【娯楽小説論・試論】(小説と文章力編)

主に娯楽小説の文章力についてのメモ的まとめ
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鳥山仁 @toriyamazine

(1)ふうらいぼうさんにサジェスチョンをされたので、断片的に娯楽小説の書き方について説明してみる。まずは文章から。

2013-02-17 00:29:39
鳥山仁 @toriyamazine

(2)【娯楽小説論・試論】(小説と文章力編)  まず結論から述べると、娯楽小説に限らず小説全般に言えることだが、文章力は換金性の低いスキルで、文章が上手くても大ヒット作が書けるとは限らないし、またデビューできるとも限らない。

2013-02-17 00:33:49
鳥山仁 @toriyamazine

(3) その理由だが、以下の具体例を挙げて説明する。AというキャラクターがBというキャラクターを殴ったシーンを文章に起こしたものを、文章力が低い書き方から高度な書き方に並べたものである。

2013-02-17 00:35:23
鳥山仁 @toriyamazine

(4) (1) AはBを殴った。 (2) AはBの顔面に拳を叩きつけた。 (3) 左足を大きく踏み出したAは、半身を捻りながら握った右手を正面に突き出すと、Bの顔面を貫くように打った。

2013-02-17 00:35:49
鳥山仁 @toriyamazine

(5)  上述の(1)~(3)は、いずれも同じシーンを文章化したものだが、ナンバリングが大きくなるにつれて記述が具体的になり、それに従って要求される文章力が高度になることが一目でお解りいただけると思う。

2013-02-17 00:36:51
鳥山仁 @toriyamazine

(6)  それでは、どうして文章力は換金性が低いのかといえば、答えは簡単で「文章は一文の文字数が少ないほど読みやすい」からだ。当たり前の話だが、描写文が細密であればあるだけ文章量が増える。実際に(1)~(3)に行くにつれて文字数は増えている。

2013-02-17 00:37:10
鳥山仁 @toriyamazine

(7)  大野晋は『日本語練習帳』(岩波新書)の中で、一文の長さの限界を100字前後とするのが妥当としているが、この説は概ね正しいものと思われる。40字を1行とするフォーマットの小説の場合、100字は二行半だから確かに長い。読解力の低い読者なら容易に脱落する長さと言って良い。

2013-02-17 00:37:50
鳥山仁 @toriyamazine

(8)  つまり、文章力のある作家は「文章は一文の文字数が少ないほど読みやすい」という原則に反する文章を書く傾向が明確にあるのだ。しかし、こういう事を書くと、したり顔で「文章は短く書く方が難しいんですよ」と言い出す人が出てくるのだが……

2013-02-17 00:38:54
鳥山仁 @toriyamazine

(9) ……この手合いに小説を書かせると、まず間違いなく下手な文章しか書けない。  どうしてそうなるかについても、具体的に文章を例示することで説明していこう。

2013-02-17 00:39:46
鳥山仁 @toriyamazine

(10)  先ほどのAというキャラクターがBというキャラクターを殴ったシーンの続きを書いたとしよう。殴られたBがAを殴り返し、更にAがそれに応戦する……という流れを少ない文字数で文章化する。 (4) AはBを殴った。 BはAを殴り返した。 殴り返されたAはBに反撃した。

2013-02-17 00:40:31
鳥山仁 @toriyamazine

(11)  どうだろう? 確かに短くて分かり易いが、幼稚な上に無味乾燥だ。これは、連続して同じ単語を繰り返し使ったことによって与えられる印象で、幼児のように語彙が少ないようにしか読めないために起こる。

2013-02-17 00:41:28
鳥山仁 @toriyamazine

(12)  長文の場合でも、同じ単語を連続して使用するケースはあるが、ここまで幼稚な印象にはならない。つまり、長文は小説内の描写の反復を避ける効果を期待できるし、実際にこの効果を狙って細密な描写を行うわけだ。

2013-02-17 00:41:43
鳥山仁 @toriyamazine

(13)  もっとも、前述したように、あまりにも一文が長いと読み切れない読者が出てきてしまう。また、それ以前に大半の作家や志望者に、優れた長文を書くだけの文章力を期待できない。

