物理における「教育」の役割について

2013年4月7日(日)、大阪大学理学部物理(原子核物理)の教授だった故・杉本健三先生の記念シンポジウムに出席して、「教育」や「歴史と伝統」について少し考えさせられた。その雑感tweetのメモ。
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MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

お祭り準備中の方に、物理関係の研究会が土日にあると言ったらびっくりされたが、研究会の参加者にとっては、例えば土日にお祭があるのと同じではないか。どちらも生活の一部、日常の延長。生活の延長上にある。人に会うことが目的だったりする。

2013-04-07 00:22:56
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

今日は、懐かしい人達の多くにお会い出来るような気がする。昨日から参加出来なかったのはいささか残念だが、仕方ない。

2013-04-07 07:37:16
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

日曜日の研究会。期待通り、多くの同窓生に出会った印象。阪大がなぜ、これほど原子物理で独創的な発展を遂げたかというと、やはり長岡半太郎という、当時の物理学だけでなく学会全体の重鎮を初代学長に呼んだことが大きいと私は思う。長岡は終戦時、帝国学士院長だった。その弟子達の成果が開花した。

2013-04-07 21:02:31
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

阪大は帝大として設立が遅れたが、近隣に京都帝大があったから。新設する以上は特徴を持たせようと、学長の長岡、八木アンテナで有名な八木秀次、数学者の 正田建次郎らを理学部に配置。この時赴任した菊池正士は幕末の箕作家(初代東大教授の菊池大麓の系譜)の出身、彼が阪大の原子核物理を育てた。

2013-04-07 21:22:15
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

菊池大麓は、日本物理学会の創設者の一人。最初は東京数学会社と呼んだ。会社とはsocietyの当時の翻訳で、今なら学会と訳す。創設者のもう一人、柳楢悦は和算家だった。菊池大麓は幼少時からイギリスに留学。当時のマックスウェルらの活躍を間近に見て、数学と物理をセットに考えたのだと思う。

2013-04-07 21:27:56
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

あまり知られないかもしれないが、戦前は物理学会と数学会は一つの数物学会だった。分かれたのは戦後のこと。その源流に位置する一人が明治期の菊池大麓で、後に文部大臣もやった。日本の数学教育の源流にも位置する。その親族は江戸時代から学者の系譜で有名だった箕作(みつくり)家。

2013-04-07 21:33:26
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

1932年に設立された大阪帝大の理学部物理で、原子核物理の源流に位置する菊池正士は、後に(戦後設立された)東大原子核研究所の所長も勤める。その菊池らが戦前のサイクロトロンを作った。戦前には日本に3台あって、理研、京都帝大、そして大阪帝大。阪大のものは戦後、大阪湾にGHQが廃棄。

2013-04-07 21:38:39
たくろう @takurou_f

@y_mizuno さすがにお詳しいですね。ところで、Wikiによると石原純という方は長岡半太郎の弟子とありましたが、ご存知ですか。

2013-04-07 21:42:34
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

石原純は、アインシュタインが日本に来日した時(確かノーベル賞受賞の年だったか)に、その国内での案内役を勤めたり、確か矢野健太郎(数学者)の先生だったのでは?(記憶違いなら失礼) @takurou_f Wikiによると石原純という方は長岡半太郎の弟子とありましたが、ご存知ですか。

2013-04-07 22:18:16
たくろう @takurou_f

@y_mizuno さすがですね。私は石原純を存知上げていなかったのですが、そのお孫さんが理科ハウスhttp://t.co/pZEmnvMIrNという「世界一小さな科学館」を作られています。確かにとても小さいのですが、子どもたちがワクワクする空間なんです。(矢野さんは違うかも)

2013-04-07 22:30:59
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

その菊池正士を源流とする、今の阪大理学部物理・原子核物理の多くの関係者が、菊池の弟子筋の故・杉本健三の記念シンポとして土曜、日曜の研究会に集まった。今ではいろいろな大学や研究所に散っている感じもあるが、こういう具合に横に切ってみると、大きな動きと、様々なつながりが見えて興味深い。

2013-04-07 21:50:39
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

門地、家柄は今の社会ではあまり関係なくなっているが、江戸時代には社会維持のためのエリート教育は当然だったし、その結果、学者の系譜も生まれた。文系では林羅山を始祖とする林家が大学頭を代々勤めた。理工系では箕作(みつくり)家が洋学の源流で、その後の日本の数学と物理学の伝統に繋がった。

