基礎からはじめる大砲のメカニズム(旋回・仰俯編)

佐山二郎先生の「日本陸軍の火砲 高射砲」 (光人社NF文庫) www.amazon.co.jp/dp/4769826605/ は高射砲だけでなく大砲一般を知るのに良い本なんだけど、冒頭の砲架についての解説が少々難解 ならば一般的な火砲の旋回・仰俯機構について解説してみましょうか、と
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

佐山センセの高射砲本( http://t.co/PPVuSBor7J )について、先日は「砲架まわりの解説がわかりにくい」なんて言っちゃいました。でも言いっぱなしも悪かろうと思うので、ちょっと解説を試みようかとか

2013-03-22 21:01:24
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一般的な火砲の構造はこんな感じです。今回は細かいところには触れません。砲を左右に振る小架の旋回機構(橙色の矢印)と、上下に振る揺架の仰俯機構(紫色の矢印)について、代表的な仕組みを見ていきます http://t.co/VeavGyqr9r

2013-03-22 21:05:52
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まず仰俯機構から。最も一般的と思われるのは「歯弧式」と呼ばれるもので、歯車と歯付の大きな弧(歯弧)を組み合わせたものです。歯車を回すことで、歯弧が砲耳(仰俯軸)を中心に回り、砲に任意の仰角を与えることができます http://t.co/dxb9aCnCos

2013-03-22 21:08:44
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この方式は高射砲から榴弾砲、戦車砲といった非常に広い範囲の火砲で用いられています。馴染みのある? ところでは、陸自にも配備されているFH70榴弾砲でしょうか http://t.co/SudLgeRIJg シャーマンも部分的にこれ http://t.co/837QuhtUJM

2013-03-22 21:12:33
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歯弧式は様々な砲に利用できますが、砲の重さが歯車に直接かかるため、一般に逆転防止機構が必要になります http://t.co/t8XJtGRoeN 本邦の92式歩兵砲ではウォームを介して逆転止めとしています。歯弧が小架側についていて、先の図とは上下関係が逆なことにも注目

2013-03-22 21:17:38
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お次は歯弧式の変形。歯弧とウォームギアの組み合わせです。ウォームは旧軍用語で螺桿(らかん)と言いますが、螺桿それ自体が逆転防止機構となる上に、歯弧と噛み合う面積が広いので強度に優れます。ただし、仰俯の速度は遅くなりがちではあります http://t.co/po6sm3FlRc

2013-03-22 21:22:10
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歯弧とウォームを組み合わせた例は、歯弧と歯車の組み合わせほど一般的ではありませんが、構造が簡単かつ頑丈なため、出来るだけ軽く作りたい砲では時折見かけます http://t.co/aDcT2IQf9R 英軍の6ポンド対戦車砲が最も有名でしょうか。先の図より一段と単純化されてます

2013-03-22 21:25:40
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歯弧を用いない方式としては螺旋式(単螺式)があります。ボルトとナットの組み合わせで回転運動を伸縮運動に変え、仰俯をとります。ボルトは旧軍用語で牝螺(ひんら)。これで図のように砲の後ろを引き下げるか、前を持ち上げます http://t.co/h3xoMo0KLg

2013-03-22 21:29:24
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螺旋式は歯弧式よりも軽量で、しかも歯が噛み合う面積が広いために、はるかに強固頑丈です。昔は迫撃砲の前足や平射砲に用いられていましたが、最近でM777のような軽量榴弾砲にも使われています http://t.co/9NZaUDtfeB 先の図とは逆で、砲の前方を押し上げるスタイル

2013-03-22 21:34:04
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陸自にも配備されているMO120RT迫撃砲は螺旋式の変形ですが、とても興味深い構造です http://t.co/31n33QgKrE なんと砲身自体にネジが切られています。放熱も兼ねてくれそう http://t.co/lBVrhRdCYs 牽引時はこの通りで、とても合理的

2013-03-22 21:39:01
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単螺式は仰俯の速度をあまり早くできない欠点がありましたが、これを改善したのが複螺式です。単螺式の途中逆ネジのボルト兼ナットを挟み込んだ方式で、この外螺を回すことで二重になったネジが同時に伸縮します。仰俯速度は単螺式から倍化 http://t.co/fqaNYq6wE6