2013-02-17 00:42:44
鳥山仁 @toriyamazine

(14)  そこで考えるべきは「どうしたら短い文章しか書けない作家が、同じ単語の繰り返しを含む類似文の反復を回避するか」というテクニックだ。次に代表的な例を挙げてみよう。 A.擬音を使う (5)  ボクン!  AはBを殴り倒した。

2013-02-17 00:43:18
鳥山仁 @toriyamazine

(15)  擬音の使用も幼稚に見えるという理由で一部の作家や読者が毛嫌いする傾向があるが、(4)の文章に比べれば遥かにマシだ。ただし、貴方が編集者志望なら、この手の文章を書く作家は、まず文章力の向上を見込めない事は覚悟しておいた方が良い。

2013-02-17 00:44:05
鳥山仁 @toriyamazine

(16)  その理由は擬音を使うからではない。起こった出来事の時序列がひっくり返っている事が問題なのだ。つまり、現実であれば殴った結果として音が発生するのだから、時序列通りに文章を書くと、 (7)  AはBを殴った。  ボクン!  になるはずなのだ。

2013-02-17 00:44:57
鳥山仁 @toriyamazine

(17) ところが、この書き方だと擬音以降の文章が繋がらない。小説を書くための文章構成としては最悪なものの一つであることは誰にでも分かる。そこで、時序列の前後が入れ替わるわけだが、このタイプの文章をナチュラルに書く作家は、他の文面でもこの手の倒置を頻繁に使う傾向があるのだ。

2013-02-17 00:45:53
鳥山仁 @toriyamazine

(18)  このため完成した小説全体が文章構成上の倒置だらけになり、編集サイドで校閲する際に、一文を直すと他の文章まで直さざるを得ないという地獄コースを体験できる。私はこの作業を何度も経験しているが、作家の技術力向上を促すためには忍耐と適切な文章例の提示が必須となる。

2013-02-17 00:48:45
鳥山仁 @toriyamazine

(19)  まだ擬音を使うにしろ、 (7)  ボクン! という音と共にAの拳がBにめり込んだ。  という文章であれば、文書力の向上が期待できる。辛うじて擬音と行動描写が同時に発生してることが「という音と共に」という文章で説明されているからだ。

2013-02-17 00:49:23
鳥山仁 @toriyamazine

(20) B.比喩表現を使う (8)  Aの放った拳は矢のように直進してBの顔面を捕らえた。  比喩表現を使った文章は、擬音を使うよりもずっと幼稚さが減り、しかもイメージが膨らむ。ただし、比喩を多用すると今度は拳が矢になったり石つぶてになったりと、冗長で読みにくくなる。

2013-02-17 00:50:31
鳥山仁 @toriyamazine

(21) いわゆる「ポエム化」だ。これを避けるために、比喩表現を使う作家は並行して省略形を多用する傾向がある。 C.省略形を使う (9)  殴った。  殴った。  殴った。

2013-02-17 00:51:25
鳥山仁 @toriyamazine

(22)  これは作家の夢枕獏が実際に書いた文章だが、コンビネーションで殴る行為が反復性を帯びていることを上手く利用した例だ。細密描写が難しい場合は、ここまでバッサリと省略形を使用するのも一つの手法だろう。 (以下略)

2013-02-17 00:51:54
鳥山仁 @toriyamazine

……と書いてみたんですが、自分で言うのもなんだけど長いよ! 駄目だこりゃ。

2013-02-17 00:53:21
鳥山仁 @toriyamazine

@nemesis_00x お役に立てたようで良かったです。皆さん、割とナチュラルに処理しちゃってるところですからね。

2013-02-17 01:07:10
鳥山仁 @toriyamazine

@nemesis_00x 本論をやったらどれだけの長さになるか見当がつかないですね……。物語の進行速度については、実は簡単で「うんちくや状況説明を入れると量が増えるが遅くなる」だけなので、仮に書くとしてもサラッと流れる部分ですね。SFの設定や歴史小説の背景説明が典型でしょう。

2013-02-17 01:24:47