無礼討ちについて

室町時代の世紀末っぷりを堪能した後で、江戸時代を見直したら、 また新しい感慨があるなあと思ったところで、目に入った「無礼討ち」の話をざっくりと。 「室町時代の行動倫理あれこれ」のまとめと合わせて読んで頂けると、面白いかと。
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神無月久音 @k_hisane

TLを見直してたところ、無礼打ちの話が出てたので、ちょいと書く。

2013-03-26 17:45:39
神無月久音 @k_hisane

この無礼打ちの話は、やはりこいつ(【室町時代の行動倫理あれこれ 】http://t.co/oNAAq0VNmK )を踏まえた上で読むと、味わいが一段と増す感じで砂。ふむ。

2013-03-26 18:58:09
神無月久音 @k_hisane

江戸時代と言えば、30~40代の世代だと、士農工商の身分制度があって、武士には、無礼があった場合、他の庶民を切っても御咎め無しとする「無礼打ち」の特権があった、と習ってたわけですが、実際には、この無礼打ち、よっぽどのことがない限り、まず許されなかったので砂。

2013-03-26 17:49:01
神無月久音 @k_hisane

まず、大前提として、基本、武士は市中での抜刀を許されていません。無礼打ち云々以前に、街中で刀を抜いちゃダメなんで砂。ついでに言えば喧嘩や騒動を起こすのもダメ。あと、武器の所持も制限が掛かってます。これは江戸時代初期から法度が出ており、違反すると処罰されます

2013-03-26 17:50:30
神無月久音 @k_hisane

室町時代の話のまとめに、「市中でムッとなって孤児を切った侍」の話がありましたけど、江戸時代に同じことをしたら、確実にその侍は処罰を受けま砂。「子供の戯言程度で市中にて刀を抜くなど、武士としてもっての外」という訳で砂。最悪、切腹じゃないかなと。(なお室町時代の侍は御咎めなしの様子)

2013-03-26 17:53:46
神無月久音 @k_hisane

室町時代と比べると、江戸時代は随分変わったように見えま砂。まあ、これのキモは、処罰の理由が「人を殺したから」ではなく、「武士として自制ができなかった」からということなんですけどね。その意味では、やはり江戸時代も現代とは価値観が違うと言えま砂。

2013-03-26 17:57:24
神無月久音 @k_hisane

江戸時代、太平の世になったことで、本来、戦闘者である武士は、その本分である戦がなくなったにも関わらず、存在し続けることになったため、その存在意義を為政者としての姿に求めることになります。

2013-03-26 18:03:42
神無月久音 @k_hisane

徳を守り、己を律し、民の鑑となる事で、人心を正し、世を治める。これができるからこそ為政者であり、それができるのは武士だけである、という論法で砂。(この辺の思想がいわゆる「武士道」なのかというと、またちょいと違うわけですが、まあそれは余談)

2013-03-26 18:08:44
神無月久音 @k_hisane

そして面白いのは、この論法が逆転し、「なので、武士以外の民衆は武士と違い、己を律することなどできない」のだから、「彼らが無礼であるのはある意味当然であり、その無礼に対し、武士はいちいち腹を立てるべきではない」という話になるということで砂。

2013-03-26 18:14:19
神無月久音 @k_hisane

かくして、武士を社会階層として上に据えるための論理が裏返り、「庶民が武士を馬鹿にしても、よっぽどのことがなければ、武士は手出しができない」ため、「庶民は結構武士をからかった」という、「無礼打ち」という単語から想像されるイメージとは全く逆の状況が発生することになります。

2013-03-26 18:16:14
神無月久音 @k_hisane

で、江戸時代の記録を見てると、町人が武士に喧嘩を売ったり、露骨に馬鹿にしたりという例が結構あるので砂。荒くれ人足が道行く武士に罵声を掛けるなんてのは序の口で、酷いのになると、大名の籠をかく者たちが賃金に不満を持って、大名の籠をわざと乱暴に扱った、なんて例もあります。

2013-03-26 18:18:11
神無月久音 @k_hisane

そして気の毒なのは、そういう状況だというのに、武士には「面目」が存在し、これを潰されることは最大の恥辱である、という意識は、室町時代から続く形で残されているということでアリマス。手出ししちゃダメなのに、受けた侮辱を放置するのは、これもやはり武士として論外、というわけで砂。