2013-03-22 21:44:27
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複螺式は単螺式と同様、軽量かつ頑丈で、しかも仰俯速度も(歯弧式には及ばないものの)高速です。でも迫撃砲以外にはあまり使われません。 http://t.co/5hdHN9u7iu  米軍のM1906 4.7インチ砲の例ですが、外螺に回転を伝えるメカニズムが込み入りがちなのかも

2013-03-22 21:50:44
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歯弧式と螺旋式は物理的な歯の噛み合いを用いた仰俯機構でしたが、それらを用いずに水圧機(ないし油圧)を用いる方式もあります。牽引砲は動力を備えない場合が多いので水圧式は非常に希ですが、艦砲では一般的でした http://t.co/pbkdOfNYxa

2013-03-22 21:54:47
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油圧式は弁の開閉という単純な操作によって制御できることから、大きな力を持つ仰俯機構を簡単に扱うことができます。これは重量の大きな艦砲にとって好都合ですし、制御容易なことが買われてWW2米軍戦車の初歩的なの砲安定装置にも用いられました。適当な参考写真は見つかりませんでしたが

2013-03-22 22:06:09
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お次は砲を左右に振る旋回機構について。これは砲架の形式によって取り得る方式が違いますが、現在一般的な開脚砲架の砲では、仰俯機構と同様に歯弧式が一般的です。ウォームを用いる場合もありますし、そうでない物もあります http://t.co/eDp4VNcbbP

2013-03-22 22:09:33
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歯弧式の旋回機構は非常に一般的で、例えば戦車の砲塔旋回も360度の歯弧と見なせます。 http://t.co/V17mtngrOu 先にも挙げたM777榴弾砲ではこの通り。歯弧が大架側、歯車が小架側についていますが、先の図よりはこのほうが一般的かも

2013-03-22 22:12:45
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最近あまり見なくなった単脚砲架の火砲では、歯弧式でなく螺旋式の変形とも取れる方式が一般的でした。車軸にボルト状のネジが切られており、これをナットで回して押し出すことで、砲全体が車軸上を滑ります。旋回角はあまり広くできません http://t.co/VuBSghxyRu

2013-03-22 22:17:06
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単脚砲架の車軸移動による旋回では、足が長いほど旋回可能範囲が狭くなってしまう特徴があります。旋回軸の中心は足の末端の駐鋤なので、足が長いほど旋回半径が広くなり、車軸上の移動幅が同じであれば旋回角度が狭くなるというわけです http://t.co/C8i0xtaP75

2013-03-22 22:31:41
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この特徴故に、単脚火砲の時代では、反動が大きい(つまり長い脚が必要な)砲ほど旋回範囲が狭くなりがちでした。野砲級では8度程度のところ、より長砲身の加農では4度に満たない場合もあります。一方で短砲身の榴弾砲や歩兵砲級では、単脚式でも旋回範囲10度を超えるものがありました

2013-03-22 22:37:44
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

この方式で有名な砲というと、WW2米軍の75mm M116パックハウザーでしょうか http://t.co/EjPWiiRXXn 車軸にネジが切られているのがよくわかります。他にも、WW1期までの砲はほとんどがこの方式でした

2013-03-22 22:40:05
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

最後に、単脚砲架のなかでも変りダネを。XM102 105mm榴弾砲は60年代の試作軽量榴弾砲ですが http://t.co/yDoVt7XEcR 「履帯式」とでも呼びましょうか。左のハンドルを回すと脚の末端についた履帯が駆動し、回転盤に乗った砲の尻を左右に引いて全周旋回します

2013-03-22 22:45:23
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

そんなわけで、火砲の旋回・仰俯機構の解説でした。今回挙げたのは割と一般的なもので、実際には砲の旋回仰俯機構は千差万別です。戦車等と違って機構が直に見えるので、注目してみるとなかなか面白いですよ http://t.co/n8gxOWtg9V これなんかも一目で想像つきますよね

2013-03-22 22:51:23