モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Spring I~
- IngaSakimori
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━━まだ肌寒い四月の峠道。その空気を、赤と緑の弾丸が切りさいていく。 枝に色づく若葉よりも、縁石の向こうに降り積もった落ち葉の方が目につく季節。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:02:08冬の間、我が者顔で路上へ姿をみせていた猿たちも、ようやく山の奥深くへと走り去ろうとする季節だった。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:02:54(速い……な。やっぱり) 前には太い緑。その後ろには、細い赤。 先行するライムグリーンの車体、ZRX1200のLEDテールランプを見つめながら、彼は大型モーターサイクルの加速力というものを、嫌と言うほど思い知らされていた。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:04:17月夜見第一駐車場からその先へ続くのは、ジェットコースターのような下りである。 『鉄の溝渡り』の区間を様子見程度にこなし、『52段のどん詰まり』のブレーキングで一気に距離を詰めたつもりだったが、その先のロングストレートで再びZRX1200の姿は遠ざかる。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:06:21「ちぇっ」 ブレーキレバーにかけた人差し指と中指。彼はそこから力を抜いて、強くスロットルを握りしめる。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:07:09アクセルのワイドオープン。この言葉を作り出したのは誰だろう。 フラットすぎるほどフラットなトルクのV型2気筒エンジンが、澄ました顔でタコメーターの針を押し上げていく。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:07:4280……90……107km。ディスクの表面をなめる程度のちょんブレでフロントフォークを沈めると、そのまま彼の赤いマシンは左へ切り返した。 対してZRX1200は、続く右コーナーへの進入をはじめようとしている。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:08:35(少し、遠いな……) 目測で150メートルも離されただろうか。サーキットなら絶望的なほどの差といえる。 だが、ここは峠道だった。東京の西端にある聖地だった。 彼らの走るこの道、大多磨周遊道路はまだまだ長く━━そして、手強い。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:09:33品がある、と言うには荒々しすぎるZRX1200のエンジン音はしかし、その絶頂には至っていない。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:11:33無理もないことだった。 公道の、しかも峠道の下りで大型モーターサイクルのパワーを使い切ろうとしたら、どれほど熟練したライダーであっても、命のストックが二桁は必要となるだろう。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:12:03(タイヤは……まだ余裕だ。でも、おやっさんのマシンは足が啼いてるな……) そのマシンの状態を知りたければ、後ろから追うべし。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:12:54彼の━━三鳥栖 志智(みとす しち)の眼前には、先行するZRX1200のすべてがさらけ出されていた。 前後におごったハイグリップタイヤは、今もってエンジンの発生する膨大なトルクを受け止めているが、サスペンションが細かな路面の凹凸を吸収しきれていない。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:13:39減速帯の上を駆け抜けるときは特に明瞭だった。 リアが安定しないため、思い切った速度を維持したままコーナーへ突っ込めないのだ。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:14:30(ヘリポート前で抜けるか?……いや、まだ無理か……) 追い越しのタイミングをじわじわと図る、志智の視界へうつるタコメーターの針は10000rpm以下に落ちることがない。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:15:25ZRX1200がふらりとよろめきつつクリアするS字コーナーを、彼のマシンはノーブレーキで駆け抜けていく。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:16:41ロングストレート━━その後、減速帯! ぐらぐらと揺れるZRX1200のテールを睨みつけながら、突き上げる震動を無視するかのように彼はレイトブレーキ。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:16:51左へのキツいコーナリングを終える頃には、遙か遠くあったはずのZRX1200が、志智(しち)の目の前にいる。 ヘリポート脇の右コーナーを二台のモーターサイクルは、からまりあった糸のような近さで駆け抜ける。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:18:57このコーナーの『R』がゆるやかでありながら、アクセル全開で抜けられない理由は二つある。 路面が荒れ気味であることと、すぐ先に下りのストレートが二連で待ち構えているからだ。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:19:48「━━勝負っ」 ハーフバンク気味のZRX1200に対して、志智のマシンはフルバンクに限りなく近い体勢のまま、3速11000rpmを維持している。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:20:45コーナー出口で4速へシフトアップする━━そのとき、マシンを起こした前方のZRX1200が巨馬に蹴飛ばされたように加速した。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:22:15志智の赤いマシンはフルスロットルをキープ。 排気量の差でじわじわ差が開いていこうとするその時、ZRX1200がブレーキングをはじめた! #mor_cy_dar
2013-04-03 12:22:22「もらったぁ!!」 その叫びが相手に聞こえているはずはない。 だが、ブレーキングの減速Gに耐えつつ右を━━自分を追い抜いていく赤いマシンを見た『おやっさん』の表情にはしてやられたという衝撃が、ありありと浮かんでいる。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:23:39━━減速をはじめたZRX1200。 志智(しち)のマシンはそれを右側から追い越した位置で、ブレーキングをはじめたのである。 #mor_cy_dar
2013-04-03 12:25:05