2013-03-26 18:20:21
神無月久音 @k_hisane

まり、刀を抜いても、嘲笑や罵倒を聞き流したことを知られても、「それは武士として如何なものか」と言われるわけで、まさに武士からすれ「どうしろと」の世界。「武士の世」である江戸時代の筈なのに。

2013-03-26 18:23:44
神無月久音 @k_hisane

これらを踏まえた上で「無礼打ち」という言葉で象徴される法を見直すと、その意味が全く変わり、「どうしても堪忍できぬ状況で刀を抜いた武士に対し、救済の余地を与える」ための仕組みということになる訳で砂。状況から発生した矛盾に対する緊急避難用の抜け道、というわけでアリマス。

2013-03-26 18:24:48
神無月久音 @k_hisane

尤も、これが適用されるためには、厳重な審査を受けた上で、正当性が認められれば、という条件があります。「単にイラっとしたから」とか「ついカッとなって」辺りと判断されると、「そのようなことで刀を抜くなど自制が足りぬ」と、助命どころか断罪されちゃうんで砂。

2013-03-26 18:29:12
神無月久音 @k_hisane

だからこそ、無礼打ちをした武士は、すぐさま届を出し、自らの正当性を証明する必要があるわけでアリマス。無論、奉行所側も、これが本当かどうかを確かめるため、かなり細かく調べることになります。到底「武士は町人を切っても御咎め無し」なんて甘いもんじゃないで砂>無礼打ち

2013-03-26 18:31:14
神無月久音 @k_hisane

ちなみに、ここで虚偽の申請なんてのをした日には、「命惜しさに虚言を弄した度し難い輩」ということになるので、切腹か、悪くしたら打首だってあり得るので、リスク激高でアリマス。まあそれでもやっぱり色々自己弁護は入るわけですけど。

2013-03-26 18:32:30
神無月久音 @k_hisane

あと、言うまでもないですが、一度抜いたからには、相手を殺さないとこれまたダメでアリマス。「刀を抜くほどの侮辱を受けたのだから、その者は仇同然。生かしたままにするなど論外」という訳で砂。ここで町人が逃げ切ったり、生き残れたら、町人は御咎め無し、武士の方はこれまた切腹コースかと。

2013-03-26 18:33:38
神無月久音 @k_hisane

更にレアケースですが、町人が反撃して、あまつさえ武士を返り討ちにした場合ってのがあって、これまた町人は御咎め無しで、死んだ武士には「市中で刀を抜いた上に、町人ばらに返り討ちにされるなど、武士の風上にも置けぬ」となります。悪くしたら家が潰れるんじゃないですかね。

2013-03-26 18:34:35
神無月久音 @k_hisane

一応、刀を持ってない相手(でも長脇差は持ってたりしますが)に、刀を抜いて、それで負けてるわけですから、武士としての一分も立たないですしね。相手は町人だから仇討なんか恥の上塗りですし。 @baritsu たまに見かけますね。たいてい切腹してるような

2013-03-26 18:48:40
神無月久音 @k_hisane

おお、落語でもあるんで砂。一応、事例で上がってたので、実際にあった話でもあるようなのですが。 @Rogue_Monk 落語の「たがや」ですな>町人反撃・武士返り討ち

2013-03-26 18:51:18
神無月久音 @k_hisane

まあ、流石にここまで制度がしっかりするのは、江戸幕府成立後100年近く経ってからですけどね。家光の頃くらいだと、まだ旗本奴なんてのもうろうろしてましたし、戦国時代生え抜きの武将もまだ生きてましたし。血の気を抜くのに時間が掛かったわけで砂。

2013-03-26 18:37:44
神無月久音 @k_hisane

こうしてみると、室町時代とはまさに別世界のようで砂。たまに「刀持った侍が街中を右往左往してる」という点だけで「似たようなもん」扱いされることもありますが、実態を見ると、やはりかなり違うわけで、あらためて大したもんだなと。

2013-03-26 18:37:11
神無月久音 @k_hisane

ですね。あれは相手が水野十郎左衛門ですが、大人しくしてたら切腹はなかっただろうと思うので、あの頃は中間点って感じで砂@ri_syu_ 町人と武士の喧嘩の有名どころというと、やはり幡随院長兵衛ですかね

2013-03-26 19:00:07
神無月久音 @k_hisane

こんな世の中じ「空気を読む」のが至上とされるのも無理もないで砂。 @kizury 不倫した妻を制裁する女敵討ちも、真に受けて実際にやると大人気ない狂人扱いだったとか、ややこしいですよね

2013-03-26 18:47:08