東京大空襲について親戚から聞いた話

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三月十日、東京大空襲の日だ。

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東京大空襲で、祖父母や叔父叔母が下町で逃げ遅れて、皆と違う方向へ行き、危うく助かった話を繰り返し聞いて記憶に残っている。

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浅草へ続く大通りの大火焔を渡り切り、逃げてたどり着いたのが、今のスカイツリー辺りらしい。

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同じ頃、家人の祖父は兵役のため錦糸町辺りにいて、しばらく行方不明。もう亡くなったと思われたが、全身真っ黒になっていたが無事に帰ってきたとのこと。

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母は千葉の田舎に疎開していて、東京方面の空が真っ赤になっていたのを見た。東京からと思われる焼け焦げた通帳が空から落ちてきていたのを見て、もうダメだと思ったそうである。

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私の親族は皆、疎開していて無事か、下町にいたが奇跡的に助かっており、亡くなっていない。

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下町、特に錦糸公園辺りの被害は大きく、亡くなられた方々の状況は、酷いものであった。

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祖父母達が助かったのは、皆が集中して逃げた錦糸公園へ逃げなかった、のも一つの要因。

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祖父が消防団へ出ていて、なかなか帰って来ず、皆が錦糸公園方面へ逃げて行くので、祖母は、自分も一緒に逃げようか、迷った。

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遅れて帰ってきた祖父が、あっち(錦糸公園方面)はダメだ。と言う情報を得ており、反対方向へ逃げることを決めた。

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北へ逃げて大変だったのは、浅草通りが火で一杯に燃えさかっており、渡れそうになかった事。

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とても渡れそうにない焔の中を、なんとかくぐり抜けた先は、北十間川。

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北十間川の橋を渡れたのか、詳しく聞いていない。恐らくこれも困難であったろう。川もまた焔であふれていた。そして人も。

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焔で熱くて熱くて、川に飛び込みたいくらい、だったそうだが、飛び込まなくてよかった。飛び込んだら川面で燃えて亡くなっていただろう。

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そうして逃げて着いたのが、今の押上駅やスカイツリーあたり。この辺りは昔、石炭を置くボタ山の空き地があったそうで、子供は遊びに行くな。と言う所。

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避難地でどうしていたか、話は聞いていない。

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もっともっと祖母から話を聞いておけばよかった。

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下町はすべて焼けて、はるか向こうまで見えるくらい、何もなくなった。

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祖父母の家や店、商売道具は全てなくなり、職人としての仕事を続けることができなくなった。

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それでも少し違う場所で生活を始めた。私がよく訪れていたのは、こちらの方だ。

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父方の家も同じ下町で、全て失った。しかし、何とも不思議な事に、こちらの家族も無事だった。少し違う場所で生活を始めた。

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父母が言う昔の家と、私が知っている下町の家は場所が違う。その違いは戦前と戦後。東京大空襲前後である。

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伝え聞いた話ばかりだが、私が聞いた三月十日東京大空襲の話は貴重、なんとか語り継ぎたいと思う。