開催の迫っている物書きさん向けイベント用の、ランダムお題ジェネレーターについての発言をしたところ……
こんな声が。
実際にやってみた。
「よかろう、出してみろ」 およそ鉱山町の酒場には似つかわしくない高貴な身なりの剣士が命じると、冒険者は小皿を手に取り、剣士の前へ差し出した。 皿の上にあるものは、湯気を立てるでもなければ、甘い香りを漂わせるでもない。至高の料理という謳い文句には程遠く思われる。 #神々しいちくわ
2013-03-27 20:56:27「なんだこれは。ふざけているのか」 「ふざけてなどございませぬ。これなるはチクワと申す、遠い海の彼方より伝わりし逸品」 「ちくわだと?」 赤髪の剣士は訝しげに皿の上に置かれた棒状の物体を睨み据える。 「まあいい、食べると言ったのは私だ。ナイフとフォークをよこせ」 #神々しいちくわ
2013-03-27 21:00:12「とんでもない」 冒険者は大げさに頭を振った。「ちくわの風味はかぶりついてこそ。ささ、そのままがぶりと」 剣士は少し躊躇う様子を見せたが、この場が酒場であることもあったのだろう。言われるままに皿の上に乗った棒状のものを手に取ると、がぶりと噛み付いた。 #神々しいちくわ
2013-03-27 21:02:45周りの客に緊張が走る。身構える者、テーブルの影に隠れる者までいる。剣士がいつも吟遊詩人の演奏をなじっては手元にある物を投げつけて昏倒させてきたのは、この街ではすっかり知れ渡っている。 もし口に合わなければ、至高の料理などと大口をきいた冒険者も同じ目に遭うだろう。 #神々しいちくわ
2013-03-27 21:06:39酒場に沈黙が広がる。いつしか店中の視線は赤髪の剣士と、棒状の食物に引きつけられていた。 「これは……」 「美味しいでしょう?」 冒険者はニコリと微笑んだ。 「なんという、深みと広がりを持った味だ」 剣士が口を開くや、歓声が一斉に沸き立ち、店は喝采の洪水に陥った。 #神々しいちくわ
2013-03-27 21:10:41その後、その冒険者は何処かへと旅立ってしまい、見かけたという噂すらも聞かれなかった。 姿なき冒険者は伝説となり、神々しい食物『ちくわ』を作った人物として鉱山町で語り継がれている。 赤髪の剣士は語る。 「もう一度でいいから、あのチクワを食べたい」と。 #神々しいちくわ
2013-03-27 21:13:48