山本七平botまとめ／易姓革命が無かったことを恥じた日本人／～「民意絶対」＆「聖人政治家待望」＆「ノン・カタギへの期待」という奇妙な分裂的混乱状態にある日本～

山本七平bot @yamamoto7hei

①聖人は、はるか昔に中国にいたもので、日本にはいなかったと考えた。 だが、いないことが日本の特徴でこれが立派なのだ、と考えたのでなく、むしろ、そういう状態にないことに劣等感を感じたり、それを裏返しにして、日本こそ真の中国であると考えたりしていた。＜『１９９０年代の日本』

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②山鹿素行は『中朝事実』の中で、しきりに中国、中国と言っているが、これは日本のことなのである。 従っていまこれを紹介するとすれば「中国（日本）では……」と書かないと意味が通じなくなる。

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③また佐藤直方は、日本に革命がなかったことを恥じた。 今でも恥じている人がいるが、それは決して新しい現象ではない。

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④彼の「さて日本は（天皇は一姓をたもちて、他姓に渡らぬと云て、結構なることと云えども、正統同姓の兄や弟や従兄弟を追いのけて天子になるは、他姓を追いのけたるより甚（はなはだ）しきや…」につづく文章、その他に、これがよく現われている。

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⑤だが、「革命」といっても中国人のいう「革命」は「易姓革命」（姓を易〔かえ〕て天命を革〔あらた〕む）であり、仁義を喪失した失徳の天子を放逐討伐して有徳の聖人を天意に基づいて推戴するだけで、政治体制を根本から変えるということではない。

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⑥この点も「投票」と同様に興味深い点だが、政治体制の変革という発想、いわば「王制をとるか、共和制をとるか」といった発想は長い中国の歴史に於て皆無なのである。 その革命とは西欧的見地から見れば「革命なき革命」であろう。いわばそれはあくまでも「天が聖人を天子にする」為の革命である。

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⑦だが日本人は前述のように、統治権者を聖人とは呼ばなかったし、聖人であらねばならぬと考えて革命を起すこともしなかった。 聖人統治という考え方は、実質的には、幕府統治下の日本にはない。 むしろ、政治は少々汚れた仕事として見る健全なリアリストであった。

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⑧京極純一氏は、日本人は職業を「カタギ」と「ノン・カタギ」に分け、政治家はノン・カタギに入れていると指摘されている。 いわば少々ヤクザっぽい仕事と見ているのである。 たとえば今でも、裏口入学、裏口就職、発覚した脱税への穏便な処理などは、政治家に依頼するのが常識らしい。

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⑨そんなことは、元来聖人君子にたのむことではなく、少々ヤクザっぽいノン・カタギに頼むことのはずである。 だが一方に於てはこのことに劣等感をもち、聖人首相待望論は常に潜在している。 そしてどこかの国に「聖人政治」を求め、そう思い込んでその国を贅美する。

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⑩そして田中角栄が聖人でないと憤慨するが、しかし選挙民として彼に期待するのはノン・カタギであって聖人ではない。 そして首相が変わってもこれまたノン・カタギであることを慨嘆（がいたん）しつつ、同時に政治家には、ノン・カタギに依頼することを依頼しているのである。

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⑪この奇妙な分裂的状態もまた徳川時代からつづいている。 そして内的規範と外的規範を共に律する聖天子らしきものが出現したのが、帝国憲法と教育勅語を下布した明治天皇のときであったろう。

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⑫だが、その時代が実に「かたくるしき時代」で、ああいう時代はもう結構だと考えているのが、おそらく現代の日本人であろう。 明治は一面では西欧化の時代だが、一面では、徳川時代からつづいた中国指向、中国絶対化が、一つの現実をつくりあげた時代でもあった。

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⑬だがこの時代でも人びとは、政治家とはノン・カタギなものだという考え方をやめたわけではない。 そして、民意絶対、聖人政治家待望、ノン・カタギヘの期待、という奇妙な分裂的混乱は今もつづいているのである。

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⑭これは後述する明治の論説と現代の論説を見れば明らかだが、今後の日本に於る最も大きな問題として残されているのは、この政治意識の問題であろう。