西崎憲さんの「中国の不思議な腹」

西崎憲さんの伝奇小説風掌編です。このまま流れてしまうのが勿体ないのでまとめてみました。
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西崎憲 @ken_nishizaki

【中国の不思議な腹1】まだ子供である支屈は迷子になった。ただ迷子になったのではなく徹底的に迷子になった。村の道を歩いている時に大きな鳥にさらわれてしばらく空を運ばれてから山中に落とされたのである。幸い怪我がなかったものの支屈は途方に暮れた。何しろ深い山であった。

2013-03-06 14:13:03
西崎憲 @ken_nishizaki

【中国の不思議な腹2】 白い岩山は幽鬼のように周囲に聳え立っている。それにもう夜が近づいていた。しばらくあてもなく彷徨っていると周囲は黒犬の背中のように真っ暗になった。支屈の目は涙でいっぱいになった。

2013-03-06 14:13:17
西崎憲 @ken_nishizaki

【中国の不思議な腹3】ふと気がつくとずっと向こうに光が見えた。光は動いていた。支屈は立ちあがって光を追いかけた。光にはなかなか近づけなかったので長いあいだ追いかけることになった。そして疲れ果てた頃、光の動きが止まった。支屈はそろそろと光に近づいた。

2013-03-06 14:13:24
西崎憲 @ken_nishizaki

【中国の不思議な腹4】 光っていたのは男だった。男の頭髪は藪のように逆立ち、体が全体に光っていた。顔を見ようと隠れて前に回ると、光っているのは男の腹であることが分かった。

2013-03-06 14:13:34
西崎憲 @ken_nishizaki

【中国の不思議な腹5】男の腹には大きな穴があいていて、そこで二匹の小獣が闘っていた。光はその二匹の小獣が放っていたのだった。あまりの不思議に支屈はただ息をひそめてその光景を見守った。

2013-03-06 14:14:10
西崎憲 @ken_nishizaki

【中国の不思議な腹6】そうして疲れのためにいつか眠ってしまったようだった。目を覚ますと日はもうすでに昇っていて、男の姿はなかった。その場所からしばらく下ると村の外れに出た。

2013-03-06 14:14:15