均衡が生じるのが特徴的なのだが、これは、不均衡が、長期短期を問わず、内生的な要因では永久に解消されないことも意味する。ケインズ理論(IS-LM)では、短期的な価格硬直性で不均衡が生じるため、中長期には価格調整による自律的な景気回復がありうるが、

2010-08-30 11:32:41
akknk @akknk

(11)小野理論ではありえない。理論的に想定される民間主導での景気回復は、消費者の選好が変化する場合のみで、小野氏は、本格的な回復には世代の交代を要するとまで言っている。つまり、小野理論は「不況」の理論と言っているが、「不況」のタイムスパンが通常の定義と、大きく異なる。

2010-08-30 11:33:03
akknk @akknk

(12)小野理論に従うと、普通の意味での景気対策(一時的な公共支出増)は、需要増加の効果が無い。なぜなら、景気対策をやめた時点の公共支出減により、元の不均衡に戻ってしまうから。

2010-08-30 11:33:15
akknk @akknk

(13)ケインズ理論でも、景気対策をやめると、公共支出の支出増の停止は需要減をもたらすが、中長期的には価格調整が進んで自律的に需給が改善されるので(「民需の自律的回復」)、その時点で景気対策を停止すると、元の不均衡に戻らないと考えられている。

2010-08-30 11:33:30
akknk @akknk

(14)したがって、小野理論でいう需要増のための公共事業は、「恒久的」に行うことが想定されていることになる。このため、財源を国債で将来に繰り延べるわけにはいかず、増税などで恒久財源を調達することが必要になる。(この点は、直接小野氏からもウラを取った)

2010-08-30 11:34:37
akknk @akknk

(15)もう一点指摘すべきだと思うのは、実証について。小野理論は、実証的な裏づけがわずか(2004JER)しかない。とくに、結論の前提として、さきほど書いたとおり定数に関する条件が必要なのだが、この条件が現実に満たされるのか、実証的なサポートがない。

2010-08-30 11:34:48
akknk @akknk

(16)すでに長々と書いてきたが、言いたいことはここから。小野理論に対する批判ぽいことも書いてきたが、個人的には小野氏はリスペクトの対象だ。

2010-08-30 11:35:38
akknk @akknk

(17)なぜなら、「○○のブレイン」と言われた「経済学者」はこれまでもいたが、「本物の経済学者」が「自分のオリジナルな研究をベースにして」「政権中枢に影響を与えた」のは空前の例である。(説明ロジックが、理論と政策論で食い違っているのが玉にキズだが)

2010-08-30 11:35:54
akknk @akknk

(18)一大学院生として書生論を吐くと、経済学は科学であり、経済学者の主張はただ一つの真理に収斂されることを目指さなければならない、と思っている。そのため、学者の主張は反証可能な形式で提示され、批判はその形式を対象に行われるのが筋となるはず。

2010-08-30 11:36:19
akknk @akknk

【訂正】(19)もう少し平たくいうと、経済学者が反証可能性の低い命題をめぐって水掛け論(に見える議論)に終始していると、世間の目からは「経済学にはいろんな説があってよく分からんな」という印象しか残らないんじゃないか、ということが言いたい。

2010-08-30 11:47:10
akknk @akknk

(20)今回の小野氏の活躍を絶後の例としないためにも、経済学者は原論文ベースで議論して、建設的な批判を行うべき。流行りじゃないから「あやしい」という扱いにするのは、少なくとも学問・学者のあり方としてはあやういものだし、何より、もったいないと思う。

2010-08-30 11:36:43
akknk @akknk

(21)では、実務者は、小野理論をどのように受け止めるべきか。小野理論は、異端であり、とくに実証的には未完成なものである、というのもまた事実だと思う。一定の仮定と厳密な推論による思考実験であり、議論の整理のための、一つの極端なベンチマークと捉えるべきか。

2010-08-30 11:37:04
K. Teshima 手島健介 @tetteresearch

@akknk 個人的には@yirwkさんの指摘やhttp://ow.ly/2wZxP、岩本先生の「「デフレの罠」脱却のための 金融財政政策のシナリオ」 http://ow.ly/2wZB0 の注17での指摘との関係が気になります。

2010-08-31 06:29:55
Yuichiro Waki @yirwk

@tetteresearch http://ow.ly/2wZxPで触れた小野モデルの特殊な部分というのは、均衡において企業の供給する財の量と家計の需要する財の量が一致していなくてもいいというところです(仮に価格が伸縮的であっても!)。

2010-08-31 13:47:57
Yuichiro Waki @yirwk

@tetteresearch この手の不均衡モデルで、家計・企業ともにプライス・テイカーだと仮定するのは正当化されないと思いますが、小野モデルではそうなっています。ニュー・ケインジアン・モデルでは、企業は設定した価格の下での需要を必ず満たさなければならないという制約があるので、

2010-08-31 13:53:37