2013.4.10 福島第一原発事故賠償に関する様々な問題点 解説 弁護士 中所克博先生

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弁護士中所克博 @K_Nakajo

東電が3月29日に公表した「宅地・建物・借地権等の賠償に係るご請求手続きの開始について」という不動産賠償の基準。末尾の「*5」では,いわゆる損害賠償による代位に関し,不思議なことを言っている。

2013-04-10 01:12:21
弁護士中所克博 @K_Nakajo

東電が言っているのはコレ。「事故発生当時の価格を全額賠償した後も,原則として,引き続きご請求者さまにご所有いただきますが,避難指示解除までの間は,公共の用に供する場合を除き第三者への譲渡を制限すること等についてご承諾をお願いいたします」という部分。どう理解するべきか?

2013-04-10 01:14:44
弁護士中所克博 @K_Nakajo

まずは基本を押えよう。民法422条は,「債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する。」と言うておる。

2013-04-10 01:15:59
弁護士中所克博 @K_Nakajo

つまり,家や土地について,東電が損害額の「全額」の賠償義務を履行した場合,その家や土地の所有権は東電に移転するということを謳っているのが,民法422条である。全額の賠償を受けたらさあ大変!先祖伝来の土地や建物を東電に取られてしまう・・・。

2013-04-10 01:18:48
弁護士中所克博 @K_Nakajo

不動産損害に関し,最初にADRで東電との和解を成立させたいわゆる1号案件では,民法422条に基づく代位(=東電に所有権が移ってしまう事態)を避けるため,わざと「全額」の賠償を止めて95%くらい賠償に止めたと記憶している。

2013-04-10 01:21:18
弁護士中所克博 @K_Nakajo

このように,民法422条をそのまま適用すると,不動産について全額の賠償を受ける→その不動産の所有権などは東電のものになってしまう・・・こんな結果となってしまう。

2013-04-10 01:22:31
弁護士中所克博 @K_Nakajo

東電が公表して支払を始めようとしている不動産賠償の基準では,民法422条に基づく原則を逆転させ,東電が全額を賠償しても,原則として,その家や土地の所有権を東電のものにするのは止め,賠償を受ける前と同じく,被害者の所有とすることにしましょう!・・・こう言っている。

2013-04-10 01:24:50
弁護士中所克博 @K_Nakajo

まず,民法422条と正反対の扱いをすることは許されるのか?これは,民法422条が強行法規か任意放棄かという問題である。もしも強行法規だとすれば,民法422条に反する扱いは無効になってしまう。結論は任意放棄,全額賠償しても所有権を貰わない=求償しないは賠償する者の自由だからである。

2013-04-10 01:27:15
弁護士中所克博 @K_Nakajo

しかして,民法422条のルールを逆転させ,全額を賠償しても家や土地の所有権はそのままであり,依然として被害者の所有のままということになる。だが,コマッタことが起きる。全額賠償を受けたらもはや所有権は要らないという被害者もいるだろう。そんな場合はどうすれば良いのだろうか?

2013-04-10 01:29:13
弁護士中所克博 @K_Nakajo

不動産について「全額」の賠償を受けたから,もう所有権は要らないよ。このような意思を尊重するだけに留まらない。所有権を持っていると,それ相応の負担を課せられる。例えば固定資産税等の納税義務。例えば民法717条の土地工作物等の所有者の責任。

2013-04-10 01:33:56
弁護士中所克博 @K_Nakajo

民法717条1項は,「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」と言う。

2013-04-10 01:36:05
弁護士中所克博 @K_Nakajo

土地や建物につき,全額の賠償を受けた場合,所有権を必要とする被害者と必要としない被害者とが現れ得る。そうであれば,被害者に選択権を与えるべき・・・,そんな意見もあるようだ。だが,被害者による個々の選択に委ねることにした場合,ある地域の土地の所有は虫食い状態になってしまうだろう。

2013-04-10 01:39:26
弁護士中所克博 @K_Nakajo

全額の賠償を受けたとき,所有権を欲するか東電に引き取らせるか,被害者が自由に選択するという方式には賛成しない。やはり「所有権は東電に移らず被害者のもの」を原則としたうえ,所有権を欲しない被害者との間では個別対応するというのが合理的だと思う。