2013-04-07 21:57:02
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

補足すれば、日本の洋学の源流にあるのは、もちろん一つではなく、和算の伝統も凄いし、民間の暦法家の活躍も素晴らしい。緒方洪庵らの医学の伝統も重要だし、そこで学んだ一人、福沢諭吉は日本で最初の物理教科書『訓蒙窮理図解』を慶応4年(明治元年)に書いている。三浦梅園や帆足万里らも源流。

2013-04-07 22:05:14
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

例えば和算の伝統が、市民生活のどこにあったかというと、難しい問題が解けると神社に奉納していた、というあたり。これを算額と呼ぶ。https://t.co/mtKjzLdFG1 あるいは江戸初期に数学書の『塵劫記(じんこうき)』が出版されるや、問題集や参考書、回答集も多く出たとか。

2013-04-07 22:13:33
naomi @naomi091123

「和算の難しい問題が解けると神社に、奉納していた」というのは、優雅というか、信じられないような習慣です。解いた問題も、図形自体が美しく、算術が、芸術と融合しているような感じがします。@y_mizuno : 例えば和算の伝統が、市民・・ http://t.co/ylpoOejmcQ

2013-04-07 22:39:02
T.K. fukushimaタグ付けよう @aizujin_k

現代のネット掲示板のような意味合いもあったと思います。湯島天神の奇縁氷人石に見られるように、神社仏閣が情報拡散収集のハブとして機能して機能していた面があったからです。@naomi091123 、優雅というか、信じられないような習慣です。@y_mizuno

2013-04-08 08:50:59

「湯島天神の奇縁氷人石」とは。http://www.yushimatenjin.or.jp/pc/keidai/kien.htm

steinberg @rackowsteinberg

@y_mizuno 彼は一度仙台で失敗してますからね。その反省を生かして大阪で陣頭指揮をとったというか。

2013-04-07 23:03:38
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

何でしたっけ、「1924年水銀還金実験の「成功」を発表…」でしたか。なるほど。。。 @rackowsteinberg 彼は一度仙台で失敗してますからね。その反省を生かして大阪で陣頭指揮をとったというか。

2013-04-07 23:22:29
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

もちろん日本の学問の系譜という言い方をすると、京都大学もすごいし、東京大学もご立派、東北大も、名古屋大学も、先日訪問した広島大学も、九州大学もそれぞれに、それぞれの時代の中で、研究の世界で気を吐いている。ただ私が驚いたのは、阪大が核物理の分野で、これ程の人材養成を行っていた事。

2013-04-07 22:31:45
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

そんなことを言い出すと、例えば岡山大学も、私が知る範囲で、よい研究をやっていると思うし、岐阜大学もこの分野でよい成果を上げている。慶応はこの分野でかなり伝統があるし、早稲田も最近は(理論・実験とも)元気な研究が増えている。東京理科大は戦前は東京物理学校で超有名、今も人材を輩出。

2013-04-07 22:37:28
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

つまりこの土日の研究会で(私は日曜しか出席できなかったが)「伝統」とか「歴史」とかいったものの見えない力のようなものに改めて驚いた次第。そういえばノーベル賞受賞者の研究室にはやはり受賞者が多いのは知られた事実(と思う)。学問も、徒弟制度だと思うこともできるが、実はそうではない。

2013-04-07 22:43:34
早川尚男 @hhayakawa

@y_mizuno 学生時代にズッカーマンの「科学エリート」という本を読み、結構衝撃を受けました。ノーベル賞学者の系譜を論じています。例えばラザフォードの弟子が如何にノーベル賞を沢山取ったとか。ところで石原純と言えば原阿佐緒ですが、興味深い記念館があります。

2013-04-07 22:58:04
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

物事の学びとか理解とか、あるいはその精神とかガッツとか、言葉とか教えとか、信条とか方針、それを体現した人間。そういったものから、いったい人間は何を学んでいるのだろう、といったこと。その不思議さには驚くばかり。決して偶然ではないだろう。言葉で言えば、言葉で言えないものを学ぶこと。

2013-04-07 22:45:59
MIZUNO Yoshiyuki 水野義之 @y_mizuno

言葉で言えないことの重要性に最初に気付いたのは、歴史的に多くいると思うが、近代化以降ではマイケル・ポランニーがその一人。『暗黙知の次元』の著者。兄は経済学者、彼は化学者。研究室活動の分析で暗黙知概念を発見。これは文字通り、マニュアルや法令遵守では伝わらない。そのことの重要性。

2013-04-07 22:50:19