山本七平botまとめ/【能力主義】/相続まで能力主義で律していた「貞永式目」以降の日本社会/~男女間で差別が無かった男女同恩の相続原則~

山本七平著『1990年代の日本』/器量絶対の価値観/能力主義/28頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【能力主義】まず能力主義である。 これは地下人からのしあがって能力なき過去の権威を棚上げして政権をとった武家にとっては当然の考え方であり、全国を実質的に支配している北条氏はその象徴のようなものである。 その人々の法だから能力主義は当然の発想であろう。<『1990年代の日本』

2013-03-04 06:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

②従って人を評価する場合、過去の業績と現在の能力が基準になる。 そして面白いことにこの能力主義は相続にまで適用される原則なのである。 このような相続法は、おそらく、人類史上、きわめて珍しいものであろう。

2013-03-04 07:27:49
山本七平bot @yamamoto7hei

③中国に於ては家督は一子が相続し、家産は均分相続であり、またイスラム法は完全な均分相続で、女子の取り分は男子の三分の一と定められている。 いわば血縁が絶対なのであって、その中に各人の能力という要素を入れる事は許されない。 ところが式目ではむしろ能力が主であり、血縁は従である。

2013-03-04 07:57:39
山本七平bot @yamamoto7hei

④この点では少なくとも武家は中国を卒業していた。 当時の相続は、譲状を渡せば、渡された者が相続し、渡した者は隠居し、幕府がそれを承認する安堵状を出すという方式である。 この譲状を渡す相手は、惣領(長男)庶子(末子)を間わず、男女を問わず、妻でもよく、養子にすれば他人でもよい。

2013-03-04 08:27:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤未亡人が養子をもらって相続さすことは式目ではできるが、律令ではできない。 当然のことだが、中国や韓国では、今も昔も想像もできぬという。 さらに、譲状は一子のみに渡してもよいし、子供たちにそれぞれ分け与えるという形で渡してもよい。

2013-03-05 18:23:08
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥この場合は親権者(所有権者)の意志が絶対で、幕府も容喙できない。 では、どのような基準で譲状を渡す者を選ぶのか。 それは式目には記されていないが、譲状を書かずにポックリ死んだ場合はどうするかが、二十七条に次のように示されているので、その基準がわかる。

2013-03-04 08:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦「未処分の跡(譲状を渡さないうちに死亡した者の所領)の事。右、且は奉公の浅深に随い、且は器量の堪否を糾し、おのおの時宜に任せて分ち充てらるべし」 「奉公の浅深」とは簡単にいえば「年功への評価」であり、「器量の堪否」とは「能力の有無」である。

2013-03-04 09:27:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧いわば過去の実績と能力の有無によってケース・バイ・ケースできめろと言っているわけで、長子が相続せよとも、血縁順位を相続順位とせよとも言ってはおらず、もし順位をきめるとなれば、実績・能力順位ということになる。

2013-03-04 09:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨このように相続にまで能力順位が出てくる社会とは、一言でいえば「器量(能力)絶対」の社会だということである。

2013-03-04 10:27:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩そしてこの武家の行き方はしだいに社会の原則となり、能役者の「一子相伝は器量による」にもなれば、後に町人が、経営能力なき息子を若隠居させて長女に優秀な番頭を迎えて婿として跡をつがすという行き方にもなる。 だが、血縁順位は誤認することはないが、能力順位は時として判定を誤る。

2013-03-04 10:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪いうまでもなく「器量の堪否」(能力の有無)の基本は所領の保持・経営能力だが、同時代の家訓(北条重時家訓)に 「我がれうを扶持すべしと親も見給ひ、家を譲り給ふうへは」 とあるように、当然に、隠居した両親の扶養の義務を負う。

2013-03-04 11:27:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫だが譲状を渡し、幕府が安堵状を出せば所有権の移転は確立し以後は納税その他の義務も相続人が負う事になる。 ところがそうなってから、所領の経営もできず、または、しようともせず、親の扶養もしないとなったらどうすればよいのか。 簡単にいえば能力の有無の判定を誤った場合の処置である。

2013-03-04 11:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬面白いことに、その場合は相続を取り消して、改めて別の人間に相続さすことができるのである。 これを悔い還し(くいがえし)といい、幕府が安堵状を出した後でもできると、二十六条に次のように定められている。…(条文省略)…

2013-03-04 12:27:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭いわば相続は血縁に基づく確定的な権利ではなく、あくまでも「奉公の浅深」と「器量の勘否」によって発生する権利だから、それに対応する義務を履行せずまた履行する能力がなければ権利を失うわけである。 そしてこの権利・義務は、男女で差がなかったし、結婚しても変わらなかった。

2013-03-04 12:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮…律令では結婚したら悔い還しができなかった。 だがそうなると、娘に所領を譲ってこれが結婚すると、両親は全く無権利になり、「リヤ王」と同じような運命に陥るかも知れぬ。 すると、その危惧から娘を相続から除外することになり、女性は相続の権利を全く失う結果になってしまう。

2013-03-04 13:27:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯そこで男女とも同一権利・同一義務にした訳である。 男女同権という言葉はないが男女同恩という考え方があり、相続の面では差別がない。全ては等しく「奉公の浅深・器量の堪否」が基準なのである。従って所領の経営もせず両親の扶養もしない息子から所領を悔い還して娘に譲る事もできる訳である。

2013-03-04 13:57:43