2013-04-10 01:42:04
弁護士中所克博 @K_Nakajo

東電が,不動産賠償基準の「*5」において,「『原則として』引き続いてご請求者さまにご所有いただきます」と言っているのは,例外として個別対応の余地を残すという趣旨であろう。「原則として」は些か分かり辛いが,このような意味であれば賛成できる。ただ,「ご所有いただきます」は気色悪い。

2013-04-10 01:45:38
弁護士中所克博 @K_Nakajo

ところが,東電基準が述べている後段は,理解に苦しむ。全額を賠償しても,原則として従前のまま被害者の所有とすると言いながら,「避難指示解除までの間は,公共の用に供する場合等を除き,第三者への譲渡を制限する」と曰っている。どんな法的根拠で所有権を制限できるのであろうか?

2013-04-10 01:48:38
弁護士中所克博 @K_Nakajo

全額賠償→民法422条により東電が所有権を取得する→逆転させ被害者の所有権を奪わない・・・こうであれば,私的自治の原則に照らし,所有者である被害者は,所有物を売ろうが担保提供しようが煮て食おうが焼いて喰おうが自由なハズ。にもかかわらず,なぜ東電が譲渡等を制限できるのか???

2013-04-10 01:52:18
弁護士中所克博 @K_Nakajo

譲渡等を制限しようとする東電の腹の中を探ってみる。不動産について全額を賠償→予想外に早く避難指示が解除された→しまった払いすぎたぜ!全額を払うべきではなかった→払いすぎた分を被害者から取り返そう→被害者の不動産が取り返しの有力な引き当てになる→∴ 被害者による譲渡を制限する。

2013-04-10 01:55:29
弁護士中所克博 @K_Nakajo

では,東電の立場に立ち,被害者に所有権を残しながらも譲渡等を一定期間制限することができる理屈を考えてみる。原則は民法422条→所有権を持つのは全額を賠償した俺(東電)だぜ→政策的配慮から被害者に所有権を持たせておいてやる!粋な計らいをしてやったからせめて制約に服して当然だぜ!

2013-04-10 01:59:10
弁護士中所克博 @K_Nakajo

難しく言うと,東電と被害者との特別の合意に基づく譲渡制限ということになりそう。つまり,民法422条の原則を逆転させる代わりに,被害者の所有権に一定の譲渡制限を課する旨を特別に合意したのだと考える。こうでもしないと,譲渡等を制限する東電基準の位置づけが定まらない。

2013-04-10 02:02:20
弁護士中所克博 @K_Nakajo

不動産賠償に関する東電基準の「*5」だけを見ても,かように理解が難しい。東電は,何ゆえに被害者の所有だとした後に譲渡等を制限できるのかについて,被害者に分かるように説明すべき責任があると思う。

2013-04-10 02:05:24
弁護士中所克博 @K_Nakajo

以上は,東電基準に基づく不動産賠償が「全額」賠償だとの仮定に立つ場合の話し。これに対し,私は,交換価値の金銭評価分を払っただけでは不動産賠償の全額を賠償したことにならないと考える。だとすれば,一部賠償→民法422条の代位は不発生=所有権が被害者に帰属するのは当然!となる。

2013-04-10 02:12:48

弁護士中所克博 @K_Nakajo

直接請求せずいきなりADRを申立てた場合。被害者は仮払補償金を相殺された経験がない。そんな被害者が ADRで早期一部和解を希望すると、仮払補償金の控除に同意しない限り、センターは早期一部和解を仲介しないそうだ。調査官と論争したとき、それがセンターのルールだと言った。

2013-04-11 22:19:29
弁護士中所克博 @K_Nakajo

受け取った仮払補償金の控除に同意しない限り、早期一部和解は無理。東電に諮り、「普通の一部和解」ができるかどうか調整する。早期一部和解ではないから、調整に時間がかかり直ぐに被害者には支払われない。それでも良いのかと尋ねられ、東電を説得せよと回答した。

2013-04-11 22:25:00
弁護士中所克博 @K_Nakajo

東電側は、東電基準による不動産損害の支払いすら認めてきていない状況。答弁書で認めてきたのは、当方請求の僅か6%だけ。にもかかわらず、6%中の17%にも匹敵する額の仮払金を早々と控除せよと言う。しかも、東電ではなく、言ってきたのは他ならぬセンター。それがルールだそうな。

2013-04-11 22:40:31